チーナ椎名杏子が秦 千香子と語る、妊娠期がもたらす音楽活動への意識の変化と気付き
チーナ椎名杏子が秦 千香子と語る
妊娠期がもたらす音楽活動への意識の変化と気付き
2018年秋に、ストリングス隊を擁する5人組バンド・チーナからとてもおめでたい報告が入った。それはフロントマン椎名杏子の妊娠。メンバーも彼らのファンも彼女を大きく祝福し、2月16日の吉祥寺・武蔵野公会堂でのチーナフィルハーモニックオーケストラ編成でのワンマンライヴを機に椎名は産休に、バンドは活動休止に入る。チーナフィルにとっては大舞台ともなる初のホールワンマン。そんなライヴを控え、そしてお腹の子とともに生活する日々を過ごし、椎名はいったいどんな気持ちを抱いているのだろうか。今回、彼女が尊敬する先輩と言う秦 千香子(ex.FREENOTE)を招き、妊娠期の音楽活動と心境について語ってもらった。秦も椎名と同じく、予期せぬタイミングで夫との間に子を授かり、妊娠期に音楽活動を続けてきたシンガーである。特別な時間を過ごした音楽家ならではの対話でもあり、大切なものを守り生きていく人間同士の対話を、存分に楽しんでほしい。
取材・文 沖 さやこ
撮影 paraforgive
協力 三軒茶屋GRAPEFRUIT MOON
チーナ(ちーな)
ピアノヴォーカル、ヴァイオリン、コントラバス、ギター兼マイクロコルグ、ドラムから成る5人グループ。2015年より「チーナフィルハーモニックオーケストラ」として総勢15人編成の活動もスタートさせ、チーナやチーナフィルで数々のライヴや野外イヴェントなどに参加している。また、日本だけではなくカナダ、台湾でもツアーを開催。海外にも多くのファンを持つ。2016年12月にチーナ、チーナフィルハーモニックオーケストラのCDを同時リリース。2017年9月29日より公開の映画「パーフェクト・レボリューション」のエンディングテーマを担当する。2017年で結成10年を迎え、同年12月には東京キネマ倶楽部にて10周年イヴェントを成功させた。2019年2月16日のチーナフィル武蔵野公会堂ワンマンをもって椎名杏子の産休とバンドの活動休止に入る。
(official:website/Twitter/Facebook)
秦 千香子(はた・ちかこ)
ヴォーカリスト、ヴォイストレーナー、作詞作曲編曲家、サウンドクリエイター。2002 年関西大学にてバンドFREENOTE を結成。同バンドにてヴォーカル、ギター、ピアノ、作詞作曲を担当し、2003 年トイズファクトリーよりメジャーデビュー。2010 年よりプロデューサーyanagiman 氏に師事しDAWを学ぶ。作詞作曲編曲家、ヴォーカリスト、サポートミュージシャンとしても活動を始める。2013 年FREENOTEを解散。同年、プロデューサーCHRYSANTHEMUM BRIDGE のアシスタントをつとめ、サウンドクリエイターとしてSEKAI NO OWARI、ゆず、AAA などのコンサートの演出の音源等の制作を行う。また、コーラスとしても、ゆず、でんぱ組.inc、GO-BANG’S、androp など数々のミュージシャンの作品に参加する。ヴォイストレーナーとしてはストレッチや声帯に負担をかけない発声などたくさんのシンガーに好評を博し、レコーディングやライヴのウォームアップ、普段のトレーニングなど、様々なケースに対応してレッスンを行っている。
(official:website/Twitter)
◆椎名ちゃんの歌はもともとのあたたかみや深みがあるから、そこに母性が入ってきたらもっとすごいことになる
――椎名さんと秦さんは、2010年の対バンが初対面だったそうですね。
秦 千香子 そこでわたしはチーナに一目惚れしちゃいました。椎名ちゃんの声が持つ包容力は本当に素晴らしい。チーナのバンド編成もユニークだし、そこから想像もしないような新しい音楽がどんどん出てくるのがライヴを観るたびに面白い。しかも観ていて「イェイ!」ってなるんですよね。元気をもらえるし、あたたかくなって帰れる、その「イェイ!」が最高だと思う。椎名ちゃんの歌詞も「そんな見方があるんだ?」と思う。【蛾と蝶とたこ焼きとたこ】を聴いた時「なんてことを言うんだこの人は!」って衝撃で。ロックは編成ではなくハートなんだなと叩きつけられましたね。
