感傷ベクトル-2016.7.2 at 大塚Hearts+

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s_senvec_160702_1感傷ベクトル
感傷ベクトルワンマンライブ「近日発表」
2016.7.2 at 大塚Hearts+

躍動的でエモーショナルな熱演を繰り広げた新体制初ワンマン

取材・文:沖 さやこ
撮影:西槇 太一

 

客入れBGMのジャズから幻想的なSEが流れ暗転すると、田口囁一は淡々と鍵盤を鳴らし、ポエトリー・リーディングを始めた。【白線】。暗い道を車で走るシーンの情景描写を丁寧に言葉にする田口と、シーケンスの音でその物語に奥行きをつけるベントラーカオル。闇のなかを一定の速さで走る車に乗り、見知らぬ場所へと連れていかれるような感覚に陥った。この先どんな情景が自分を待ち受けるのか――物語の世界へと誘われる。感傷ベクトル、現体制になり初のワンマンライヴはこうして幕を開けた。

暗い森を抜けて、星空の美しい野原へと辿り着く。緊張感のある冒頭から解き放たれるように、軽やかなピアノのイントロが印象的な【星のぬけがら】へ。5人の奏でる音色はキャンバスに滲む絵の具のようで、少しずつどこまでも星が輝く夜の空を描いていくようだった。

漫画家でありギターヴォーカル、キーボードの田口囁一と、脚本とベースの春川三咲の2名で活動していた感傷ベクトルは、今年2月の自主企画ライヴを境に春川が活動を休止。それ以降は田口が中心となり、バンドメンバーには春川の代わりに白神真志朗がサポートベーシストとして参加している。メンバーがひとり変わっただけでも、バンドというものは大きく様変わりするものだ。感傷ベクトルは4月に現体制での初ライヴを行う。わたしは新体制2回目の5月頭のライヴに足を運んだが、その日と比較してこのワンマンは格段に5人の音が統一性を持っていた。

s_senvec_160702_2田口がギターを抱えて【シルク】。ポストロック的アプローチのドラムや繊細な印象を与えるピアノの音色に、アクセントを加えるのが白神のベースだった。彼の奏でる音は感情や血液の巡りのような躍動があり、音の濃度がかなり高い。正直なことを言えば、5月に観たときは彼のその個性的な音が目立ちすぎていたところがあった。だがこのワンマンではその強さと繊細さのコントラストも効果的だったし、何よりどの楽器も白神のベースと同等の高さの熱量を放っていたことで、これまで以上のバンド感を生んでいたのだ。白神の存在が、バンドメンバーそれぞれに新しい刺激を与えたのだろう。そしてこの短期間、少ないライヴやリハの本数のなかでそれをかたちにした5人の意識の高さに感心した。

s_senvec_160702_5「新体制での初めてのワンマンライヴなので緊張しておりますが、最後まで精一杯演奏します」と田口が語り【神様のコンパス】。やはり逞しさも頼もしさも増している。5人中4人がサポートメンバーという環境で、これだけバンド感を生んでいるバンドはいないのでは? メンバー全員が曲の持つストーリーや想いを深く理解して鳴らしていることが音の質感からもわかった。やはりライヴは、各プレイヤーの音楽の向き合い方がダイレクトに表れる空間なのだ。

s_senvec_160702_3ベントラーカオルによる美しく切ないピアノの導入を経て演奏された代表曲のひとつ【エンリルと13月の少年】は明らかに全員の技術が向上していたし、若干のニューアレンジも施されフレッシュだ。ベントラーと田口のピアノソロのシンクロ率も高く、5人の音も直情的。感傷ベクトルのライヴで衝動的に踊り出したくなるという経験は初めてだったかもしれない。田口が別冊少年マガジンで連載していた漫画『フジキュー!!!-Fuji Cue(‘)s MUSIC!!!-』の劇中用に制作された【ドレミとソラミミ】、【孤独の分け前】と、波打つ音がとても心地いい。【0と1】はミディアムテンポながらにグシミヤギヒデユキの力強いギターがロックバンドらしく響いていた。

