16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第14回~普通のサラリーマンになりたい。なりたい?

LINEで送る
Pocket

16bh_column

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第14回 普通のサラリーマンになりたい。なりたい?

 

[1]中村君は普通のサラリーマンになりたい

よく分からないんですよね。小学生の頃、同級生の中村君は将来の夢に「普通のサラリーマン」と書いていました。なぜか僕はそれを強烈に覚えていて、なんで普通になりたがるんだろう?と思っていました。中村君、普通のサラリーマンになれたかなぁ。

一方将来の夢に何を書いていたかすっかり忘れてしまっている僕は現在、世の社会人と同じく平日は「普通のサラリーマン」をしています。しかしながら週末になると毎週毎週スタジオに入り、曲を作り、ライブハウスやレコーディング、ほとんど家に居ない生活を送っています。

僕にとってバンドは、「衝動そのもの」に他なりません。お金になるとか、権力になるとか、そういったものの「外側」にあります。僕にとってバンドは中村君の将来の夢である「普通のサラリーマン」では得られない楽しさがあります。

サラリーマンが楽しくないとは言いませんが、みなぎってくる活力やパワーは会社の中には無いこともあります。人生に必要なのは、お金か、権力か、衝動か。答えは人それぞれで優劣はありませんが、今回は僕にとって大切な「衝動」を、曲作りという観点から見ていきたいと思います。中村君、バンドやろうぜ。

 

[2]カッコいい曲を作りましょう!!

「曲を作らないとなー」「こんな曲作りたいねー」。常日頃、バンドメンバーでよく話し合っています。でもなんでそもそも、曲を作りたいんでしょう。その衝動は、どこから出ているのでしょう。

僕は曲を全く作れません。頭に残るカッコいいメロディや、イケてるギターフレーズも思いつきません。自分で曲を作ろうとした時期もありましたが、あまりの才能のなさに早々に断念してしまいました。身の回りに優秀すぎるメンバーがいるので、その差に絶望してしまったんだと思います。

そんな素晴らしいメンバーにコウモリのように付き纏って「カッコいい曲つくりましょう!」「こんな曲が欲しいなぁ(チラッ…チラッ…)」と図々しく言い続けることで、間接的に衝動を達成しようとするのです。

そういって我儘極まりなくメンバーに欲求を撒き散らし続けていると、優しいメンバーからメロディだけが送られてきたり、弾き語りが送られてきたり、デモが送られてきたりします。30秒ほどのものもあれば、1曲丸々作られているものもあります。

それを何度も聴きかえし、頭の中で「こう展開したらカッコいいはず」「ドラムはこんな感じで入れよう」と想像を膨らませるのです。イチから曲は作れませんが、ドラムをつけることくらいはできます。自分、それくらいならやれるっす。うっす。

イメージをパンパンにしてからメンバーでスタジオに入り、音を出し合いながらああでもない、こうでもない、これはカッコいい、これは微妙、ピンとこない、もっと凶悪に、もっと気持ち悪く! なんて言いながら、みんな各々の引き出しを開けていくのです。

大体はバラバラなパーツがいくつかできるか、1番のサビまでできたかも、みたいなものがそれとなく出来上がって、それをスマホで録音して初回のスタジオは終わります。結構アナログです。

 

[3]カッコよく「在りたい」

こうして録音した音質も悪い、音も割れた「曲みたいなもの」を、スタジオ帰りの電車で聴く時間がとても大好きです。

終電間際で欲望と吐瀉物が渦巻く大阪駅だったり、夕陽が沈むなか上本町行きに乗り換える伊勢中川駅だったり、練習後の心地よい疲労感と、家に近付く安心感と、今日も楽しかったなぁという気持ちを織り交ぜて「曲みたいなもの」を聴きながら、次のスタジオを楽しみに一日を終えるのです。

そしてまた幾日か「普通のサラリーマン」をこなし、再びメンバーとスタジオに入り、その続きに取り掛かるのです。あぁ、人生楽しい。ねぇ中村君、バンドやろうぜ(2回目)。

この「曲作りてぇ」衝動を解き明かしてみると、面白い発見があります。それはカッコよく「在りたい」という欲求が自分の真ん中にあるということです。

バンドをやっている理由に、売れたいとか、モテたいとか、そういったものも昔はありましたが今はもうほとんどありません。幾らか「認められたい」とかカッコいいと「思われたい」とか、そういったものは依然としてあります。

しかしもう少し自分の気持ちを深掘りしてみると、カッコよく「在る」ことが重要になってくるのです。認めてくれる、褒めてくれる「誰か」よりも、究極のところ自分だけ、ひいてはそれを共有するバンドメンバーだけがいれば良いという気持ちがあります。自分で自分を「カッコいいと思うこと」。それが、衝動の根源にありました。

 

