16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第11回~スケープゴートとライブハウス

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第11回 スケープゴートとライブハウス

 

[1] コロナ禍とはなんだったのか

喉元過ぎれば熱さを忘れる。これは人間の性かもしれません。2020年初旬から件の新型コロナウイルスによるパンデミックが日本でも拡がり、2023年5月に5類へ移行する約3年と数ヶ月の間、ライブハウスは窮地に立たされ続けていました。今もなおその影響は断ち切れていませんが、少しずつ、薄く、過去になってきているような実感があります。

当時ライブハウスが早々にクラスターの発生源と名指しされ、営業自粛を余儀なくされ、闇を彷徨う中で程なく作成されたガイドラインに沿って床にガムテープで線引きし、ソーシャルディスタンスを守り、厳しい収容制限の中で営業を行っていました。

人間あまりに予測のつかない事態が起きると、なんとか合理的な理由を持ち出して、もっともらしい何かのせいにして気持ちを落ち着けたい心の弱さみたいなものが立ち現れます。そしてそれはなるべく普段の暮らしから遠いものであればあるほど、多くの人への影響が少なければ少ないほど、スケープゴートとして機能しやすいのだと思います。その一つにライブハウスが選ばれたところはあるのかもしれません。選ばれた側からすればたまったものではありませんが。

しかしながら、なんとなく僕は「槍玉」という言葉を使いたくありませんでした。満員の通勤電車は毎日動くのに、静かなライブハウスが拒絶された理由は僕には見つけられず、「ライブハウスは槍玉にあげられている!」という強い言葉をぶつけることはできませんでした。それは、当時の社会の同調圧力に怯えた自分の心の弱さからきているものだったのか、もっともらしい理由に頷いてしまうところからきているものだったのかは分かりません。

本当に、この期間耐え抜いたライブハウスの方々、音楽関係者の方々には頭が上がりません。毎秒生きるか死ぬかの瀬戸際を耐え抜いていたはずで、僕はその痛みを推察することしかできず、一方で普通にサラリーマンとしてぬくぬく暮らしていた部分は否めません。烏滸がましいのは百も承知ですが、少し、いち社会人バンドマン目線でライブハウスから人が消えざるを得なくなったこの時期を「コロナ禍とはなんだったのか」という視点で振り返ってみようと思います。

 

[2]自粛ムード

2020年2月22日、コロナが襖一枚向こう側まで迫っている最中、僕はZOOZというバンドでライブをしていました。大阪は扇町para-dice、僕の個人企画でライブハウスには人もしっかり入っていました。いつも通りスリリングでヒリヒリするイベントだったと記憶しています。

翌23日、お世話になっている方のイベントに参加するため、ZOOZでは初めての名古屋へ。この日も盛況。このイベントに来ていたとあるお客さんとの会話がきっかけとなり、僕は後に名古屋でガストバーナーというバンドでもドラムを叩くことになるのですが、それはまた別の話。ともかく目前に迫り来るコロナと紙一重で過ごした二日間でした。

その数日後、2月26日に大型イベントの開催自粛を要請する総理大臣の会見を受けて、大小関わらず次々とイベントの自粛が余儀なくされました。テレビを見るたびに「ライブハウスはクラスターの発生源」として報道され、どこかの専門家が声高に警鐘を鳴らしていました。僕はついニュースを最後まで見てしまい、しっかり傷ついてからテレビを消しました。

SNSでのライブハウスへの風当たりも強くなり、予定されていた数ヶ月先の全てのイベントはバラシになり、ライブハウスから人が消えました。ライブをすること自体が悪のように扱われ、「自分って悪いことしているのかな…?」と思いながら日々を過ごしていました。うずうずした気持ちの反動でスタジオへ行き、個人練習を孤独に繰り返していました。

用事を見つけて剥き出しのコンクリが春でも冷たいライブハウスへ赴くと、店長はいつもどおり笑っていましたが、その裏側には悲しみが色濃く映っていました。弱音は吐きませんが、当時は「営業するな。警察呼ぶぞ」と張り紙が張られたり、どう考えてもライブハウスは社会から疎まれた存在でした。

少しでもとライブハウスで無観客配信をしたり、存続のためのクラウドファンディングの情報を追ったり、将来のためにレコーディングしたり、「場所」を守るためといえば大袈裟ですが、自分たちのやりたいこととベクトルの合うものを探し出し、微々たる力添えと闘争をしていました。それくらいしか、できませんでした。

 

[3]村八分とガイドライン

人のいないライブハウスと、人のいない繁華街。仕事終わりの難波はまるで終わりを迎えた世界のようでした。職場ではアクリルのついたてが立てられ、高騰して手に入りにくいマスクが支給され、どこもかしこも「自分」というテリトリーを守るのに必死でした。

僕は隠しているわけではありませんでしたが、バンドをやっていることを会社で話したことがなかったので、特段責められることはありませんでした。しかしSNSを覗くと、会社にバンド活動を公言しているバンドマンはまるで極悪人のように、村八分に遭っているような扱いを受けていました。

