チーナ椎名杏子が秦 千香子と語る、妊娠期がもたらす音楽活動への意識の変化と気付き

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なんとか「歌」というかたちにすることで生きてきたのが、歌を歌う人

――ヴォーカリストが歌わないということは大きなアウトプットがなくなるということですし、人前で歌う、聴いてくれる人がいるところで歌うことも、ヴォーカリストにとっては大事なのではないかと思います。

chiina_1902_5 FREENOTEを解散したあと歌う機会が減って「どうしよう!?」と思ったんです。しかも妊娠中はコーヒーやお酒が飲めなかったり、ちょっとした「やれないこと」がたくさんあって。しかも「わっ!」と出せる場所がないのは、けっこう堪えちゃう。ストレス発散のために歌っているわけではないけれど、なんとか「歌」というかたちにすることで生きてきたのが、歌を歌う人だと思うんです。その「歌」を出せる場所がなくなってしまうと、あれ?となってきちゃって。妊娠中はホルモンバランスも乱れるからうつになりやすい人も多いし、わたしは歌うことで安心を得ていたところもありました。だから妊娠中も歌える機会があったら時々ライヴに出させてもらったりしてましたね。

椎名 うんうん。臨月にレコーディングをした人が、「いままででいちばんと言っていいくらい、すっごくいい歌を録れた」と言っていたんです。「お腹が大きい時に歌った歌がすごく良くて、産んだ後もその時に歌えた経験が生かせた」と言っていたシンガーソングライターさんもいて。お腹が大きくなることで重心が下がる感覚が、歌う人にとってはいいのかもしれない。

 あと、産んだ後のほうが歌が良くなる説もあるよ。出産をしたあとは、身体が1回ぼろぼろになるし、3時間に1回子どもにおっぱいをあげないといけないし、歌っている時間がないくらい。でも1回ぼろぼろになったところから回復する力や育児での精神面も含めて、強くなる気がする。妊娠前よりも歌うことを楽しめるようになったかな。だから怖がらずにみんな、音楽活動しながらやってみたらどうかな?と思ったりする。

――椎名さんにとって、妊娠中の音楽活動は良い方向に作用しましたか?

chiina_1902_6椎名 妊娠初期がいちばん怖かったです。お腹も大きくないから子どもがお腹にいる実感が生まれにくい。でも体調はあまり良くなくて、どれくらいお腹に力を入れていいのかわからない時期で――どうしたらいいのかわからないから、ステージに立つのが怖かったです。でもライヴのたびに「あ、大丈夫だった」と確認ができて、そのうちにお腹が大きくなっていくから、存在がちゃんと認識できて「これくらいやっても大丈夫だな」という感覚がわかるようになってきました。

 うんうん。そうだね。妊娠は「まさかこのタイミング!?」と思う時期なんですよね。音楽をやりながら妊娠と出産をしている人は少ないから、わたしもまずは「どうしよう!?」「いま抱えているスケジュールをなんとか乗り切るにはどうしたらいいだろう」から始まりました。その時はまだ「お母さんではない自分」の考え方なんですよね。でもじょじょに「お腹に子どもがいること」が大前提になっている自分になってくる。その「じょじょに」の時期が不安ですよね。

椎名 妊娠前は身軽でなんでもできたから、椅子の上に乗ったり、めちゃくちゃジャンプしたり、やれることがいっぱいあったし「あれもしよう、これもしよう」と考えることも多かったんです。でもいまは普通にピアノを弾いて、立ち上がることも大変というか。だから逆に音楽に集中できる。しっかりと「歌うこと」に向き合えているので大切なことが見えたし、秦さんの言っていたとおり歌うことの大切さを知れたなと思います。1個のライヴへの重みをバンドメンバー全員と感じて。

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 「二度とない1回きりのライヴ」というのを、すごく意識させられるよね。「次にここでライヴをする時、もうこの子は生まれていて、お腹にいないかもしれない。お母さんになったわたしはどんなライヴをするんだろう? いまはこういうライヴしかできないから、いまを最高にするためにどうやって歌おう?」と考える――それはお腹の子がそうさせてくれるというか。

椎名 うんうん。お腹の子の存在を、いまはすごく感じるので。その感覚でそのままステージに上がっています。

>> 妊娠期で変化していく価値観と経験のなかで得る気付きや、音楽とのいい距離感の取り方とは

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