[4]レコーディング

思い返せば、先日のガストバーナーのレコーディングもそうです。「なんだこれは!!」「変な音がして良い!!」「カッコよく録れた!!」と、各々が各々のカッコいいを求めて、かき集めて、纏めてぶつけ合って録音していました。

誰かがカッコよくないとみんなカッコよくなくなってしまうので、それぞれ事前に準備をし、「頑張ろう!!」「もう一回録ろう!!」といって励まし合い臨んでいたのでした。

16bh14_1

レコーディングを終え記念撮影するガストバーナー

一方ZOOZも最近とある曲のミックスが上がってきて、ああしたらもっとカッコいいんじゃないか、こうしたらもっとカッコいいんじゃないかと話し合っています。ZOOZではもう少しテクニカルなところまでしっかり言語化して、細部を詰めていくことでカッコいい「在り方」を追求しています。

どちらも共通しているのが、「これはウケるぞ」と思って活動していない点です。あ、いや、多少はあります。すみません、人間なもので。

遠くまで届いて欲しいとか、ボトルシップや手紙をつけた風船のような祈りに近い願いはありますが、それはカッコいい「在り方」が多くの人に届いてほしいというもので、やはり真ん中にあるのはカッコよく「在ること」です。衝動の正体はお金も権力も他者の羨望の眼差しも本来的には関係ない「在り方」でした。

 

[5]衝動の正体

衝動の正体は、言い換えれば「自己実現の欲求」であるともいえます。ここで心理学者マズローの『人間性の心理学』の一節を引用して、コラムを閉じたいと思います。

“自分自身、最高に平穏であろうとするなら、音楽家は音楽をつくり、美術家は絵を描き、詩人は詩を書いていなければならない。人は、自分がなりうるものにならなければならない。人は、自分自身の本性に忠実でなければならない。このような欲求を、自己実現の欲求と呼ぶことができるであろう。”
(A.H.マズロー『人間性の心理学』72頁)

少し翻訳に違和感はあるのですが、衝動の正体は仕事や職業に限定されたものではありません。また、他者の視線や社会的な成功に基づくものでもありません。自分の中にある本性に従い、忠実に生きるということです。そう思えばきっと僕は今、とてつもなく幸せな毎日を過ごしている気がします。自分の本性に生きている結果が「16ビートはやお」だっただけなのですから。

そして「普通のサラリーマン」であることがまるで良くないことのように書いてしまいましたが、それが中村君の最高の平穏に繋がるのであれば、それはそれで良かったのかもしれません。中村君、バンドやらなくていいぜ。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

〈ZOOZ〉
2024/8/17(土)東京・新宿Marble
ZOOZ『Mutation』レコ発東京編
ZOOZ / Pink Zaphod Magical Beeblebrox / 神々のゴライコーズ

2024/8/24(土)大阪・心斎橋火影&新神楽
未知鳴る世界でさるかに楽戦

2024/9/8(日)京都・二条GROWLY
ZOOZ『Mutation』レコ発京都編
ZOOZ / SuperBack / ウサギバニーボーイ

〈ガストバーナー〉
2024/8/18(日)名古屋・池下UPSET
終活クラブレコ発名古屋編
ガストバーナー / 終活クラブ / Crab蟹Club

2024/8/31(土)東京・池袋Adm
十七代目梅雨将軍2man series「ガストHERE将軍」
ガストバーナー / HERE / O.A. 尾形回帰+現象

2024/9/1(日)名古屋・SPADE BOX
GAS and PIERO
ガストバーナー / 感覚ピエロ

2024/9/14(土)東京・新宿TOKYO CALLING

2024/9/15(日)宮城・仙台FLYINGSON
セックスマシーン!!『先祖にラブソングを』リリースツアー
ガストバーナー / セックスマシーン!! / 虎の子ラミー

2024/10/6(日)名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
ガストバーナー『Tonight Tour』名古屋編
ガストバーナー / THIS IS JAPAN / 171

2024/10/19(土)新潟・GoldenPig BLACKSTAGE
『HEREの本気で狂い咲きツアー2024』
ガストバーナー / HERE / 鴉

2024/10/20(日)京都・二条GROWLY
ガストバーナー『Tonight Tour』京都編
ガストバーナー / HERE / SuperBack / ふぞろいのモーモールルギャバン

2024/11/2(日)東京・池袋Adm
ガストバーナー『Tonight Tour』東京編
ガストバーナー / folca / QOOPIE

2024/11/23(土)大阪・寺田町Fireloop
『HEREの本気で狂い咲きツアー2024』
ガストバーナー / HERE / ロマンス&バカンス / O.A.ワンダー久道

2024/11/24(日)兵庫・神戸D×Q
『HEREの本気で狂い咲きツアー2024』
ガストバーナー / HERE / ロマンス&バカンス

◆Latest Release on Spotify

◆SNS
ex.Twitter (X) @Ssssuuummi
Instagram @16beathayao
Hatena Blog id:sssuuummmiii
note id:16beat_hayao

LINEで送る
Pocket

Tags:, ,