地方でも東京でもない“横浜町田”で生まれる若者のリアルなクリエイティヴィティ――3ピースバンドMade in Me.が持つローカルのプライド

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◆“死語の世界”に関する思考と心情を音楽に落とし込んだ【19hours】

Made in Me.とBlackBlankによるスプリットシングル『Reincarnation』。日本語に訳すと“輪廻転生”。楽曲そのものは“死後の世界”をテーマに制作された。

「初めは“光と闇”や、“天国と地獄”など、対極するコンセプトでスプリットを出そうと思ってました。それがブラブラのしばけん(Vo/Gt)と話をしながら考えを共有しているうちに、僕としばけんに共通して“死”という世界観が深く根付いているという事実に辿り着きました」(彦)

彦もしばけんも、近くの人間の死を経験したことや、小さい頃から死について考えることが多かった。ゆかりも身近な人間を亡くし、周りの人間が悲しみに暮れていたことに心を痛めていたが、「生まれ変わっていてくれるなら、別の世界で生きているなら」と捉えることができたことで救われた。

「誰もが明日死ぬなんて思いやしない。だけど“明日死ぬかもしれない”と思うと、少しだけ目の前の人間に対して、愛を捧げられる。そんな気がする。自分に対してもそう。何十年も見越した上での行動や計画は大切だけど、“好きなことをやる”ことは人生において大事なことです。生まれ変わりを信じるとすれば、いまのこの人生も前世の僕らにとっての“Next生まれ変わり”なので強く、たくましく、大事に生きなきゃなぁと思います(笑)」(彦)


BlackBlank – When I Was Alive (Music Video)

だがこの“死後の世界”をテーマにした制作は、Made in Me.のソングライターである彦にとって難産を極めた。優作いわく彼はいつもは「“テキトーなんじゃないか?”と思えてしまうくらい曲や歌詞をスラスラとかける人」。そんな彼の筆が止まったのは、これが彼の根源的なテーマであり、得意とするものだったから。やりたいことが多すぎて頭がパンクしてしまったからだった。それは同時に「自分が好きなことを題材にしてもわかってもらえないだろう」と思い、避けていたことに向き合うことでもあった。

「そのとき“誰かに気を使って曲を書いていた”ということに気づきました。聴いてもらうために作り手が聴き手に歩み寄ることも大切だけど、たまにはこういう自己満足のような行為も必要だと思いました。僕が逆の立場だったら、きっとその作者に親近感を感じるからです。あぁ、この人こんなことも思ってたんだなぁ。なんだかんだ人間なんだなぁ。みたいな」(彦)

その経緯のなかで、昔から彼がストックしていた〈19時間、しばらく経って、両目から雨が続いていた。〉という未完成のフレーズを軸に楽曲を作ることを決め、別の洒落た雰囲気の曲で作ろうとしていたメロディをサビに使うことにした。だがキーが違うことも影響し、まったくつながらない。その瞬間は「もう無理だわ」とお手上げだった。だがそこで彼はひとつの気付きに出会う。「僕らに見えてない世界が、階層や部屋のようにたくさんあるイメージは、このキーの違いで表現できるのかもしれない」。つながらないフレーズとフレーズをつなげることが、彼らの死後の世界をイメージする行為に近いものだった。


Made in Me. – 19hours (Music Video)

「意味のわからない歌詞や構成。出来上がったときは、彦の脳内を覗き見たような。搾り出すことに苦戦していたよりは、不純物を取り出しす作業に苦戦していたように感じました」(優作)

「初めて聴いたときは“詰め込んだなあ”と感じました(笑)。彦はいつも“脳内はパンクしてるんじゃないか?”というぐらい思考を巡らせているので、これもほんの一部だと思うと恐ろしいです。が、一緒にステージで表現できることに喜びを感じます」(ゆかり)

そうして大作【19hours】は完成した。だが彦はまだこの曲を完成していないと話す。

「【19hours】は“だいたいこんな感じのイメージなんだよね、あなたはどうなの?”といった具合で、答えが出ていないです。この曲は僕らやあなたの人生が続く限り、捉え方も音も変化し続ける楽曲なんだと思います。というのもあってライヴでやったのがとても気持ち良かったです。まったく別物の曲になりました。音源の再現をどうやってやるかを気にしていたけど、そういうことじゃないと気づかされました」(彦)

reincarnation_jk

BlackBlank × Made in Me. 『Reincarnation』(2017)

この【19hours】が、わたしにとって彼らの音楽に出会ったきっかけでもある。そのときはちょうどライヴレポートを書いていて、そのセットリストにある楽曲のMVをYouTubeで流しながら当時の会場の様子を思い返していた。そのまま曲が終了すると、YouTubeの自動再生機能が発動。そこで流れてきたのが【19hours】のMVだった。

とにかく衝撃的だった。アルペジオ弾き語りでゆったりと始まる冒頭、よくある歌もののギターロックが流れてきたと思ったのも束の間。突如グランジ/オルタナティヴなノイジーなギターが介入する。そこから90年代的なラップ×バンドサウンドのミクスチャー・アプローチになり、サビは感傷的で美しいメロディが飛び込んで――と、たった2分弱でその型破りな楽曲構成とそのセンスに面食らってしまった。そのあとも予想だにしない展開が続き、その6分間の音像はリアルというには不鮮明で、フィクションというには血の匂いがするほど生々しく、その混沌具合に自分の思考や心臓が乗っ取られるのではと思うほど。だがそのスリルは非常に心地のいいものだった。MVのクオリティにも目を見張り、毎日のように小田急を端から端まで往復しているわたしはすぐさまロケ地が町田だと認識する。音楽の仕事をするために東京23区へ、そのとき素通りしている場所で、こんな音楽が生まれているなんて。自分自身の行いに反省する面もあった。

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東京に近いがゆえのコンプレックス――彼らの活動拠点であり地元、横浜町田のアンダーグラウンドシーンと

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