16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第20回~自分と向き合え!レコーディング!
16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第20回 自分と向き合え! レコーディング!
[1]最大のライバルは自分自身
追いかける惑星より
痛みに負けたあたしの
最大のライバルは自分自身
今を生きてるでしょう
これは、僕がドラムを始めるきっかけになったSHAKALABBITSというバンドの『Parade』という曲の歌詞です。
僕はこの曲に幾度となく勇気づけられてきました。部活の試合前、大学受験、学生時代を経て、時を超え、今もターニングポイントで自分を見つめなおす楽曲の1つとなっています。
「最大のライバルは自分自身」、いい言葉ですよね。社会では毎日毎日他人と競争させられますが、芸事、スポーツなんかは社会とは違って、自分自身がライバルとなって立ち現れます。
もちろんバンドも場合もそうです。演奏してみて楽曲やライブの表現に足るスキルが身に着いていない場合、それは紛れもなく自分のせいです。どこかに言い訳を求めたくても、求めることができません。だからこそ、他人との競争より美しいのかもしれません。
そしてそんなバンド活動の中で、一番自分自身が「ライバル」として現れる瞬間が「レコーディング」です。どの瞬間も自分を誤魔化すことができません。全ての音が「今の自分」として跳ね返ってきます。
今夏、僕はガストバーナーとZOOZで10曲レコーディングする機会がありました。ありがたいことに10曲分、「自分と向き合う」貴重な経験ができました。今回はそんなレコーディングを「自分とどう向き合うか」という観点で書いてみようと思います。
[2]レコーディングはピリつきやすい?
レコーディングは「一般的に」ピリつく場面が発生しがちです。そして、そのピリついた雰囲気が苦手という人は結構います。
その多くは、特定のフレーズが何度やっても弾けない、叩けない、歌えない、メンバー間で想定していた録り方に違いがある、食い違いが発生する、ある程度録り進めた段階で引き返せなくなって揉める、とかです。そういった事象を発端として、ピリつきは発生します。
そんなピリつきの原因はシンプルです。自分、もしくはメンバーが「事前準備を十分にしていない」からです。富士山に登頂するのに半袖短パンサンダルでやってきたようなものです。
それなのに「俺は富士山を本気で登りにきた」と言っているのと同じくらいの意気込みで「良い曲を、良いテイクで録りたい」と考えているものですから、いざ録り始めると現実に直面します。ピリつく前にもっと準備しておけよという話です。
曲やメンバーと向き合っていない、ひいては「自分への向き合い」が足りなかったから何かに怒り、ピリついているのです。怒る前に、取り戻せない時と自分の行いを反省すべきなんです。
そういった意味で、まさしくレコーディングは自分自身との闘いです。レコーディングに入る前に、一度試しに本番を想定して曲を録ってみる、いわゆる「プリプロ」という作業があるのですが、これは曲のクオリティを上げると同時に、「ピリつき発生防止装置」としての効力を発揮していると、僕は思います。
[3]アザラシ監督はスケープゴート
ガストバーナーは「アザラシ監督」がレコーディング現場を指揮しています。
アザラシ監督は可愛い顔と裏腹に、不当なほどはるきちさんに厳しく、辻斬りっちゃんに甘い。中途半端な昭和脳でパワハラ・モラハラを行い、自分がレコーディングを盛り上げている、自分が居なかったらレコーディングは成り立たないと思っている(という設定の)キャラです。
アザラシ監督の存在は、レコーディングにとても重要です。いや、彼のパワハラ気質が必要というわけではありません。
メンバーはみな、それぞれ事前準備をしっかりしてレコーディングに臨みますが、思わぬ箇所で躓く時があります。そういったときにアザラシ監督が先陣を切って、メンバーを鼓舞(という名の自覚なきパワハラを)します。すると、場がピリつく前にほっこりして、笑いに変わります。そうこうしているうちにリラックスして無事に躓きをクリアしていたりします。
そういう意味でアザラシ監督は、スケープゴートの役割を果たしています。アザラシなのに羊(ゴート)。これいかに。
メンバーはみな、「レコーディング楽しかった」といいます。それは、メンバーが皆それぞれ自分に向き合って当日を迎えたから、そしてアザラシ監督のような当日を楽しく乗り切るステキな仕掛けが存在するからです。
自分との向き合いの先に「楽しい」がある。そんなことをレコーディング終わりには、毎回感じます。

ガストバーナーは名古屋のSTERICALI Studioにてレコーディングをしています。改装前は喫茶店だったので、落ち着いた雰囲気を残しています。エンジニアはガストバーナーすべての楽曲を担当してくださっている我らが松井さん

