Radiohead 【Burn The Witch】

LINEで送る
Pocket


Radiohead – Burn The Witch

SNSでの炎上、晒し上げといった行為を、魔女狩りをモチーフに例えて描いたのでは、と推測されているクレイアニメMV。小さな村にやってきたひとりの男(査察官?)と、それを向かい入れる村の人々。村長が男を案内していく先では、片方だけ池の上に下ろされた椅子付きのシーソーに乗って手を振る女性、木に縛りつけられて仮面を被った男たちに剣を突きつけられる女性、綺麗に花で飾りつけられた絞首台、血のようなものが滴り落ちる牛を模したパイ……。と、村長は生贄や処刑を連想させるものを次々紹介し、男はそれを見て驚く。

今でこそ「魔女狩りなんてただのオカルト」という感じですが、魔女狩りは「憂さ晴らし」の要素も持ち合わせていたそうです。村や国に疫病や天災による農作物の不作といった「自分たちによくないこと」が起こると、行き場のない不安や苛立ちを「魔女のせいだ!」と言い、魔女とされた人を様々な方法で処刑していました。ラノベタイトル風に言うと、「私達の気分が悪いのはどう考えてもお前が悪いっ!」です。そして、社会的不満を解消するための生贄と、その儀式のようなものでもあったのだそう。

日本でも晒し首など、古代ギリシャでも猛獣と罪人を戦わせて死に様を眺めるという催しも行われていた施設「コロッセオ」がありましたが、こうした「悪者とされる人には何をしても良い、それらがどうなろうとしったこっちゃないし、悪い奴等なんだから傷つこうがこの先の人生がどうなろうが関係ない」という、非人道的な意識や見せしめといった行為が、今はインターネットを通じて――とくにTwitterの普及で、人々がより簡単に個のメッセージを発信出来るようになると、より盛んになってきました。

そう考えると、村長や村人=炎上に加担する人々(相手の人権やその後の人生など知ったものか、と、対象を処刑台につるして、歓声を上げて楽しんでいることに気付いていない人もいれば、それをわかっててやっている人も含む)、処刑道具などを見て驚く男=それらを見て、やりすぎだと感じる意識。なのかもしれません。

そして村長はそういった魔女狩りの「ステージ」を紹介していく途中、通りかかった赤いバツマークがつけられた家の前は素通りします。0:54付近のシーンで、家の中にいる人が窓から顔を覗かせています。中世では伝染病患者がいる家に赤い十字マークをつけるという慣わしがありました。村長はひとりを晒し上げる場所は紹介するも、自身が対処できないことに関しては臭い物に蓋をするように封じ込め、見て見ぬふりをする。フランスのテロの時は多くの人がSNSを通してフランスに悲しみと祈りを向けたのに対し、シリア等の紛争には沈黙する人が多いことと似た要素を感じました。

2:15付近に、狭いビニールハウスのような中で大勢の人が働くシーンがあります。そしてその周りには「JOBE’S」と書かれた箱の中に入れられた沢山のリンゴ。リンゴは本来木になるもので、ビニールハウスの中では育てられないのですが、リンゴ=Apple製品、ビニールハウス=Apple製品工場、JOBE’S=Appleの創始者・Steve Jobsを表しているのかもしれない。そしてリンゴ農園の主が杖で合図をすると、作業員が揃って男に手を振るというシーンは、少々不穏です。そして最後3:00は、演奏者や露店が出ている広場に作られた、ウィッカーマンと呼ばれる木で作られた巨大な人型の檻の中に男を閉じ込め、JOBE’Sと書かれた箱に置かれた木々を火種に焼き殺そうとします。そして村長はウィッカーマンを背にして両手を広げ、MVの視聴者=世界の人々に、村人たちと共に手を振る。人を焼き殺すことに何の罪悪感もなく。

ですが最後、男は命からがら逃げだすことに成功しています。一体どういう方法で助かったのか? 仮想現実の話だからなのか死なずにすんだのか? 皆さんは一体どう思いますか。RadioheadはこのMVを公開する前、自身のTwitterアカウントの投稿もすべて削除しています。一度焼け野原にさせて再構築していくところも、もしかしたら“Burn the Witch”とリンクしたものなのかもしれません。と、深読みを続けているととめどないMVです。みなさんもこの映像からいろいろ想像してみてはいかがでしょうか。この曲を収録した最新アルバムはイギリス時間の5月8日(日)19時、日本時間では5月9日(月)午前3時にデジタルリリース。CDなどのフィジカルアイテムは海外で6月17日にリリースされます。(沖 丈介)

◆Disc Information

LINEで送る
Pocket

Tags: