長距離移動するフリーランスライターの光陰(1) はみだして

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長距離移動するフリーランスライターの光陰
(1)はみだして

 

※まえがき※

2018年から書いてきたコラム『就職できなかったフリーランスライターの日常(通称:しょくふに)』は、ワンタンマガジンに掲載してきた文章を大幅アレンジし、書き下ろしを2本とnoteに掲載した一部テキストを加えたエッセイ本『しょくふに』で最終回を迎えました。長らくのご愛好誠にありがとうございます。

エッセイ本『しょくふに』は在庫がたっぷりございます。お求めはお得なメールでの直接お取り引き、各種決済が可能なBASE、実母が経営するdog cafe moi moi、沖と会ったときに直接購入のいずれかで、ぜひ! 手数料を差し引いた売上金はワンタンマガジンの運営費にさせていただきます。ご購入に関する詳細はこちらのページをご覧ください↓
(記事:エッセイ『就職できなかったフリーランスライターの日常』を書籍化!

それを受け、このたび新連載『長距離移動するフリーランスライターの光陰』がスタートするというわけです。『しょくふに』は完全に七転八倒の人生録であり、タイトルはわたしの最大の個性でもありました。ですが本というひとつのパッケージにして自ら節目を作りましたし、10年も続けてきて「就職できなかった」と言うのも、いつまで過去を矢面に立たせているんだという話です。

本当はあの本で完全にコラムを終わらせようとも思ったのですが、じつは意外とワンタンマガジンの人気コンテンツであるし、書くのが苦痛なわけでもないので、求められるなら続けたほうがいいのかなと。じゃあ新しくスタートさせるしかないなと思ったのです。

タイトルは〝就職できなかった〟以外のわたしのわかりやすい特徴を冠したものにするのがいい、「できない」という否定形ではなく肯定形にしよう、という発想から出てきたのが「田舎住まい」というワードでした。でも住んでいる街は中途半端な田舎だし、住んでいる街にずっと引っ込んでるわけでもないし、そこまで愛着が持てているわけでもないし、東京と直接接触している感じを出せたほうが自分にしっくりくるかも……と考えていたときに、とあるバンドマンさんから「小田急のケルベロス」という二つ名を頂いたことを思い出しました。

わたしはコロナ禍前、毎日のように東京と関東の最果てにある城下町を、運賃が最も安い小田急線で往来していました。そのバンドマンさんが「(住んでいる地名)のケルベロス」ではなく「小田急」という移動手段を選んだことから、わたしはいつも移動しているイメージを持たれているんだなと自覚しました。住んでいる場所にも東京にも居場所がないわたしにぴったりです。

そしてコロナ禍の密避けのために小田急以外の電車にも多く乗るようになったので、「長距離移動」というワードに辿り着きました。わたしの人格形成に多大なる影響を及ぼしている行為を掲げたコラム、通称『きょりふこ』。末永くお付き合いよろしくお願いいたします。

 

 

ワンタンマガジンで書いていたエッセイ『しょくふに』を自己出版した。Microsoft Wordで構築した原稿をPDF化して、カバーデザインや表紙、しおりといったビジュアル面はmoi_dripさんにお願いし、印刷所へと入稿した。しおりとOPP袋をつけることができたのはプリントオンさんの付属サービスのおかげだ。

最初は文章データを持って出版社に売り込もうかとも思ったが、とある人から「営業をするにしても、まずは試しに本にしてみたらどうか。あなたのやりたいことがわかりやすく伝えられると思う」というアドバイスをいただいた。『しょくふに』は就職できなかった人間がどうにか音楽メディアで書き続けるためにああだこうだしてきたことが綴られているので、性質的にも自己出版という形態は相性がいいし、なにより美しいとも思った。

様々な方々のお力添えで、拙いながらに誇れるものが完成した。ひとりでも多くの方々に、そしてこれを読んでいるあなたに、わたしのライター人生10年の記念碑をお手に取っていただけたらと願うばかりである。