ドラムのレコーディング中はこんな感じです。部屋の効果もあり、ここで録るドラムの音はワイルドでドープな印象です。良いです。壁の傾斜にも松井さんのこだわりが詰まっています。録れ音のコントロールも勿論可能で、至るところで松井さんの腕が光ります。アザラシ監督に見守られながらのドラム録りはリラックス効果増しです
[4]料理の鉄人
一方で僕がドラムを叩いているもう一つのバンド、ZOOZのレコーディングでは、アザラシ監督の「ア」の字も出てきません。アザラシ監督は家でお留守番です。
ZOOZのレコーディングは非常に「潔い」です。すべての判断が早く、無駄が少ないのが特徴です。
まずはドラムとベースを一緒に録りますが、ZOOZの場合はエンジニアさん含めてみんな同じ部屋に居ます。録音中、楽器を持たないメンバーはおしゃべり厳禁です。くしゃみもできません。僕とじょうざき君(ZOOZのベース)が全力で録っているすぐ横で、じっとその様子を見つめるメンバーが居る、という構図です。
そのおかげで、通常部屋を挟んでマイク越しに行うエンジニアさんや、他のメンバーとのコミュニケーションが即座にできます。まるで料理の鉄人かのごとく、手際よく調理して料理を仕上げていくような感覚で、次々と「はい、一丁上がり!」とレコーディングはサクサク進みます。
そして、このサクサク進むレコーディングの要は「周到な準備」です。例えば、「この曲のドラムサウンドのイメージある?」とエンジニアさんに問われたとき、即座に「マーズボルタのInertiatic ESPみたいな感じですね!」なんていう会話ができなければ成り立ちません。むしろ、そういった情報は前日までにまとめて共有したりもしています。
そうやって録る曲の「解像度」について事前に極限まで高めておくこと、が何より大事だったりします。

この至近距離で丁々発止のレコーディングが繰り広げられます。ZOOZはStudio SHIKARIというスタジオで録っています。エンジニアの金井さんは、とにかく全てに対するレスポンスが早い。軽快な関西弁から繰り出される判断も早く、随所に経験と理論が噛み合った腕が光ります
[5]挑戦する人生は結構楽しい
SHAKALABBITSのドラマーであり、作曲も手掛けるMAHさんはかつて「最初は1人の頭にあった曲が、まずはメンバー4人でスタジオで共有されて、最終的にリリースされるとみんなのものになる、それが感動する」という主旨の話をしていました。レコーディングが終わったときに、いつもこの言葉を思い返しています。
自分自身と向き合い闘った結果、回りまわって誰かを感動させる、そういう面白さが音楽にはあります。いや、音楽だけではなく、スポーツでも、小説でも、漫才でも、研究でも、あらゆる本気は人を感動させることができます。
けれど自分自身と向き合った瞬間、自分の不甲斐なさに悲しくなってしまうことも多いです。というか、ほとんどはそうです。努力するのは疲れますし、毎日ギリギリまで寝ていたいものです。もし、読んでくださっている方で、そんな自分の不甲斐なさを隠して生きている方がいたら、この引用をお送りします。
自分をよく見せようとする人や、他の人から自分が有能であり知者であると見られていると思っている人は、そのような他の人の自分についてのイメージに合わせることに汲々とすることになります。他の人が自分について持っている「できる人」というイメージに縛られ、本来の自分の力を発揮できなくなるのです。
岸見一郎『「普通」につけるくすり』サンマーク出版221頁
一度肩の力を抜いて、等身大に自分を見つめ直してみてください。自分自身は、思ったよりも「できないこと」が多くて、情けない存在だと思います。そんな自分を認め、受け入れること。そして最大のライバルは自分自身であると自覚すること。そんなことから身を奮い立たせてみると、意外と楽しい人生がひらけてくるかもしれませんね。
◆Live Information
《ZOOZ》
2025.08.23(土)大阪 扇町para-dice
para-dice企画「FROM THE BASEMENT」
ZOOZ / ダイバーキリン / コロブチカ / bed
2025.09.21(日)大阪 寺田町Fireloop
16ビートはやおpresents.「すごいビート」
ZOOZ / ガストバーナー / ヤジマX KYOTO / ふぞろいのモーモールルギャバン
2025.10.19(日) 大阪 扇町para-dice
「ニューウェーブコンサート2025」
ZOOZ / Mrs.PoohScratchLove / RobotMeetRobo
《ガストバーナー》
2025.08.30(土)名古屋 新栄ROCK’N’ROLL
「Summer vacation 2025」
ガストバーナー / それでも尚、未来に媚びる / the coast
2025.09.13(土)東京 池袋Adm
「プピリットパロ15th ANNIVERSARY 特別企画 GET BACK GROUND
Vol.9~芸術の秋~」
ガストバーナー / モノノケノノモ / プピリットパロ
2025.09.14(日)大阪MUSE & MUSE BOX
「YOWLL Fes in OSAKA」
ガストバーナー / YOWLL / Bob / CAT ATE HOTDOGS / clione-index / Jessica / LONE / No Fun / pudelhunds / SHARON / SleepInside / Telepathy / WELL DONE SABOTAGE / 衝動革命 / ジラフポット / ソナチネ / マママ・ダ・マート / ヨークシン
2025.09.21(日)大阪 寺田町Fireloop
16ビートはやおpresents.「すごいビート」
ガストバーナー / ZOOZ / ヤジマX KYOTO / ふぞろいのモーモールルギャバン
2025.10.4(土)千葉 稲毛K’s Dream
「プピリットパロ 15th ANNIVERSARY TOUR 2025」
ガストバーナー / プピリットパロ / 首振りDolls / セックスマシーン!!
〈ガストバーナー 1st Full Album “TAROT”ツアー〉
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