SFP×ハイスイ×Annabelら実力派たちの初期衝動、siraph本格始動
◆このアルバムを作ったことによって、今後siraphはどうするべきかが見えた
――蓮尾さんと照井さんが同じバンドで活動するというのは、リスナーからすると驚きがありました。
蓮尾 山崎(英明)さんが加入する前のSchool Food Punishmentで、ハイスイノナサと対バンしたのが照井くんと知り合ったきっかけなので、もともと照井くんとは山崎さんよりも付き合いが長くて。
照井 School Food Punishmentのインディーズの1st(※『school food is good food』。2007年4月リリース)のレコ発で対バンしたりしていて。当時からいいバンドですげえなと思いつつ、ライバル視もしつつという感じでした。
Annabel だからこのふたり(蓮尾と照井)は男の友情でつながっている空気感があるんです。中学生の頃からの親友みたいな空気感もあるし、ライバル感もあって、羨ましい関係だなと思います。
照井 僕はこれまでコンポーザーがふたりいるバンドをやってこなかったんですよ。だから蓮尾くんの書いた曲を聴いて「うっ、いいな……」と思うと刺激はされますよね。蓮尾くんは最終的に絶対いいものを作る。謎感が強くて、いろいろ盗みたい部分もあります。あと、音色のセンスがいい。それはキーボーディストだからかなと思いますね。僕は「どうやっているか」ということより「何をやっているか」にどちらかというと重きを置いてきたんですが、蓮尾くんはもっと「最終的にどう鳴らすか」というのを大事にしていると思います。
Annabel そのこだわりは足元(のエフェクター類)を見ていてもわかるよね。キーボーディストであんな足元は見たことがない(笑)。
照井 でもそんなにギークっぽい性格じゃないよね。結構ロックな人という印象です。
――蓮尾さん作曲のM2【時間は告ぐ】は音色が豊かなのでそれが顕著だと思います。
蓮尾 ああ、そうですね……。これは最初の段階のものよりはシンプルになったんですけど、ライヴで演奏していて「この音は必要なかったかもしれない」「もっとシンプルにできたんじゃないか」と思うこともあって……もっと詰められたなと思うところもあるんです(笑)。だから【時間は告ぐ】はこれからライヴでアレンジややれることがどんどん変わっていってもいいかなと思ってるんです。
――【thor】(M3)はエッジの効いたノイズ風のギターも印象的でした。
蓮尾 これがいちばん最初にsiraphに提出した曲です。「siraphでこういうことがやりたい」というのがわりとはっきりかたちとしてあったので。
照井 僕はこの曲がこのアルバムでいちばん好きですね。いまっぽい曲ではないんだけど、他にこういうことをしている人はいないから新しいなと思う。この雰囲気はなかなか出せるものじゃない。あと、この曲はビッグなリフで、弾いてて楽しいんですよ(笑)。蓮尾くんはいろんな人と仕事をしてるから、その人の特性を生かすのがうまいなと思います。俺、10代の頃ずっとKornとかLimp Bizkitとかミクスチャーのコピーばっかりしてたから、ビッグなリフ大好きなんです。
蓮尾 そういうリフを照井くんに弾いてもらいたかったんですよね。それが自分的にも楽しい。それがライヴでどんどんバンドに馴染んでいくのも、さらに楽しいんですよね。
照井 このアルバムは「とりあえずやってみた」的な初期衝動感がありますよね(笑)。メンバーひとりひとりの楽しさや人間感が出てるのかな、という気がしています。
――今回収録されている曲は、蓮尾さんと照井さんがそれぞれsiraphでやってみたいことを自由にやってみたものでしょうか。
Annabel そうですね。今回のアルバムに入っている曲はふたりが3曲ずつ作ることは決まっていたけれど、テーマを設けて制作することはなくて。
蓮尾 それぞれがその3曲のなかで1曲、リードになるようなキャッチー寄りな曲を書けたらいいんじゃないかという話はしていました。
照井 それが僕が作った【想像の雨】と、蓮尾くんが作った【時間は告ぐ】ですね。でもそれ以外の曲がここまでコアになるとは思ってなかったんです。最初はキャッチーなものを作るつもりだったんだけど……気がついたらこうなってました(笑)。【in the margin】(M1)は全員が叩いてるみたいな感じだし(笑)。
――ははは。ポストロックの要素も強くて、照井さんのカラーが強く出ていると思います。これは特に「このドラムどうなってるんだ?」と思う曲でした(笑)。
照井 このドラムは(山下に)苦労をかけましたね……。山下くんを生かした曲を作ろうと言っていたのにもかかわらず、【in the margin】と【thor】は全然違う感じになっちゃった(笑)。彼がやっているバンド(Mop of Head、Alaska Jam)はグルーヴィなので、山下くんは変拍子や7拍子を叩いたのもこれが初めてだったみたいで。「楽しい」と言ってくれてはいたんですけど、結構つらかったんじゃないかな……。でも面白かったと思ってもらってると思いたい!(笑)
蓮尾 リズムがかなり難しい曲が多いので、レコーディングがかなり大変になりそうで「これは賢くんのためにもリズムが簡単な曲を書かなきゃ!」と思って作ったのが【カーテンフォール】(M4)です(笑)。でもそのぶんメロディにかなり苦労して……。Annabelさんの歌が入ってすごく現代的でキャッチーになったと思います。
――ポストロックやエレクトロニカの要素も強いですしコアだけど、バンドの躍動感やグルーヴもありますし、Annabelさんのヴォーカルも、個性的な音色の真ん中にちゃんと存在しているので、心地よく聴ける作品だと思います。
Annabel このバンドに限らず、歌は自己主張というより曲の表現のために存在するものにしようと心がけていて。siraphはヴォーカリストが引っ張っていくバンドというよりは、ヴォーカルも演奏の一部みたいな存在というか。それで1曲1曲で違うアプローチができたらなと。
照井 Annabelさんはものすごく歌い上げるタイプではないんだけど、声の存在感がすごくあるので、それがいいなと思ってますね。
Annabel ……でもこのスタイルも変えていかなきゃいけないのかもしれない。「今後どうしていこうかな」というのはいまも結構頭のなかで考えているんです。
照井 うん。このアルバムはメンバーのことを知るための楽曲というか。「今後どうしていこう?」という感じがあるかな……と思っていて(笑)。僕個人はこのアルバムを作ったことによって、今後siraphはどうしていったらいいかがかなり見えたんです。この音楽シーンにおける相対的な立ち位置も見ることができるようになった。