椎名 杏子(チーナ) うれしい! 秦さんはバンド以外にもいろんな音楽活動をしているところがすごいなと思うし、FREENOTEはポップソングをまっすぐやっているバンドだったので、ほかのバンドと少し違うなと思っていたんです。直接的な関わりは2、3回の対バンなんですけど、そこで秦さんに人間的な魅力をすっごく感じて、大好きになって。FREENOTE解散後もすごく活躍なさっているし、「秦さんがチーナの新曲を聴いたらなんて言ってくれるんだろう?」という気持ちがあったので、新曲ができるたびに秦さんに送ったりしてて。憧れの先輩です。
秦 うん、この前のアルバム(2016年にリリースされたチーナ『PULL』とチーナフィルハーモニックオーケストラ『PUSH』)は出産後の育児中に聴いてたよ。椎名ちゃんは折々で連絡をくれたり、音源を送ってくれたりして、わたしもすごくうれしくて。そのたびに「自分もがんばろう!」と糧にしていますね。
椎名 (バンドのほぼ全曲の)作詞作曲をしている女性のピアノヴォーカルって、わたしの周りにはあんまりいなくて。そういうところにも共通点を感じていたのかな。
――椎名さんは音楽一筋の人生のなか、旦那様との間にお子様を授かったとのことですが、その時の心境をお聞かせいただけますか?
椎名 妊娠が発覚したのが2018年の夏で、ちょうど2月16日のチーナフィルハーモニックオーケストラのワンマンの会場である武蔵野公会堂を押さえて、メンバーがやる気にみなぎっている時期で。すごくうれしかったけど、それと同時に思ったことは「2月16日のワンマンどうしよう?」でした(笑)。妊娠何ヶ月の時期だろう?ってすぐ数えて……。
秦 ちょうどその頃、椎名ちゃんから「妊娠8ヶ月って歌えますか?」って連絡が来ました(笑)。
椎名 あははは! 音楽関係の活動はスケジュールが1年、1年半先まで決まっているから、それで1年1年が過ぎ去っていくんですよね。特にチーナは自主で動いているぶん自分たちで企画して動いていくことが多いから、自分たちがほかの人を巻き込んでいる。となると簡単に「妊娠したから音楽活動をストップします」とはいかなくて。初めての妊娠だから自分がどういう感じになるかもわからないし、大丈夫なのか大丈夫じゃなくなるのかすらわからない。それでまず秦さんに連絡をしてみました。
――秦さんは臨月近くまで歌ってらっしゃったとお聞きしました。
秦 歌ってましたね(笑)。お腹が大きくなってくると、肺が圧迫されるぶん腹式呼吸はしづらくなるけれど、その時にしか歌えない歌はある。椎名ちゃんからおめでたの連絡をもらって、椎名ちゃんの歌はもともとのあたたかみや深みがあるから、そこに母性が入ってきたらもっとすごいことになると思いましたね。わたしはつわりがまったくなかったから、ギリギリまで歌ってました。
椎名 わたしもつわりがまったくなくて、本当に良かったと思ってます。ちょうどその時期に音楽活動をまったくしていない、妊娠出産育児経験のある人たちと話す機会が多くて、妊娠中に地方に行ったり、お腹が大きい状態でライヴをするという話をしたら、みんなが「えっ?」とすごく曇った顔をして……。「音楽活動なんてもってのほか、地方に行くなんて有り得ない」という人もいれば、秦さんのように「臨月まで歌っていた」という人もいて。妊娠って人それぞれなんだなとあらためて知りました。
――そうですね。つわりがひどい人もいれば全然ない人もいて、お腹もすごく大きくなる人もいれば、見た目ではわからないくらいの人もいます。
椎名 秦さんからの言葉で「音楽をやっている人ならではの感覚があるんだな」と思えたから、すごく心強くて。自分もどうなるかわからないし、すごく迷惑を掛けちゃうかもしれない。でも絶対に(音楽活動が)無理というわけではないことがわかったから。
秦 やっぱり自分の経験でしか語れないけれど……わたしは歌っていて良かったと思う。やっぱりシンガーソングライターやヴォーカリストは、歌ってないと情緒不安定になる(笑)。
椎名 ああ! そうそう、そうですよね! 本当にそう!
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