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書籍の実物。厚さは1cmくらいです

だがこうやってエッセイを書くことも、それを自分から本にすることも、「身の程知らずめ」と笑われることがしばしばだ。ただでさえ就職できなかったし、売れっ子でもないライターゆえ音楽ライター界から超絶浮いているのに、さらに逸脱することをしてしまった。目立つことはしたくないし、極力人目につかずに生きてきたい自分には、エッセイ本の告知をすることも、エッセイコラムをアップすることも、大いなる恐怖を伴うことだ。

ならばなぜ行動を起こすのか? それは音楽ライター界の特性が大きく影響している。

わたしは物心ついたころから言葉のエッジが効いた漫才やコントとよく親しんでいた。そして10年前、音楽ライター駆け出し時代に「音楽ライター界は、芸人さんの世界とよく似ているな」と思った。音楽媒体はどこを見てもベテランの大先輩の名前ばかりが連なっており、若手の入り込む隙間はなかなかない。わたしは駆け出し時代からインタビューをさせていただいたりと、かなり機会を与えていただいているほうだとはいえ、この10年その景色は変わらないままという印象だ。才能のある若い芸人さんがたくさんいるのにもかかわらず、TVに出ている主役は安定感のある腕利きの大御所ばかりの光景とよく似ている。

このまま隙間でぎゅうぎゅうになりながら書いていくことになるのだろうか――そんなふうに悶々としていたとき、10代の頃から一目置いているインパルス板倉俊之さんがTVでこんなことを話していた。

「芸能界が列車なら、始発からさんまさんやたけしさんやタモリさんが乗っていて、そこにどんどん人が乗っていって。どんどん列車はぎゅうぎゅうになっていって、いまは外にまでしがみついている状態。だから俺は、もう列車を降りちゃったの。自分で自転車を見つけて、好きなところに行こうって」(※大意)

この言葉に感銘を受けたと同時に、これは2014年に「書く場所がないなら書く場所を作るしかない」と3人の協力のもとワンタンマガジンを開設した自分の思想とも重なるなと思った。実際、板倉さんは一般的な売れっ子ルートを逸脱してからのほうが、クリエイターとしての魅力や才能をどんどん開花させている。己を極め続けているという生き様を目の当たりにし、畏怖を感じると同時にとても夢があると思った。

わたしが2018年からワンタンマガジンでエッセイを書き始めたのも、noteで音声ブログを始めたり簡単な小説を書き始めたのも、自己出版でエッセイ本を作ったのも、先人たちが走ってきた「音楽ライター」というレール以外の走り方をしないと、先人がやっていないようなチャレンジをしていかないと、自分の未来が頓挫すると思ったからだ。

とはいえ「別ルートから成り上がって音楽ライターとして名を馳せよう!」という気持ちはほとんどなく、様々な経験がいつかの自分の肥やしになるのではないか、という一縷の望みがモチベーションになっている。わたしの欲望は「文章がうまくなりたい」「さんざん迷惑をかけた苦労人の母に恩返しがしたい」くらいしかないのだ。

本を作ったことが、自分の文章に大きな影響を与えている。人数は少ないとはいえ、時間を掛けて手に入れたお金でわたしの作った本を買ってくださった方、本を読んで感想をくださった方がいる。そこから気付くことがたくさんあるし、実際に自分の文章を「書籍」というパッケージにしたことで「書いて残したい」という気持ちが強くなった。

実際、今月に入ってから書く文章が変わった。自分のその変化を、わたしはとても快く思っている。それならもう、どれだけ「売れてもいないくせに」と笑われようと、はみだしていくしかない。列車の座席に座れない落ちこぼれは、どこまで行けるのだろうか。人生という長距離走も、折り返し地点に来ている。

 

◆Information
shokufuni_cover
エッセイ本『就職できなかったフリーランスライターの日常』
文庫本 216ページ 湾譚文庫
価格:980円(税込)/BASE 1250円(税込)
送料:250円

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