THE NOVEMBERS -2015.4.9 at 渋谷CLUB QUATTRO

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THE NOVEMBERS
QUATTRO TOURS – A Decade Of Beauty –
2015.4.9 at 渋谷CLUB QUATTRO

10年間新しい始まりを迎え続けてきたTHE NOVEMBERSの現在

取材・文:沖 さやこ
撮影:OZK

 

THE NOVEMBERS初の映像作品『“TOUR Romancé” LIVE AT STUDIO COAST』のリリースと、記念すべき結成10周年を受けて全国のCLUB QUATTROで開催された「QUATTRO TOURS – A Decade Of Beauty -」。もともとはそれだけのはずだった。だが、ギター・ヴォーカルの小林祐介に、indigo la End/ゲスの極み乙女。の川谷絵音(※彼はTHE NOVEMBERSの大ファンであることを公言しており、自身のバンドでのワンマン開演前のBGMにTHE NOVEMBERSのアルバムをリピートさせたりもしている)がTwitterで「【keep me keep me keep me】が聴きたい」とリプライしたことをきっかけに、小林がリスナーに向けて「クアトロツアー、聴きたい曲ありますか?」とツイートした。

そしてその発言に、THE NOVEMBERS infoアカウントを取り仕切る、MERZチームの一員である敏腕犬・舐太が反応。すかさず「それならきちんとリクエスト取りません?」と返す。するとそこにまたもやチームの一員であるコミュニケーションデザイナーの高野修平が「だったら、ファンのみんなの想いを手書きかなんかで募集するのはどう?」とかぶせてきた。筆者はこの様子をタイムラインでリアルタイムで見ていたのだが、まるで事務所の作業中のような空気がそこに出現したことに、THE NOVEMBERSチームは物理的に同じ場所にいない状況でも常に結束してアンテナを張っているのだと思った。結果その後緊急会議が行われ、インスタグラムにて聴きたい楽曲を3曲、公演会場名と日程を入れたハッシュタグ付きで投稿するという方法が取られた。その名も「Handwriting of beauty」。そのあとすぐTHE NOVEMBERSチームはインスタグラムの公式アカウント開設した。

これを受けて小林祐介も公式コメントを発表しているが、この背景あってこそのライヴだったと思う。「大好きなあの曲が聴きたい」という観客の想いにバンド側が答える。その日限りではなく、手紙の返事のような、今までとこれからがあるから作り上げられる空間だった。「Handwriting of beauty」が発表されたときには、既に「QUATTRO TOURS – A Decade Of Beauty -」は始まっていたのだ。

#THENOVEMBERS東京

A photo posted by THE NOVEMBERS (@the_novembers) on

筆者はファイナル2デイズの初日にお邪魔した。エスカレーターでCLUB QUATTROのあるビルの最上階まで上ると、たくさんの『“TOUR Romancé” LIVE AT STUDIO COAST』のポスターが出迎えてくれた。会場内に入ると、グランドピアノ1台による演奏曲が流れている。前回のツアーとは趣が異なるBGM。毎回細部までポリシーが貫かれている。

「QUATTRO TOURS – A Decade Of Beauty -」では「Handwriting of beauty」で集まったリクエスト曲のうち、上位10曲を必ず演奏することが約束されていた。セットリストが約半分観客に知られたうえでのワンマンライヴという状況も面白い。一体この曲はいつごろ演奏されるのだろう、一体どの曲の次に演奏されるのだろう……開演前の観客たちはそんなふうに想いを巡らしているようにも見えた。少なくとも筆者が実際にそうだった。

nov_150409_3【Romancé】のイントロが鳴ると、場内がゆっくりと暗転してゆく。ステージに現れた4人はそのまま同曲を演奏。自分たちが生み出していく音に乗り、とても心地良さそうに揺れるメンバーの姿が印象的だった。立ち込めるスモークを緑色のライトが下から照らし、MVの世界観が現実に表れているようだ。【Flower of life】【ブルックリン最終出口】と、その滑らかな音色に恍惚とする。これは高松浩史のベースの影響がだいぶ強い。調和の取れた4人の音を優雅に牽引していく。サウンドを底から掘り起こすようにやわらかく耕す低音の上で、ケンゴマツモトによる【ウユニの恋人】のギターソロが一層輝いていた。

nov_150409_2吉木諒祐のドラムで始まる【アマレット】は、7年前の曲というのも理由のひとつか、シンプルなアレンジが個々のキャラクターをよりはっきりと出していた。素朴な小林のギターも美しく透き通っていて、その無垢な輝きを受けて2008年へとタイムスリップしたようでもあった。そこから間髪入れずにケンゴのギターが鮮やかに【Rhapsody in beauty】へと誘う。【アマレット】~【Rhapsody in beauty】の流れは、心地よい眠りと夢から目覚め、前進へとつながっていくようだった。やはり現在のTHE NOVEMBERSは切り開く力を持っているのだ。全国デビュー盤『THE NOVEMBERS』の1曲目に収録されている【she lab luck】ではフロアから大きな歓声が沸く。歴史のある曲はたくさんの人々の想いや思い出を吸収しているのだ。当時には感じられなかったダイナミズムに、会場にいた全員が歓喜していた。

nov_150409_4名曲【mer】は小林の紡ぐ言葉の強さを痛感する。〈これから/どこへいこうか〉というラストの一節を歌う彼が妙に切実で、胸のなかを抉るように沁みた。【鉄の夢】【blood music 1985】【Xeno】と4人からは剣を交えるようなひりついた空気が生まれる。そこには鋭さだけではない清涼感があり、その理由は恐らくこの日が10年間この仲間とバンドを続けていけること、素晴らしいチームとともに活動できていること、それを信じるリスナーがいること、すべての感謝への喜びのエネルギーから派生するものだったからだと思う。昨年11月のSTUDIO COASTでのツアー・ファイナルを終えて、バンドは紛れもなく次のステップへと進んでいることを痛感した。このバンドはまだまだ変わっていくのだろう。彼らは10年間そのときそのときの自分自身を音楽にしてきた。その世界をしかと守り、誇りとして堂々と掲げながら、想いのままに音を鳴らしていく4人を見て、そんなことを思った。

アンコールではまず、小林が「あと2曲リクエスト曲が残っています。ものすごく久し振りにやる曲」と言い【Moiré】を披露。ハープとトランペットの音色がシンボリックな楽曲で、この曲をいつかすべて生楽器で聴ける日が来ることを切に願う。「また明日から元気にがんばりましょう」とラストは【再生の朝】。ケンゴはシンセを、吉木はドラムに加えてドラム・パッドを用い、高松はベースを弾きながら左手でスティックを持ち太鼓を叩く。この曲を最後に聴いて、走馬灯のようにTHE NOVEMBERSの楽曲が頭のなかに流れてきた。彼らには夜明けや朝、目覚めを思わせる楽曲が多いのだ。彼らは10年間ずっと新しい始まりを求め、それを迎えてきたんだ――今更そんなことに気付いて、尚更彼らがこれから先に迎える次々の朝を知りたくなった。

終演後には黒地に白字の手書きのセットリストと、「Handwriting of beauty」で集まったリスナーによる多数の手書きリクエスト写真で構成されたステッカーを頂いた。どちらにも最後に“Thank you”と書かれている。さて、こんな素敵な手紙を頂いてしまって、どんな返事を書こうか――このレポートは、稚拙ながら筆者なりのそれである。

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