cinema staff presents「OOPARTS 2015」密着レポート

LINEで送る
Pocket

そしてとうとうcinema staffの出番。直前に飯田は楽屋で声出しをする。「みんなすごいライヴしてくれたから負けられないですね」と冗談ぽく声を掛けると、「本当にそうですよね」と笑うが目は鋭く真剣だ。club-GにClimb The Mindの【萌える傘の下】が流れる。ステージにcinema staffの4人が登場すると、三島の「ようこそclub-Gへ、ようこそ岐阜へ。俺たちが岐阜県のcinema staffです」という挨拶で1曲目は【theme of us】。三島はステージ前方センターまで出て観客を煽る。辻は何度もフロアの柵に足をかけて、観客と触れ合う。4人の演奏は観客、スタッフ、出演者の想いやエネルギー、期待を全部味方につけたような、大きな音。とにかく抜けがいい。勢いもある。ポジティヴさしか存在していないが、生ぬるい空気は一切なし。それはこの場にいるすべての人々、そして自分たちの歴史の登場人物である人々への感謝の念だろう。〈我らがスーパーマン〉という言葉に偽りなしだ。舞台袖には上手にも下手にも、出演者とスタッフで溢れており、フロアは満員。全員が晴れやかな表情で4人を見つめている。ワンマン以上にワンマンのような空気だ。

s_ooparts1

飯田が「アドレナリンがヤバい(笑)」と言うように、とにかくこの日の4人は楽しくて仕方がなくて、興奮が止められないという様子。そして飯田が『WAYPOINT E.P.』について触れ「これだけたくさんの人がいると名前がわからないから、あなたという言葉に集約してもいいですか? そしてあなたの歌だと思って聴いてください」と語り掛け【YOUR SONG】を披露。この曲は彼らの持つ誠実さを最も誤解鳴く伝えられる曲なのかもしれない、と思った。辻のギターはとても繊細で、楽曲をひとりの人間と例えるならば、彼の奏でる音色はその人間から溢れる涙のように感傷的だった。飯田も一言一言を大切に歌う。もちろん彼はどの曲もそうやって歌っているが、より素直に、心の奥の奥の核の部分で歌おうとしているようだった。生演奏は音源で聴くよりも遥かにエモーショナルで、改めてcinema staffの奏でる生音は、そのとき溢れだす彼らの感情があってこそ成り立つものだと思い知る。そしてこの曲を岐阜で、そしてこのOOPARTSで聴けることに大きな意味を感じた。

s_ooparts3

「OOPARTSはcinema staffが超かっこよくて最高だと思うバンドだけを呼んでるんだけど、ほんとに最高だよね」と久野が言うと、辻も満足げな表情で大きく頷く。飯田が「僕らが東京に行っていても、岐阜に帰ってくると必ず待っててくれる人がいる」と再度感謝を告げたあと、4人は【great escape】を投下し、三島の「東京から見た故郷の方角です」の口上で【西南西の虹】。久野のとんでもない手数のドラムが炸裂、辻はギターを歯弾き、4人から発せられる歓喜ゆえの集中力がかまいたちのように飛び回る。そしてラスト、辻と飯田が向かい合い奏でたイントロは【GATE】。沸点を超えた辻の表情はとても晴れやかで、余裕すら感じさせた。終盤三島はベースを弾きながら足がもつれるように崩れ落ち、立ち上がろうとするもなかなか立ち上がれない。人間の精神力が、身体の限界を超えた瞬間を見た気がして、息を飲んだ。

s_ooparts7

アンコールでは三島が今年は有志の若いバンドマンに助けられた旨を語り、感謝の気持ちを伝える。「自分たちはまだまだ足りてないことがいっぱいある」「でも今日みなさんの顔を見ながら演奏していたら、すごく幸せな気持ちになって。まだまだやれるなと思いました」と語ると大きな拍手が沸いた。「バンドがずっと続くなんて、大きな声で約束はできないんですよ。けど……やれるだけやりますから。まだまだやりますので、今後ともcinema staffをよろしくお願いします。海のないこの街で、想像のなかの海の曲をやります」――そう言って演奏されたのは【海について】だった。飯田はフロアを隅々まで優しく見つめて歌い、三島のハーモニカも堂々と響いた。cinema staffは過去の曲に、自身の成長とともに新しい意味を持たすことができるバンドだ。当時は救いを求めるような〈話がしたいな〉という言葉も、いまはもっと広いところへ我々と共に一歩ずつ歩むための言葉として存在しているような気がした。

s_ooparts4

終演後、カメラマンのヤオ氏がライヴ写真を選別していたので、覗かせてもらった。cinema staffの感情の昂りをしっかりと切り取った彼の写真を見て、彼らの長きにわたる信頼関係を痛感した。この原稿で何度もわたしは信頼という言葉を使っているが、OOPARTSとは集う人々の信頼と尊敬で成り立っている。そのすべてがcinema staffがバンド活動のなかで培い、得てきたものだ。

会場は撤収作業に入る。その最中に久野と話すと、彼は「今年はとにかく楽しかった。知ってる人たちばっかりだったし、リラックスできた」と穏やかな顔を浮かべる。辻もその横でとてもすっきりとした表情をしていた。だいぶ観客が引いたころ、三島が物販スペースに現れた。「お疲れさまでした!」と声を掛けると、笑顔で言葉にならない声を上げて固い握手をしてくれた。「すごく良かった。来年の秋にまた岐阜に来る予定ができました」と言うと「……やっぱり来年もやらなきゃだめですか?(笑)」と返す彼。するとすかさず周りのスタッフチームから「また来年もやろうよ!」「ずっと続けていこうよ!」と声が上がる。三島は今年、cinema staffの活動以外にも様々な楽曲提供やサポートの仕事を行い、そしてこのOOPARTSと、彼にとってこれまでにない忙しさだったと思う。だがこれだけ多くの後輩バンドマンがOOPARTS開催の力になってくれたこと、自分たちの活動のなかで出会った仲間とリスナーが岐阜に来てくれたこと、そしてバンドとしても個人としても活動が充実していること――彼にとって今年のOOPARTSはいままでとは違う種類の達成感や感慨があったのではないだろうか。

後輩の「三島さん、俺やりますよ」という言葉にも彼は「大丈夫、大丈夫」と言い、灰皿の片付けなど、迅速に撤収作業を進めていく。本当に責任感の強い人だ。そんな真面目な姿勢が音楽に表れ、人の心を掴み続けているのだろう。彼は打ち上げ会場にもスタッフとともに最後に現れた。「主役の登場!」と歓迎されたあと、乾杯の挨拶で再度感謝を告げた。そしてそのあと彼はソファに座った途端、眠ってしまった。仲間が身体をゆすってもぴくりとも動かない。そんな姿を遠くから見て、本当にお疲れさまでした、と心のなかで思った。OOPARTSはcinema staffが積み重ねてきた活動と歴史がそのまま投影されたフェスである。そして改めて、彼らは自分たちの過去をすべて背中に抱えて、未来へ向かって一歩一歩進んでいることを実感した。だからこそcinema staffは、知れば知るほど興味深いバンドなのだ。それを彼らを育てた岐阜で再確認できたことは、とても掛け替えのない経験になった。また来年の秋、この場所に戻ってこれることを祈っている。未来のcinema staffは、ここでどんな景色を見せてくれるのだろうか。明るい想像しかできない。

s_ooparts6

LINEで送る
Pocket

1 2 3 4
Tags:,