俺が変われば世界が変わるかもしれない――DETOXが10年で見出した可能性『ミクロコスモス』

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◆数字や生活苦が理由で楽器を置いたり、プラグを抜くのは健康的じゃない

――DETOXで足りない部分を補うことと、これまで知弥さんが個人的に考えていたことが融合した結果、『ミクロコスモス』が完成したということですね。2022年から制作がスタートして完成したのが今年ということは、かなりじっくり時間を掛けた根気強い制作であったこともうかがえます。

知弥 2022年の年末、「俺のやるべきことって音楽なのかな」みたいにすごく悩んだんです。でも彦と詩音(※三浦”九芍”詩音。n:u、NEONS.tyo、NINJA PUBLICのメンバー)と遊んだ日に、ふと吹っ切れたんですよね。「俺の感覚は間違ってないな」みたいな感じというか。そこから急に、体調が改善していったんですよ。

――『ローリング・サンダー』と通ずる話ですね。

知弥 しょっちゅう風邪引いてたのにそこから全然なくなったし、高1から再発したアトピーが治ったりして。でもこれは俺がそのあたりから毎日納豆を食い始めたり、好きな子ができたから説もあります(笑)。というのも当時フラれたとき、All Good SoldiersのRyoheyからボロカスに俺の悪いところを指摘されて。Ryoheyの言ったとおりに生きてみたらいい巡りが起きてきたんですよね。それで2023年2月から週2ではじと制作に入って、12月にすべてのトラックが出揃って。それから淳太のところに持っていって、レコーディング合宿に入りました。

――川口さんは理論と感性どちらも兼ね備えているタイプだから、クリエイションを共にするのには心強いだろうなと。

知弥 俺らの周りほんと右脳派ばっかりだから(笑)、どっちも持ってる淳太はすごく頼りになるんです。長い年月一緒に過ごしてきたし、かなりいろんな音楽を知っているから、人間関係的にも音楽的にもキャッチボールがすごく円滑で。淳太のアイデアも俺らに刺さるし、俺らのアイデアも淳太に刺さる。そういういい関係性を築けるだけでなく、行動力も実現力も計画性もある。一緒に制作するのは淳太以外考えられなかったですね。

――曲調だけでなく、知弥さんの歌詞の切り口も変わりましたよね。不確かなものも歌詞にするようになったというか。

知弥 歌詞に具体的な場面を描いた箇所が少なかったな……ってちょっと反省してるんです(苦笑)。今回はそれよりも自分の心情みたいなものが優先されたというか。

――それも今のDETOXや知弥さんにとってのリアルなんでしょうね。10年のバンド人生を総動員したうえで、さらにここから新しい可能性を突き詰めていくアルバムだとも思うので。

知弥 『ミクロコスモス』のリリース日、はじと一緒に『宵の明星』を聴いたら、客観的にも「あれ? 売れてないとおかしいな?」って思うほど相当良かったんですよ。根拠はないけど、ここまで間違ってないっぽいなとは感じてるんです。『ミクロコスモス』はさらにそこからアップグレードされたので、「10年あればこのぐらいにはなれるぜ」と後輩のバンドマンにも伝えたいんですよね。……よく「音楽をやめる」って言うじゃないですか。俺、あの風潮をぶっ壊したいんですよ。

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――確かに今も昔も「音楽で食っていけないから音楽をやめる」という人は多いです。

知弥 音楽そのものに興味がなくなったり、しんどくなったならやめても仕方ないけど、数字や生活苦が理由で楽器を置いたり、プラグを抜いたりするのは健康的じゃないなと前々から思っていて。音楽はどんな状況でも続けられるし、ちょっとギターやベースを弾いたりドラム叩いたりしてたら、それはもう音楽人じゃないですか。下の世代がとにかくのびのびクリエイトできる場所……場所というよりは時代を作りたいんですよね。

――作れる人は作ったほうが健康的ですし、それが自然ですよね。自分の中に湧き上がったものが、アウトプットされないままだとパンクしてしまうので。

知弥 制作欲も感情も、アウトプットって大事ですよね。つらいことをつらいと言えないからつらいみたいな、そういうのが俺含めみんなあると思う。今の時代の若い子は特にそうで、「怒ると心が荒むから怒らないようにしてる」というのも「怒れない」の間違いなんじゃないかなと思う。「優しい」と「怒らない/怒れない」はまったく別のもので、肝心なときに怒りを表明できない風潮も変えたいんですよね。感情を飲み込んだ結果、その犠牲になるのは自分だけだから。

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いいアルバムができたという自信と、それが思うように届かない歯がゆさ。そんな両極端の気持ちを抱えながらも、知弥は未来の自分に期待を込める

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