夏に入ると政府が参画したガイドラインに沿ってライブを開催することが可能になりました。それは多くの人が現場の声を届け、実証実験を行い、練り上げられたありがたいものでした。

ソーシャルディスタンスを守るためキャパシティは大きく制限され、声出しは禁止、フロアとステージの間に分厚いアクリルのカーテンが仕切られ、飛沫拡散を防止する体制が敷かれていました。

実際問題このガイドラインを守っては経営が成り立たないだろう、コロナ前の日々を思うと現実的ではないという気持ちもないわけではありませんでしたが、それでも「ライブができる」「大きな音を鳴らせる」「お客さんにライブを観てもらえる」という入り口に立つことが何より重要で、人間の知恵と行動力は凄いと感嘆しきるばかりで、僕はその恩恵をただ受けているだけでした。

 

[4]アクリルの水族館

2020年7月、数ヶ月ぶりにZOOZはライブをしました。それは奇しくも自粛直前の2月に僕が企画をしていた扇町para-diceでのイベントでした。あの時にはなかった分厚いアクリルのカーテンを挟んで演奏をしてみると、ステージの照明がアクリルカーテンで照り返され、ステージからフロアがほとんど見えませんでした。ゆらゆら揺れるフロアの人影が仄かに見え、まるで水中で演奏しているようでした。

それでも大きな音を出してライブをするという行為が尊く、来てくれているお客さんも愛おしく、基準を守っているのにまるで皆で悪いことをしているような、秘密基地で皆肩を寄せ合って遊んでいるような感覚になりました。

しばらくはライブをするたび「秘密の悪いこと」をライブハウスに集まった人達と共有している気分でした。「ライブができる」ただそれだけで暗い気持ちに一筋の光が差すようでしたが、それでもあくまで水中から一瞬息継ぎができたような感覚の連続で、根本的な現状復帰はまだまだ遠いなと感じていました。そして数年かけて段階的に緩和され、アクリルのカーテンがいつしか外され、キャパ制限が次第に緩和され、コロナの脅威が薄れきったわけではありませんが、それなりに問題なくライブができるようになり、現在に至ります。

 

[5]炊いたお米は精米に戻らない

このコロナ禍でバンドが沢山減りました。薄情な人も少なからず目に入ってきました。僕もその中の一人かもしれません。ライブができない、音楽活動ができないという環境で自分自身を見つめ直したり、生活を建て直している内に、音楽以外の生き方を見定めることができたバンドマンも多くいました。後悔がないのであれば、それが悪いことだと思いません。

お客さんにもコロナ禍でライブ以外の新しい愉しみを見つける方も多く、疎遠になる方もいました。それも勿論、一切悪いことだと思いませんし、むしろ良いことだと思っています。ライブハウスは一期一会の場所なので、僕はそれを自然の摂理のように受け取っていました。気が向いたらまた音楽を愉しんでくれたら、それで良いと思っています。

そしてコロナ禍でライブを楽しんでくれたお客さん、ライブハウスの方々、レコーディングスタジオの方々、コロナ禍の環境下で対バンしたり、企画を組んで呼んでくれたバンド仲間、そして何よりバンドメンバー、最高です。本当に最高です。

振り返ると、皆それぞれがそれぞれの立場から、とてもタフで、過酷な環境すら楽しんでいるようでもあり、寄り添い合いながらライブハウスに集まっているようでもあり、一緒に悪巧みをしているようでもあり、良い意味で狂っている人達ばかりに囲まれて過ごした数年でした。非常事態の下で、逆に愛おしい人達が浮き彫りになる期間でもありました。

「コロナ禍とは何だったのか」という問いに対する僕からの一定の答えは、「ライブハウス周りの愛おしい人達を再発見する期間」だったように思います。ただそれは、2024年のコロナの熱さを忘れた喉だから言える言葉なのかもしれません。

まだまだインフルエンザやコロナや、これからも色々な感染症が出てくるかもしれません。その度に、僕は愛おしい人達を再発見し続けたいと思います。ただ皆さん、体調には気をつけてくださいね。健康がないと、ライブも楽しめませんからね。最近は本当に、健康のありがたみを噛み締めて日々過ごしています。また健康で、ライブハウスでお会いしましょう。では。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

〈ZOOZ〉
○2024/2/24(土)京都・二条GROWLY2F Studio Antonio
○2024/2/26(月)大阪・天王寺Fireloop
○2024/3/24(日)京都・二条GROWLY2F Studio Antonio
○2024/4/7(日)大阪・扇町para-dice「ガストバーナー vs ZOOZ / ZOOZ vs ガストバーナー」

〈ガストバーナー〉
○2024/3/3(日)名古屋・鶴舞KD Japon
○2024/4/7(日)大阪・扇町para-dice「ガストバーナー vs ZOOZ / ZOOZ vs ガストバーナー」

-ガストバーナーpre.三種の神器ツアー
◯2024/5/11(土)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
◯2024/5/25(土)東京・池袋Adm
◯2024/6/23(日)神戸・太陽と虎
◯2024/6/29(土)富山・ソウルパワー

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