KUDANZ 『血の轍』

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ALBUM(CD)
KUDANZ
『血の轍』
2016/11/02 release
funny easel

生を授かり成長し老いて永い眠りにつくまでの
「人間の一生」を描く

 

アルバムの最初から最後まで、静かに明かりが灯る部屋で、彼の話を間近で聞いているような感覚だった。彼の話に耳をそばだて、笑ったり驚いたり、切ない気持ちになったり、気持ちが込み上げて涙が出そうになったりしながら、気付いたら眠りについていたような――現実的と言うには美しすぎて、非現実的と言うにはあたたかく感傷的だ。もしかしたら芸術というものは、そういうものなのかもしれない。

『血の轍(わだち)』はKUDANZ、ササキゲンが故郷の東北に戻り、2作目のフルアルバム。前作『何処か長閑な』を2014年5月にリリースし、持病の治療に専念するために年内いっぱいで活動を休止。2015年2月に手術を受け、術後はリハビリを続けつつ一般人としての生活を続けていた。その後2016年2月に約1年ぶりにライヴ活動を再開。音楽を作りながらひとりの人間として丁寧に暮らしていた1年間と、復活後の活動が、このアルバムには大きく影響していると思う。アルバムのコンセプトは「人間の一生」。この世に生を受け、思春期の葛藤や恋愛を経て、社会の中で様々な思想や感情を抱きながら怒り戦う青年期を迎え、大事な人に出会い、結婚して家族の大切さに気付き、親になり初めて命の尊さを知り、両親に感謝の気持ちを憶え、時には、人を笑わせ、驚かせ、悲しませ、そして年老いて死んでゆくひとりの人間の一生を、ササキが装飾を外し「歌」という芸術で表現したものである。


KUDANZ 2nd full ALBUM『血の轍』official trailer

彼は自らを「フォークシンガー」と名乗っているが、その表現方法は典型的なフォークソングのそれに括れるものではない。サウンドの基盤はフォークミュージックや弾き語りだが、ロックやシャンソンのようなニュアンスを込めた曲もある。曲によって用いられる楽器や演奏編成も異なるため、ジャンルという概念なしに楽曲それぞれを最も適した状態に持っていくことができているのでは。ギターの音色の細部まで血が通っているのはもちろんのこと、各楽器の響きまでも音楽と化している。共同プロデューサーは次松大助(THE MICETEETH)。彼のピアノは今作でも大きな役割を果たしており、ササキの歌とギターをそっと支え、時に大きく包み込むような旋律は、ササキと彼が音で会話をしているようだ。特にふたりで奏でられたM4【触れたいよ】のそれは素晴らしい。それは寄り添う恋人のようなささやかで確かなあたたかさのようでもあり、家族の団欒のような大きな愛のようでもあり、森や海などの自然に身を置く安心感のようでもある。

このアルバムの主人公である「ひとりの人間」が一体誰なのかは定かではないが、このアルバムはササキゲンのパーソナルな部分と、すべての人間が持つ普遍的な部分を同時に鳴らしている音楽だと思う。生々しい実体験や感情を綴るというよりは、彼は自分の感じた想いを通して、もっともっと遠くのものを掴もうとしている気がする。とある人物の生活を覗き込むようなときもあれば、驚くほどに自分にシンクロするような感覚に陥るときもあった。加えて彼の書く歌詞も、「言葉を綴る」というよりは「言葉という絵の具と筆で絵を描く」ような表現が多い。KUDANZのつくる歌というものは、音も歌詞も、思考を通り越して感性にはたらきかけるのだ。それは音のなかで揺蕩うように、呼吸の一部のように歌う彼の声も同様である。

彼の表現する「海」は特に、潮の匂いや潮風も立ち上ってくるようである。初めて見た海に誰しもが感じてしまう得体の知れない懐かしさが、KUDANZの描く「海」にもあるのだ。「人間の一生」と向き合うにあたり、彼は人間誰しもが無意識のうちに奥底に秘めていることと出会ったのではないだろうか。ひとりの人間の一生とは、その周りにいる人物全員の人生の一部でもあり、大きく言えば人間の歩んだ歴史なのだろう。すべての人間の血の轍の上で我々は生きている。(沖 さやこ)


KUDANZと長谷川健一と次松大助「最後の江ノ島」MV

 

◆Disc Information

「血の轍(わだち)」
2016.11.2 Release FUNN-0002 3,000円(tax in)
1. 光の渦の中で
2. 世界中で
3. 苛々するわ
4. 触れたいよ
5. 釣行思考
6. お気に召すまま
7. 静かなオーシャン
8. 最後の江ノ島
9. 君は知らない
10. 死の塔の上で
11. ロングロングタイムアゴー

◆More Information
KUDANZ official website

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