INTERVIEW OF CHICKEN ~臆病者2人の取材スタイル~ ONE TONGUE SUMMIT #4

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◆インタヴューの理想形は……

 わたしは音楽ライターなので、音楽を掘り下げることに従事しています。2010年以降、ものすごく分析ブームだと思うんですよね。ビジネスの話やどうやって成功するかという話、チャートやシーンの話、音楽業界の裏話とか……別にリスナーは知る必要がないだろう、という話がもてはやされる時代だなあと思うんです。現場を知らない人がそういう話を読んで知ったかぶってわかったような気になってしまうことも危険だと思うし。だからそこに抗うように、音楽の話をしています。

Ken Yokoyama 『Sentimental Trash』

ふく 僕も音楽の取材では音楽の話を、映画の話では映画の話しかしません。向こうから別の切り口で話し始めたときは別ですけどね。例外として、SNSなど各メディアで論客として知られている方、独自の視点からメッセージを発信できる方、一家言持っていそうな方、音楽以外の活動も活発な方にはビジネスとしてや、業界を俯瞰してのコメントを求めることもあります。この辺はある程度キャリアと影響力のある方、もしくは気鋭の存在として認知されている方ですね。たとえばサカナクション山口一郎さん、Ken Yokoyamaさん、ゴールデンボンバー鬼龍院翔さんなどでしょうか。ASIAN KUNG-FU GENERATION後藤正文さんもその枠かと思うんですが、以前Twitterで「(取材で)もっと音楽の話がしたいんだ」という旨をツイートされてましたね(苦笑)。Kenさんなどは自身の作品に対してだけでなく、ロックシーンや音楽業界、若者たちへのメッセージを発信することも多いですよね。

 Ken Yokoyamaさんのロックシーンや音楽業界に関するトークはとても興味深いですよね。献身的だなと思います。こういう内容のトークをすると、どうしても愚痴っぽくなるパターンが多いですが、Kenさんのお話は「昔は良かった」「今はこんなにひどい」ではなく、未来を見ている。わたしは「夢をリアルにしていくためにどうするか?」という話がしたいので、Kenさんのインタヴューはどれもすごく実になります。

ふく ちょっと脱線しますが、サッカーの本田圭佑などその最たる例で、彼は現役のアスリートでありながら2012年にサッカースクールをプロデュースして、今ではそのスクールは全国に数十校ありますし、昨年にはオーストリアのサッカークラブの経営に参入して実質オーナーを務めています。ビジネスマンとしても才能を発揮していて、日経ビジネスに取材されたりしているんです。経営者の方で彼に興味を持っている人も多いと思いますし、「本田圭佑ビジネス指南書」みたいな本を出したら大ヒットするんじゃないでしょうか。なにかとなにかを組み合わせる編集の仕事をしているせいか、ミュージシャンに限らず多角的に活動している人には強烈に惹かれるので、相手によっては僕はコアの部分以外を話したいこともありますね。

 そうなんですよね。そういう「面白いことをしている」という観点で音楽を聴くきっかけになる、その人の作るものに興味を持つというのも大事なかたちだと思います。でも面白いことをしているとそっちに注目が集まりすぎてそればっかり訊くメディアが多いなとも思うんです。音楽を聴かなくても訊けることでもありますし、やっぱり取り上げやすいトピックなんですよね。だから「音楽ライター」という立場では、音楽について掘り下げられるようにならないとな~と思っています。例えば、楽器のことがわからない若い子にも音の魅力を感じられるものにしたいな~という願望があって、演奏面での工夫とかを訊いたりして。ライヴレポートにしてもレヴューにしてもインタヴューにしても、読者さんの居場所がある記事にしたいなとは常に考えています。音楽媒体には読者を置いてけぼりにしたインタヴュー記事ばかりで、それが10代の頃からずっと嫌だったので……(笑)。

otsm_interwiew4ふく お話を聞く時のスタンスとしては、読者目線もありますが、まずは「その人の話したいことをちゃんと引き出すこと」に注力してます。その上でそれをわかりやすく解釈して発信できれば…と思ってますね。僕もいわゆる“ロキノン調”は学生の頃から「なんかカッコいい雰囲気だしそれっぽいけど、なに話してるのかよくわからん」と思っていたので、雰囲気原稿にはならないよう気をつけてます。ウチの雑誌はタウン情報誌なので、音楽に関してもあまりに専門的な話題になって読者がおいてけぼりにならないように意識して話を聞いています。

 「お相手が話したいと思うことを最優先に」というのは大前提だなとわたしも思っています。そのうえで読者視点は大事にしたいなあと。たぶんものすごく欲張りなんでしょうね……。自分の記事をきっかけに音楽の楽しみ方が増えてくれたら、わたしの発言がアーティストの刺激になったら、本当に言うことがないなと思います。特に音楽業界は「暗い話やビジネスの話をした人が正義」みたいな風潮がぬぐえないので、そこには抗おうかと(笑)。青くさいと言われるんですけど、わたしは音楽に夢を見ていたいんですよね……。音楽が創り出す夢を語りたいんですよね。音楽を生業にしている人はそういう気持ちを大体の人が持っていると信じているので、そこを引き出せたらいいなあ……と思っています。と、いろいろポリシーを語りまくりましたが、なんだかんだ言っても、その場を楽しむことがいちばんなのかなって。こんだけ散々語ってそれかよって感じもありますが(笑)。

ふく 僕も沖さんと同じです。楽しんでなんぼですよね。相手が楽しんだ様子で、自分も楽しかったなら、「良い取材だったのかな」と思うようにしています。

 インタヴューの正解はわからないですけど、やっぱり会話のなかで生まれる言葉たちなので、真心は大事にしたいなと思います。ときには悩み相談に乗ったり、ときには飲み会みたいに盛り上がったり、ときにはバチバチのケンカみたいなインタヴューをしたり。「これが正解だ」とは決め込まず、目の前にいる人との会話や発言を楽しめたらなあと思ってます。

 

ONE TONGUE SUMMIT archive
#1 音楽ライター×地方誌編集者のフェス論’15
#2 ストリーミング革命勃発! 音楽の聴き方はどう変わる?
#3 アーティストのTV露出と日本の音楽文化の活性

ABOUT AUTHOR
◆沖 さやこ(ライター)
2009年3月に音楽系専門学校卒。音楽ライターのアシスタントを経て、2010年5月からフリーランスライターとして活動を開始。横浜、大阪、伊豆に在住歴があり、現在は神奈川県屈指の城下町と江戸を往来する毎日です。ライターの傍らで実家の飲食店の手伝いもしてます。日本文化とダムと漫画と文学をこよなく愛す。→ワンタンマガジン内記事一覧

◆ふく(福島 大祐、編集)
福岡で情報誌の編集をしているエンタメ好きのアラサー男です。映画ページ担当。街の取材をしたり、いろんな人にインタビューしたり。音楽は「偏見をなくして触れる」がモットー。漫画も愛していて年間100冊以上買って読みます。多分。→ワンタンマガジン内記事一覧

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