未完成VS新世界・澤田健太郎、七転八倒のバンド人生が導いた「リスナーに届けたい気持ち」
◆バンドがいつ終わってもいいようにしておきたい
――「2021年5月17日の未完成VS新世界」と「とっておきの夜のこと」は、表現方法は違えども近い内容が綴られていると感じました。
澤田 僕はずっとぶれてないので、書いているテーマの大枠は一緒なんですよね。ネガティブな感情って全然悪いことではないし、みんなそういうものを抱えて生きている。嫌なことはしなくていいし、嫌なことに対して「嫌だ」と言ってもいいと思うんです。「とっておきの夜のこと」は青山と一緒に作った曲で、ライブでもちょこちょこ演奏してたんですよね。「2021年5月17日の未完成VS新世界」は、いままでに書けなかった歌詞が書けた気がしていて。
――と言いますと?
澤田 「とっておきの夜のこと」も含めて、いままでは僕が僕に対して歌っている曲が多かったんですよね。自分と同じような気持ちの人はおそらくたくさんいるから、そんな曲でも気に入ってもらえるんだと思うんですけど。でも「2021年5月17日の未完成VS新世界」は、僕と同じような気持ちを抱える君のために歌った曲なんです。だから外に向けて書いたんですよね。
未完成VS新世界「2021年5月17日の未完成VS新世界」
――もともと未完成VS新世界は言葉が強いバンドですが、「2021年5月17日の未完成VS新世界」はミドルテンポなのもあって、一言一言歌詞を噛みしめて聴けて。だからこそ心が軽くなりました。「そっか、わたしの毎日には《想像以上のことはおそらくなにも起こらない》し、《スポットライトで日の当たらない》人生なんだ」と思ったら、すごく活力が湧いてきて。
澤田 あははは。大多数の人は「自分は特別な存在だ」と思ってるんですよね。
――自分は凡人だとは思いつつも、心の奥底で「なにかどんでん返しがあるんじゃないか」と期待してしまったり。
澤田 そうそう。どんな人間にも生活はあるけど、ほかの人から見ればお前なんて何者でもないんだぞ、っていう。それを認められると、もうちょっとラクに自分の日常を生きていけるんじゃないかなと。
――だからこそ曲の最後に綴られているメッセージの根幹もまっすぐ心に届いて。バンドがまた立ち上がるタイミングにこういう曲が生まれるのも美しいと思います。
澤田 再始動のタイミングだから待ってくれている人に届けたかったというのもあるんですけど……それ以上に、そんなに長くバンド活動はできないだろうなと思ったことが大きいかも。それはこれまでの「音楽やめたい」でもなければ、この音源が最後というわけでもなくて。バンドがいつ終わってもいいようにしておきたいというか。
未完成VS新世界「とっておきの夜のこと」
――いつどうなるかわからないから、ということでしょうか。
澤田 まだ続けていきたいとは思っているけど、年齢的な意味でもこの先物理的にバンドができなくなるかもしれないし。そんなに多くはないけれど、ずっと応援してくれる方々は未完成VS新世界にもいるので、そういう人たちにちゃんと自分の思っていることを音楽として届けたかったんですよね。前以上に人に伝えたかったんです。でも音楽やめて札幌帰りてえなー……とは毎日思ってるんですけどね。
――でも帰らないということは、そういうことなんでしょうね。
澤田 あははは。そうっすね。
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編成を変えながらも屋号を残し続ける未完成VS新世界。澤田が考える理想のバンド像