MC中に田口が「皆さんスマホの用意をお願いします」と告げる。確かに彼はTwitterなどでも「スマホをロッカーに預けないでね」と言っていたので、てっきりスマートフォンに内蔵されている懐中電灯を使った演出でもするのかと思っていたのだが……彼の目的は観客に“近日発表”する自身の作品の告知をTwitterで拡散させるためだった!(笑) フロアだけでなくステージ上のメンバーもスマートフォンを取り出すという、かなり異様な光景。田口はそれを気に留めず、漫画家田口囁一の新連載『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』がジャンプ+にて始まること、感傷ベクトルとsasakure.UKのコラボシングル『鈍色、拒むサイレント』をコミックマーケット90でリリースすること、そして10月13日に新作ミニアルバム『青春の始末』をリリースすることを発表し、その場にいる全員に拡散を促した。

s_senvec_160702_4s_senvec_160702_6続いてその『青春の始末』から【大人になった僕らは】を初披露。5声のコーラスも迫力があり、演奏がとても難しい曲だとメンバーが口を揃えて言っていたが、必死ながらもその状況を楽しめている5人の姿は見ていて清々しかった。1年近く演奏し続けている【黙るしか】もよりダンサブルに。観客も笑顔でその演奏に身を任せていた。

「最後まで走り抜けようと思います」という田口の言葉のあとはラストスパート。【ストロボライツ】は導入部分もドラマティックでサウンドもエッジーにリニューアルされ、【終点のダンス】はうねるベースと越智祐介のエモーショナルなドラムによりさらにしなやかに。スローナンバーの【その果て】は詞の持つ精神性が田口のヴォーカルからひとつひとつ強く飛んできた。歌に寄り添うセンチメンタルでありながら懐の広さを感じさせるギターソロも美しい。ベントラーのピアノにグシミヤギのギターが重なり、ラストは【深海と空の駅】。メランコリックな空気を切り裂いた轟音は、天の川が空一面に広がるような輝きを放つ。【白線】から始まった夜の物語のラストを飾るに相応しい熱演だった。

アンコールで登場した田口は「楽しかった」と笑う。毎回ワンマンには課題を設けていると話す彼。今回はとにかく成功させたいという気持ちを持って、つつがない進行を心がけたという。最後に演奏された【前夜祭】は包容力を感じさせる音がとても優しく、ゆえに〈空を見ていた〉という言葉もよく映え、説得力が生まれていた。短期間でエモーショナルかつダイナミックに進化した感傷ベクトル、次はどんな姿を見せてくれるのか。バンドはかなり好調だ。

 

感傷ベクトルワンマンライブ「近日発表」
SETLIST

01 白線
02 星のぬけがら
03 シルク
04 神様のコンパス
05 エンリルと13月の少年
06 ドレミとソラミミ
07 孤独の分け前
08 0と1
09 大人になった僕らは(新曲)
10 黙るしか
11 ストロボライツ
12 終点のダンス
13 その果て
14 深海と空の駅
encore
15 前夜祭

◆Release Information
sasakure.UK changes in color of 感傷ベクトル
『鈍色、拒むサイレント』
2016.8.14 コミックマーケット90 西地区”p”ブロック-17bにて販売
[Track List]
01 鈍色、拒むサイレント
02 forgive my blue
03 鈍色、拒むサイレント(inst)
04 forgive my blue(inst)

感傷ベクトル
『青春の始末』
2016.10.13 on sale
[Track List]
01 前夜祭
02 大人になった僕らは
03 黙るしか
04 桜
05 卒業フリーク
06 後夜祭
価格:2500円
※初回盤は予約者限定生産特殊パッケージ
感傷ベクトルのWEBショップにて2016年10月13日23:55まで受付
※10月13日以降は簡易パッケージ(通常盤)のみのリリース
※ダウンロード配信は10月13日よりiTunesなどで開始予定

◆田口囁一 information
新連載『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』
原作:三秋縋 漫画:田口囁一
集英社少年ジャンプ+にて2016.8.10(水)より連載スタート

◆more information
感傷ベクトルオフィシャルウェブサイト

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