Age Factory 『NOHARA』
MINI ALBUM(CD)
Age Factory
『NOHARA』
2015/09/16 release
SPACE SHOWER MUSIC
「戦う人間のために音楽を」――純粋ゆえの激情の咆哮
轟轟と繊細、静と動、清澄と狂気――奈良出身在住、平均年齢22歳のスリーピースAge Factoryを語るとなると、相反するものを並べられることが多い。どの例えも、その根本にあるのは「純粋」だと思う。彼らの音楽は痛烈なまでに清廉で、汚れていない。汚さやずるさを受け入れる場所が存在せず、だからこそ3人の音は怒りや狂気を孕んでおり、時に暴動のような音を鳴らし、憂いを持つ。相反すると思える音楽の出どころは、すべて同じなのだ。喜怒哀楽がそのまま音に姿を変えたような音像が瑞々しく鳴り響く。
前作『手を振る』は自分の身近な対人関係から巻き起こる情景描写など、そのパーソナルな空間が美しいものだった。だが今作はM1【Ginger】の「戦う人間のために音楽を」という言葉が象徴的なとおり、彼らの音楽の向かう先には大勢の人々がいる。これは大きな変化だろう。音の強度は増し、よりエモーショナルでもある。その大きな起伏がバンドの躍動そのものだ。彼らの頭のなかには「自分たちをどう見せたらより映えるか」などという小賢しい思考は存在しない。「自分たちのいいと思う音楽をやれば、それがいちばん格好いいものだ」という思考を、ちゃんと実行に移している。音楽性としてはeastern youth、bloodthirsty butchers、LOSTAGEなどの男気を感じさせながらも清らかさを持つハードコアの匂いがあるオルタナ。ひりついた空気感はthe cabsにも近いものを感じる。どのバンドにも共通しているのは、やはり“純粋な激情”だ。
今作に収録された楽曲は1曲1曲で描かれているテーマが異なり、だからこその多様性を見せている。【Ginger】は宣戦布告と言わんばかりのエネルギーが鮮やかな導入。ポエトリー・リーディングというよりは即興の演説に近い、突き動かされるがままの心と直結した言葉が並ぶ。そこからのM2【NOHARA】は〈意味はない〉〈感じやしない〉〈見出せない〉〈何もない〉〈生まれない〉など、〈ない〉という“無”の表現が全面に溢れる楽曲。そしてアグレッシヴな演奏から、その虚無感に抗うような生々しい血の匂いを感じる。冒頭のアカペラのハーモニーがDirty Projectorsのような人のぬくもりを感じさせるM3【さらば街よ】は、生まれ育った街を出ていく、同年代の若者の背中を押す楽曲だ。少しずつ情景を変えていく音像は街を去り移動する道中や、新生活を迎えて過ごす月日の積み重ねの描写にも繋がる。とても優しく綺麗な音で、清水エイスケのしゃがれたヴォーカルもとてもあたたかく力強い。女声のやわらかいファルセットが重なるところは、新しい街で新しい大切な人と出会えるという希望が描かれているようでもある。
Age Factory “さらば街よ” (Official Music Video)
ラストのM5【autumn beach】とM6【海を見たいと思う】は、彼らの楽曲によく登場する“海”がキーワードになったもの。彼らの表現する“海”とは、海そのものというよりは、とても大きな概念であるように思う。特にM6で描かれている海は“未来”ではないだろうか。〈あの水平線を超えて/生まれ変わるよ〉――そう歌う清水は最後のサビで〈置いて行かないよ/君と行くから〉と歌う。これまで出会いや別れなどの過去を歌っていたことが多かった彼が、未来の希望を歌ったものだろう。10代では感じられなかった想いや、考えなかったことが、Age Factoryの音楽にまた新たな表情を生んだ。彼らの音楽には人が不可欠だ。なぜなら彼らの音楽は、彼らの生活と感情そのものだから。そして彼らはこの『NOHARA』で、顔を知らない人のもとに訪れようとしている。そして音を届けようとしている。どうしても埋まらない虚無感を埋めるように人に向けられた音楽は、一体この先どんな心情を描くのだろうか。彼らの目指す海には、何が待っているのか――。(沖 さやこ)
Age Factory “さらば街よ” (ドキュメンタリーMusic Video)
◆Disc Information◆
Age Factory/NOHARA