16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第22回~二足の草鞋の呪い

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第22回 二足の草鞋の呪い

 

[1]会社員とバンドマンの狭間

いやぁ、中途半端だなぁと思います。平日は会社員、休日はバンドマン、どちらに軸足を置いているかと言われれば、会社員のときもあるし、バンドマンのときもあるし、どちらにも同じくらいというときもあります。

だからとても都合が良くて、言い訳が沢山できるんです。言い訳をしているつもりがなくても、どこか「そういう雰囲気」が出ていると思いますし、10年以上この毎日を積み重ねているので、日に日にそういう雰囲気が強くなっている気がしています。

そんなこと考えているくらいなら、会社員か、バンドマンか、どちらかはっきりさせろよ、と思うのですが、その覚悟もなく、どちらとも言えず、ひたすら会社員とバンドマンの狭間を漂っているのが苦しくもあり、同時に心地良いのだと思います。

あ、暗いですか? すみません、すみません。でも、本当に悩んでいることでもあります。この悩みを打破できた時に、次のステージにいけると思うんです。そういった本音を、2025年に置いていこうと思います。

 

[2]色眼鏡

漫才が好きなのでよく観ているのですが、「アマチュア漫才師」「社会人漫才師」なんて言葉を聞きます。これは、「学生でもなければ、プロではない」漫才師のことで、本業が別にある状態でステージに立つ漫才師を指します。

まるっとそのまま、「漫才師」というワードを「バンドマン」や「ドラマー」に置き換えると僕の現状と同じになります。

そして、そんな漫才を観ながらハッとしたことがあります。それは、「社会人だけど面白い」「プロではないけど上手い」ということを無意識に感じていて、どこか、そういう色眼鏡を掛けながら笑っている自分がいる、ということです。

どこかで僕は、「社会人」とか、「プロではない」とか、そういったフィルターをかけて、ハードルを低くして漫才を観て「笑おうとしている」ということになります。

もう少し自分に置き換えて考えてみれば、僕は無意識下で、現状のドラムやバンド活動についても「社会人の割にはよくやってる」「アマチュアにしては頑張っている」の域を抜けていない、ということです。

これは本当に困りました。言い訳にしていないつもりで、「社会人であること」を全ての言い訳にしている。

うーん、どうやってこの「社会人言い訳蟻地獄」から抜け出そうか、抜け出さないと、次に進めない気がしています。

 

[3]髹漆

そんな悩みを抱えたまま、今年はずっと悶々としていました。「きっとどこかで後ろめたいこと」があるから、こんなに言い訳が浮かんでしまうのでしょう。10年以上社会人とバンドマンの二足の草鞋を履き続けてきて、気づけばその草鞋そのものが呪いになっていました。

先日、僕が最も好きなバンドであるDeerhoofの来日公演があり、観にいきました。ライブを観るのはコロナ禍以降初めてになるので、「観て盗めるものは全て盗もう」と思っていました。

ライブはとても素晴らしいもので、グレッグ・ソーニア氏のドラミングは相変わらず鬼気迫るものがありました。彼は「奇人ドラマー」と呼ばれるくらい、ドラミングに癖があります。まるでリズムから解き放たれたような癖の応酬、突然沸点に達するダイナミクスに磨きがかかっているように見えました。

グレッグ氏のドラミングは、コロナ禍前に見た時と変わっていないようにも見えたし、多くの人はそう見ていたに違いがないのですが、僕には、彼の突飛で目立つ部分ではなく、目立たない「静」の部分の作り出し方に磨きがかかっているように感じていました。

ここで僕は、「髹漆(きゅうしつ)」という概念をドラムやバンド活動に取り入れようと心に決めました。髹漆とは、工芸の分野で「漆を重ねて塗ること」を意味します。漆を塗って、研いで、磨いて、また漆を塗る。これを何度も何度も繰り返すことで、深い艶や、芸術品としての美しさを出す工程です。これを自分のドラムに取り入れる、そう決めました。

自分の中で、すでに技術もそれなりについているけれど、漆を重ねて塗れていない部分はどこだろう。平たくいうと、自分の弱みを見つめろ、ということなのですが、「髹漆」という言葉で、多少は浮き上がって見えてくるようになりました。

 

[4]ライブの凄み

きっと、ライブの「凄み」というものは、漆を重ねたところから出てくるのだと思います。Deerhoofもそうですが、ここ最近イベントで一緒だったアルカラや空きっ腹に酒、How to draw A castleのライブを観て改めて感じ、漫才では喧嘩や不仲まで生々しく流しながら切磋琢磨する姿(センリーズやマーメイドが最近話題に上がっていましたね)を観て、師走に入り体調を崩しながら完全にモードが切り替わりました。

そこには、プロもアマも違いはありません。ただ社会人という、生活に保険をかけた状況よりも、音楽一本で、漫才一本で人生を賭ける人がその「凄みの極地」に辿りつきやすい状況にあるのだとも思います。保険をかけた生活の方が「言い訳っぽい雰囲気」の出やすいことは、想像に難くありません。より強く、意識して日々を過ごさないといけません。

一先ず、「髹漆」の考えで、無意識の言い訳の呪いから抜け出すことができるかもしれない、という希望が生まれています。ドラミングも何層か漆を塗ることができ始めていると思います。まだまだ、足りませんが。

強みと思っていたところが、同時に弱みであることに気づいたり、ただ技術を高めるのではなく、すでにできる能力があるのにまだ手をつけていないこと、などが案外沢山溢れでてくる日々を、現在は過ごしています。まだまだ、できることは沢山ありますね。

ただ、これを現在は一人で完結させている話なので、バンドに拡げるにはまた課題もあります。すっきりした人間関係であることや、メンバーそれぞれの生活スタイル、価値観、メンタル、そういった自己完結できないものを織り込み、互いにリスペクトし、配慮しながら一体となる必要があると思っています。そこは正直、更に難しいと感じています。

悩みは尽きないのですが、会社員とバンドマンの狭間でもがく者として、来年も生きていこうと思っています。

そうそう、初めて健康診断で引っかかったんですよ。年齢かぁ、と思って再検査に行ったら、「引っかかった項目があまりに限定的で、他は健康そのものなので、多分仕事のストレスとかで一時的に数値が高く出ただけだと思いますよ」と言われました。

仕事のストレス!! 負けませんよ、ええ。来年もよろしくお願いしますね。みなさん、健康で、生きてまた、ライブハウスでお会いしましょう。

 

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◆Live Information

《ZOOZ》

2026.01.24(土)西成CLUB WATER
ZOOZ / LEEVE ROSELYN / PROCYON / sheeve / MELTME / ANYO
VJ : Shunma
DJ : PIGSY / 1llintosh / BREAKIN’BAD / Kazuki / 426

 

《ガストバーナー》

〈ガストバーナー 1st Full Album “TAROT”ツアー〉
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