16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第13回~尊い日々を続けるために
16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第13回 尊い日々を続けるために
「年齢を重ねるにつれて本当に思うんやけど、毎週のように集まって音楽するのって、めちゃくちゃ尊いことやと思うねん」
「それ、僕も思ってました。バンドやれてる日々が長年続いているんで当たり前なんですけど、やればやるほど当たり前じゃないんですよね」
まだ終電まで一時間あるからといって、三軒目の居酒屋に入っての一幕。
僕がドラムを叩いている京都のバンド、ZOOZは「おたのしみかい」と称してしばしば飲みに行くのですが、最終的にギターボーカルのユウヤさんと二人になり、お互い酔っぱらった脳にまた、アルコールを入れながらこんな話していました。
[1]最良の人生
「はやおが声かけてくれへんかったら、たぶん俺、今バンドやってないと思うし、こんな楽しい人生じゃないと思うねん」
終電10分前のユウヤさんは、こんなことを話してくれました。バンドをやっていると、毎週同じメンバーでスタジオに入り、ライブがあって、レコーディングをして、慌ただしく一年が過ぎていきます。
それがまるで当たり前のような生活を送っていますが、当たり前ではないことなんて、すぐに分かります。ですが、すぐに分かるだけに、見失いがちになったりもします。
学生の頃は部室に集まって、毎日のようにみんなでウダウダしながら音楽をやって、暗くなるか、バイトの時間が近づいてきたら帰るような日々を送っていましたが、そんな楽しい日々が一生続くわけもありません。
皆卒業して、転勤したり、結婚したり、仕事に奮起したり、音楽から離れまいと頑張っていた友もいましたが、気がつけばその頃の友達はほとんど音楽から離れてしまい、散り散りになってしまいました。音楽が好きというあの頃の気持ちを共有しながら、皆バラバラになってしまいました。
きっとユウヤさんも同じで、僕とは年齢も学校も違いますが、今バンドを楽しめている尊さを感じながら日々の生活を営んでいるんだと思います。
そんな良い話をしながら、「おたのしみかい」でユウヤさんだけ終電を逃していました。
[2]みんな楽しむために
2024年5月26日。昼からZOOZは下北沢でライブをしていました。前日はガストバーナーで池袋でライブをしました。帰りの道中、京都に向けて三重県あたりを走っている車内で、この文章を書いています。
どちらのライブも心から楽しくて、楽しそうなお客さんを見て、感想を聞いて、笑顔のメンバーを見て、本当に嬉しくて、そしてホッとした気持ち、肩から荷が降りるような気持ち、そしてありがたい途方もない疲労感で満たされていました。
自分たちが楽しむこと、そして来てくれているお客さんが楽しんでくれること。この両方を一回のライブで達成しないといけないわけです。楽しむためにお客さんもメンバーも皆、有限な人生の時間と対価を払って集まってくれているわけですから、我儘でバンドを始めているといえども、いや、我儘でバンドを始めているからこそ、全員楽しい気持ちになりたいのです。
だからやっぱり良い意味でも悪い意味でも、ライブ直前はドキドキしてしまいます。疲労が溜まり体調が優れなくても、体のどこかがちょっと変であろうとも、マインドが不調を起こしていても、どれだけ整えても人間は万全という状態にはなりにくいけれども、その時の持ち合わせで皆が楽しめるように勝負しなければならないのです。
そうやって全て包んで良い方向に転がすことが、ライブの面白みだと思います。時にうまくいかなくて本当に悔しいことも、この年齢になっても経験します。この二日間は終演後のお客さんの様子をみて、それなりに良い方向に転がせたのかもなぁ、そうであればいいなぁ、と思っていました。
[3]気がついた時には遅い
2024年6月1日。サカスプ出演終わりのガストバーナー、はるきちさんとりっちゃんと、インド料理屋でご飯を食べていました。
