就職できなかったフリーランスライターの日常(3)

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就職できなかったフリーランスライターの日常(3)
知識も才能も経験もない人間は夢を諦めるべきか

第1回目第2回目で綴った背景により、これまで積み上げてきた人生をすべて投げ打ってライターになるという新しい夢を目指してしまった二十歳のわたくし。「文章を書きたい、雑誌を作りたい」という気持ちがなによりも大きかったとはいえ、その一方でもちろん不安も大きかった。

10代の頃からインターネットの日記サイトを利用していて、そこに自分の好きな音楽についてだらだらと書くことが当時の日課だった。そのうちに近しい趣味を持つ人たちが掲示板に書き込みをしてくれるようになった。彼らはみんな日常的にライヴへと足を運ぶライヴジャンキーで、わたしよりも断然音楽に詳しかった。当時のわたしは都内から帰る際の終電は20時半、東京まで鈍行で4時間弱かかる静岡県の僻地に住んでいたため、交通面でもライヴに行くのが容易ではなかった。CDショップも小さいもののみ。おまけに実家の宿泊業が経営難で金銭的な余裕が一切なく、日々の生活でいっぱいいっぱいだった。

YouTubeが立ち上がりはじめた時期だったが、ISDN回線のわたしは動画を再生することも困難だった。音楽の情報を得る機会が圧倒的に少なかった。そしてライヴジャンキーの友人知人たちは専門知識を持ち、日記サイトやブログで音楽を批評し、ライヴの情景を詳細に文章へと落とし込んでいた。この人たちがライターを目指していないのに、わたしなんかが目指していいのだろうか。わたしごときの分際が目指すなど、身の程知らずも甚だしいのではないだろうか。10代のときに受けていた嘲笑と蔑みに囚われていたわたしは、いつもいつも「わたしなんかが」と思っていた。

so_column3音楽系の専門学校に通おうと思い立った時期、オフラインの友人たちはみんなエリート街道を邁進し、就職活動をするか大学院に通うかを少しずつ考え始めていた。「音楽ライターになるために専門学校に通おうと思う」と言うと、みんな「センモンガッコウ???」ときょとんとした表情を浮かべる。そのなにげないリアクションにも傷ついていた。「またいばらの道を選んだもんだね」「ライヴも満足に観たこともないやつが、ライヴレポートなんて書けるの?」「音楽も全然知らないようなやつがライターになれるわけないだろ」「大学ではなく専門学校に進学? おまけに音楽系? 大丈夫なの? そんなので就職できるの?」――直接言われることはなかったが陰で言われることはあったし、そう思われているだろうなと思うシーンもしばしばあった(被害妄想も大いにあったとは思うけれど)。そのたびに落ち込んでいた。だがそれよりもほんの少しだけ「才能も知識もないかもしれない。でもわたしは文章を書くことが好きだし、文章を書くことくらいでしか社会とつながれない。なにより雑誌作りをしてみたい」という気持ちが強かった。

やりたいことを見つけたわたしの悩みは、知識も才能もない自分がこの夢を目指していいんだろうか、ということだった。だが夢を目指す理由は「やってみたい」だけで十分だといまは思う。やりたくないことを無理矢理やるのはあまりおすすめしないが、やりたいことならば実際にやってみて、そのあとに向いているかどうかを判断すればいい。なにもない状態で飛び込んだら必要なことはなにがなんでも身につけざるを得ないし、ライターとして働いてからも身につけなければならないことはたくさんある。もしやりたいことがあるのに周囲から反対されている、すべて投げ出して夢を追うことができないならば、生活サイクルに組み込める範囲から始めてみてはいかがだろうか。

と、いろんなところで言われているフツーのことをつらつらと述べてしまったが、夢を追う追わないに限らず「自分はいまどうしたいのか」を考えることは生きるうえで大事なことだ。それが見えれば、生きることが少しだけラクになるし、楽しくなる。わたしは実際自分のやりたいことに向かって走り出してから、少しずつ生きることが楽しくなった。せっかくの人生、楽しいことを求めてみるのも悪くない。生きるうえで不安があるのは当たり前のことだから。

※次回は専門学校生活について。リアルタイム入学をしなかったわたしは10代ばかりの学校に馴染めたのか、どんな学生生活を送っていたのか、という話。ほぼ思い出話の予感。でも「二十歳すぎてから大学/専門学校なんて……」と思っている方々の背中を押せたらうれしい!

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