静寂と轟音のコントラストで描く物語の深淵 ――クジラ夜の街が切り拓くギターロック新時代
静寂と轟音のコントラストで描く物語の深淵
――クジラ夜の街が切り拓くギターロック新時代
文 沖 さやこ
特定のバンドやアーティストに憧れたわけではなく、直感に導かれるように音楽を始め、軽音楽部の強豪校に入学した4人が、部活で出会ったのが事の始まりだった。バンド名の由来は「今日のライヴ、クジラが出るみたいだよ」と聞こえてくるのが幻想的だと思ったから。――『ジロッケン環七フィーバー』116回目で語られていた、たったこれだけのエピソードでも異彩を放っている。2001年度生まれの4人組ギターロックバンド、クジラ夜の街。
2017年6月21日、高校入学から2ヶ月強で結成。短期間のうちに楽曲を多数制作し、軽音楽部でのライヴ活動のあと高校2年生から都内ライヴハウスでの活動を開始する。2019年に入り、23歳以下が参加可能な音楽コンテスト「Tokyo Music Rise 2019 Spring」や、インターハイや選抜高校野球の軽音楽部版とも言うべき「全国高等学校軽音楽コンテスト」で優勝したあと、「RO JACK for ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019」と「出れんの!?サマソニ!? 2019」の2オーディションを勝ち抜き、「ROCK IN JAPAN FES. 2019」と「SUMMER SONIC 2019」に出演を果たした。
わたしが彼らの存在を知ったのは「RO JACK」の優勝を勝ち取ったタイミングだった。「クジラ夜の街」というバンド名が、妙にこちらの感性を刺激してきた。そこから半年後、ライヴを観る機会に恵まれた。個人的にも高校の軽音楽部に起きているムーヴメントに衝撃を受けたばかりだったため、そのシーンから頭角を現している彼らへの興味もだいぶ大きくなっていた。だが彼らはその期待を優に超えてきたのだ。
各々異なる衣装を纏い、荒々しくも軽妙に轟音を繰り出していく少年たち。その音は鋭利で爆発力もありながらどこか痛烈に冷めていて、渇きを感じさせつつも情緒に満ちている。その相反性がリアルでもあり、ファンタジックでもあった。
クジラ夜の街「夜間飛行少年」「0話革命」LIVE VIDEO @Shibuya Milkyway
トライバルなビート感をオルタナ×ギターロックに昇華した【少年少女】、ポップで跳ねたリズムが特徴的な【風のもくてきち】のあと、ヘヴィでおどろおどろしい導入へとなだれ込む。この時点で只事ではない空気を感じていたが、そこからの【Sugar】で面食らった。シューゲイザー×ヒップホップをユーモラスに昇華しつつも、終始胸を掻きむしるような焦燥感が漂い続ける。いったい彼らは何者だ――? 恐怖と高揚が同時に襲い掛かってきた。
自力で猛スピードを走り切れるほどの抜群の筋力を兼ね揃えているため、未熟と言うには無理がある。だがまだまだ発掘されていない可能性の片鱗が全身から迸っているため、成熟していると言うのも難しい。非凡なセンスを目の当たりにし呆然としていると、【平成】で彼らは身体を振り絞って等身大のロックを鳴らし始めた。ギターヴォーカルの宮崎一晴は笑顔を浮かべているのに、ふとした瞬間その表情から猛烈な陰を感じさせる。18年の人生でこんなに説得力のある、オリジナリティが突出した音を繰り出せるものか? 前世の記憶でもあるのだろうか? ヴォーカルひとりだけにカリスマ性があるのではなく、もれなく4人全員がいびつなくらいに個性的であることも奇跡的だ。
瑞々しい感性や卓越した技術を持った4人が一堂に会しているという事実は、一人ひとりの才能の証であることはもちろんのこと、全国の軽音楽部シーンが、「文化祭の思い出作り」や「遊びでコピバン」ではなく、プロへの登竜門のひとつへと発展を遂げていることを物語っていた。
放課後や合宿で熱心な練習を行い、コンテストに出場するだけでなく、ライヴハウスという高校の枠を越えた場でも活動。そこにSNSやEggs、YouTubeといった配信のプラットホームが加わることで、彼らの音楽活動はエリア問わず同世代のもとへと飛来した。クジラ夜の街というバンドが生まれてから急成長をしていく背景には、現代ならではの洗練された環境も大きく作用していると言っていいだろう。
2020年2月にリリースされた『星に願いを込めて』には、前述の4曲やイントロダクションを含む計8曲を収録。自身の激情を物語へと落とし込む文学性の高い歌詞には、痛烈な陰と、そこでしか見えない微かで確かな希望が宿る。その根源にあるのは、作品のタイトルや楽曲にも綴られている「願い」だ。そして【夜間飛行(Prelude)】の「眠れぬ夜に嫌気がさした少年は、瞬く星の隙間を猛スピードで通り抜けて何かを探している」という描写は、まさに今の彼らのことだろう。クジラ夜の街は憧れを追うのでもなければ、誰かの模倣をするのでもない。漠然とした嫌気と今の彼らが信じている確かなものだけを胸に抱えて飛び立った少年たちの物語なのだ。
「ギターロック」という定義があいまいなジャンルだからこそ、彼らの自由度の高いサウンドアプローチが最大限に生きる。オルタナ、ポストロック、シューゲイザー、ヒップホップ、フォークなどをユーモラスに掛け合わせるミクスチャーセンスや、すべての楽器の細かいギミックが効いたフレーズやアンサンブルは、ぎりぎりの協調性を保ちながら一つひとつが異なる色を強烈に放つ。
初めて観た彼らのライヴで、5月17日に配信リリースされる【ヨエツアルカイハ1番街の時計塔】を聴いた。東京タワーよりも高い時計台のお城の一角に住んでいるお姫様と、スラム街の少年が出会う物語が描かれた曲。その時に「ヨエツアルカイハ」が「いつかはあえるよ」だと知る術はなかったが、この曲はクジラ夜の街が音楽をやっている理由や想いのひとつの化身のような気がした。それくらいこの曲の求心力は凄まじかったのだ。繊細なタッチのプレイと咆哮のような轟音という静と動を巧みに扱ったドラマチックなアレンジ、やわらかくあどけなくも切実な歌が一糸乱れずに鳴り響く。どこまでも純粋に人を求め「いつかは会えるよ」と瞳を潤ませながら小さく微笑んでいるようだった。これからも続く彼らの物語のなかでも、重要な1曲として残っていくことを予感させた。
21世紀生まれの若き真打ちたち。彼らが今後のギターロックシーンを開拓していくバンドのひとつになることは間違いない。革命0話の次章は、すぐそこまで訪れている。(了)
◆Release Information
配信シングル
『ヨエツアルカイハ1番街の時計塔』
2020.5.17 on sale
[Track List]
1. ヨエツアルカイハ1番街の時計塔
2. インカーネーション
配信先はこちら▶▶ https://lnk.to/F5EFPTW
◆Artist on Spotify
Artist Page – クジラ夜の街
◆More Information
https://twitter.com/Qujila_band
https://www.instagram.com/qujila_band/
https://www.youtube.com/channel/UCcRycKcanKTu1TS-IkwleEA/