「最近知り合いのバンドでも脱退とか解散が多いし、どれもこれも燃えてるよね」とはるきちさんが切り出すと、「バンドはメンバーがそれぞれの人生を歩んでいるから、そんなメンバー同士が同じ一つのバンドやり続けているっていうのが奇跡だと思うんです」とりっちゃんが話してくれました。
僕は先日のユウヤさんの言葉を反芻しながら「考え方も価値観も違うメンバーで集まっているから、バンド楽しいって思える状態を維持する努力やメンバーへの配慮を、ずっと続けなくちゃいけないですよね。そうしないと、気がついた時には脱退や解散になってしまいますから」と話していました。
どれだけ仲が良くても、安定しているように見えても、心が通じているように見えても、配慮やリスペクトを忘れて甘え続けていると、気がつくと手遅れになってしまう。いつだってバンドは、バンドであるために不断の努力をしなければなりません。そしてそれは、対人関係の全てにおいてもそう言えるかもしれません。
[4]想いを馳せよう
メンバーに想いを馳せます。先のりっちゃんの言葉の通り、メンバーにはメンバーの人生があって、それぞれ毎日精一杯生きています。仕事をしていたり、他の熱中する物事があったり、親族の事情があったり、バンドとは別に様々なコミュニティを渡り歩いています。そんなメンバーそれぞれの人生のリソースを割いて、バンドに労力と情熱を注いでいるわけです。人生は有限です。
一つのライブ、曲、スタジオ練習、LINEの返信の細部に至るまで、見えないところでのメンバーの人生が詰まっています。大袈裟ではなく、やはりバンドは奇跡なんだと思います。必ずリスペクトは忘れちゃいけないと、日々気を払っています。
お客さんにも想いを馳せます。ライブに来てくれるということ、曲を聞いてくれること、喜んでくれること、一つ一つが奇跡に近いと思います。毎日働いて、疲れて、怒られたり、時に喜び、哀しみもしながら予定を空けて、稼いだお金を使って、健康に気を使って、朝起きて準備をして、ライブに来てくれています。バンドを楽しんでくれています。当たり前ではありません。好き勝手やっているバンドを楽しんでくれるなんて、そんなに尊いものがあるのでしょうか。
それら全てを当たり前に受け取ってしまった瞬間に、全て歪んでしまうのだと思います。歪み始めているかつてのバンドをいくつも見てきました。何度でも言いますが、全ては当たり前じゃありません。当たり前だと思った瞬間に、驕りが生まれ、見透かされ、不安が募り、楽しいものが楽しくなくなってしまうのです。それは、バンドメンバーの誰一人として欠けてはいけない認識だと強く思います。
どこかのバンドのネガティブなメンバー脱退のニュースが流れてくると、少し溜息をついて「バンドって本当は楽しいはずなのになぁ」という気持ちになります。
どうか皆楽しく音楽できますように。どうか皆楽しくライブを見れますように。そんなことを考えながら、また目に見えない色々な物事に想いを馳せています。
◆Live Information
〈ZOOZ〉
6/21(金)扇町para-dice Qu pre.「末末(すえずえ)
6/22(土)京都6会場「いつまでも!ザ・ワールド!!.」
7/20(土)京都二条nano 「Extreme!!! vol.1」
8/17(土)新宿Marble ZOOZ『Mutation』リリースツアー
8/24(土)心斎橋火影&新神楽「未知鳴る世界でさるかに楽戦」
〈ガストバーナー〉
6/23(日)神戸 太陽と虎「三種の神器ツアー神戸編」
6/29(土)富山ソウルパワー「三種の神器ツアー富山編」
7/13(土)神戸D×Q CHOCHINES prd.「市内某所」
7/27(土)富山ソウルパワー 終活クラブ「終活新布教盤」リリースツアー
8/18(日)名古屋 池下UPSET 終活クラブ「終活新布教盤」リリースツアー
8/31(土)池袋Adm 「梅雨将軍」
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