漫画家であり音楽家、感傷ベクトル・田口囁一が向き合う“ひとりだからできること”

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◆できることはやるべきだと思ったし、ラクをしちゃいけないなと思った

――感傷ベクトルは同人で囁一さんが大好きな作家さんとコラボレーションをするプロジェクト「changes in color of 感傷ベクトル」を行っており、これまでにLASTorderさん、bassyさん、myuさん、じんさん、そして夏コミでリリースする最新作はsasakure.UKさんが参加しています。これはどのような思惑から始まった企画なのでしょう?

んー……。みんな俺の声をもっと聴いてくれー!と思ったんですよね(笑)。せっかく同人界隈にもいるのに、男性ヴォーカルだからかあんまりゲストヴォーカルとして誘われないんですよ。「俺はもっと自分の曲以外のものも歌いたい!」というのを表明したかった。だから好きな作家さんに直接メール突撃をしてます(笑)。作家さんには「無理に田口囁一に合わせず、いつものあなたのままでいいです。田口囁一に歌わせたいものを好きに作ってください」とオーダーをして、そのデモが上がってきてから俺がその楽曲を噛み砕いて、どう歌うか、ジャケットにどういう絵に落とし込むか考える。

コラボシングル第1弾。LASTorderを作家に招いた『雨と重さ』

――イラストを描くのは苦手だとおっしゃっていましたよね。

苦手なんですよ。でも絵を描けるならそれをやるべきだと思ったし、ラクをしちゃいけないなと思ったのかな……。せっかく自分のなかにない世界を作家さんに与えてもらったんだから、歌だけで終わったら勿体ないとも思うし、絵を描くことが曲を作ってくださった方々へのお礼にもなるかなと。だから絵を描くことにしたのは、しんどいけど良かったなと思います。俺の絵が入ることで感傷ベクトルの作品だと言い切れる気もするし。

――確かに。コラボ感も増しますよね。漫画家田口囁一と音楽家田口囁一が同居しているとも思います。c/wに収録されている作家さんによる感傷ベクトル曲のリアレンジは、歌いなおししてらっしゃいますよね?

歌いなおしてます。リアレンジ、楽しいんですよ。もちろん作家さんの作ってくださったオリジナル曲も楽しみにしてるんですけど、リアレンジは「自分の曲がどんなふうになるんだろう?」って。返ってくるのが本当に楽しみです。1曲が人の手によってこんなに姿を変えるなら、音楽って永遠に遊んでいられるなと思います。

――最新作sasakure.UKさんの【鈍色、拒むサイレント】はいかがでしたか?

きたー! sasakure節だー! と思いました(笑)。期待を裏切らない。欲しかった贈り物がちゃんと届いた感じですね。デモが届いたときに歌詞つきで仮歌も入ってたので、世界観がばぁーっと広がってイラストもすぐ描けました。


感傷ベクトル / new single 「鈍色、拒むサイレント」 digest

――そうやって囁一さんがいろんな人の刺激を求めるのは、自分の世界をもっと広げたいからですか?

んー……最近、俺は本当に何も持っていないなと思うんですよ(笑)。いままではそれを受け入れなかったんです。めちゃくちゃがんばればどんなものでも作れると思っていた。だけど、こういう言い方をするとアレなんですけど……いま俺には書きたいものがないんですよ。それより描けない物への恐怖のほうが強い。だから次の連載がコミカライズなのは、原作の良さを漫画で伝える作業にだけ集中できてすごくありがたい……(※8月10日から集英社ジャンプ+で連載が開始する『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』は三秋 縋の『三日間の幸福』が原作。田口は漫画を担当する)。おまけにリアルタイムで読んでいた大好きな作品ですし、素敵な機会を頂けました。

――書きたいものがないというのは『フジキュー!!!』の連載を終えたばかりだからでは? 『フジキュー!!!』は囁一さんが初めて商業誌でいちから編集者さんと一緒に作ったオリジナル漫画ですよね。この2年間の連載のエネルギーの消耗はものすごかったと思うんですよ。全身全霊をかけて作っていたものが終わったら、何をしたらいいのかわからなくなるのは普通というか。

ああ、一種の燃え尽きなのかな……。

『フジキュー!!! ~Fuji Cue’s Music~』第4巻

――『フジキュー!!!』は囁一さんの人生においてかなり大きな出来事だと思うんですよね。これから原作付きで漫画を描いていたら、ふつふつと「こんなことがしたいな」というのが生まれてくるんじゃないかな。

次に何かが降ってくると信じつつ。『フジキュー!!!』が終わってから結構時間に余裕があるんです。『寿命を買い取ってもらった。一年につき、一万円で。』はコミカライズだからフジキューと比べて工程が少ないですし、夏コミもいつもぎりぎりだったんですけど8月1日には全部入稿したし。だから時間を持て余してしまって、それで珍しく映画とか観ちゃったりして。暇だと不安で!

――時間があるならファンクラブのコンテンツを更新しましょう。

ああ、そうですね。ファンクラブで曲解説以外のこともしようかな。

――時間があるというのも、『フジキュー!!!』の連載によって鍛えられて、いろんなことを段取りよくできるようになったってことだと思いますよ?

そうか、『フジキュー!!!』で鍛えられたのか。思えば無茶してきましたね……『シアロア』のときも2作品同時に連載して、曲も作ってたし……。案外いろんなことを並行しながらでも活動できるもんですね、と今更(笑)。いろんな職業を副業にできるんですよね。春川もなんだかんだ文筆業と他の仕事を並行させてるし、いまのほうがよっぽどハイブリッドかも(笑)。

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