漫画家であり音楽家、感傷ベクトル・田口囁一が向き合う“ひとりだからできること”

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◆漫画と音楽の間に“田口囁一”という同じ人物がハブとして存在できると思った

――新しいスタートを切った感傷ベクトル、調子はどうでしょう?

やりやすいです(笑)。前は会社が大きかったので、最初にいた人たちがどんどん異動で自分たちのもとからいなくなってしまって。そのたびに新しいスタッフさんといちから関係を構築しなきゃいけなかったんです。僕らは特に特殊なケースのバンドだから要領を掴んでもらうのがかなり難しくて、間に人を挟んでいたから時間が掛かったり行き違いがあったりもして。でもいまは自分から直接できるようになったので誤解もないし、それがあったところで本人とちゃんとわかりあうまで話をすることができる。とにかくスムーズになった。

感傷ベクトル『君の嘘とタイトルロール』(2014年)

――「田口囁一を中心としたメンバーで構成されたバンドでありサークル」という解釈に関してはいかがですか?

感傷ベクトルは“バンド”になりたかった時期があるんですよ。『君の嘘とタイトルロール』(※2014年10月リリース、フルアルバム)では漫画を切り離して「音楽のみで勝負したい」という気持ちが強かったし、その頃にはライヴ活動も始めていたのでバンド界隈でバンドとして認められたい気持ちもあって。でもそのぶん漫画家としての自分との距離感は宙ぶらりんでした。その宙ぶらりんにもやもやしていたら、真志朗くん(※白神真志朗。ステラ・シンカ主宰。作詞作曲、編曲、ヴォーカリスト、ベーシスト、エンジニアなど幅広く活動している。感傷ベクトルのサポートベーシスト)が「自分の持っていた立ち位置を利用して、新しい場所を作っていくことを考えたほうが建設的なんじゃないか」と言っていて、グサッときました。自分の特色は「漫画家であること」と「音楽をちゃんとやっている」という二足のわらじで、それは持ち味であって足かせであって(笑)。でもこのふたつをちゃんと直列にさせることで力が発揮できるんじゃないかなと。……いまはたくさん創作集団的なユニットはありますよね?

――そうですね。その集団のなかに絵を描ける人もいれば、音楽を作れる人もいる、というのが一般的なパターン。でも囁一さんは漫画も描けるし音楽も作れる。創作集団が集団でやることをひとりでやることができる。

ひとりになるならひとりを活かしてやっていったほうがいいのかな……と。いまは漫画を描いている田口囁一と感傷ベクトルの田口囁一が同じものであるという考えです。前はおしゃれ漫画家ではないけど音楽ではおしゃれでありたいみたいに思っていて(笑)、漫画家の田口囁一とバンドをしている田口囁一はどこか別人だったんです。でも『フジキュー!!!』(※2014年から2016年まで「別冊少年マガジン」にて連載。全4巻)を描き終えてみたらそこの気持ちの整理がついたんです。漫画と音楽の間に“田口囁一”という同じ人物がハブとして存在できると思った。

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感傷ベクトル『青春の始末』(2016年)

――それもひとりだからできることかもしれないですね。そしてバンドメンバーはベーシストとしての春川さんの場所に、先ほどお話にも出た白神真志朗さんがサポートメンバーとして参加しています。彼にオファーした決め手とは?

もう彼しかいない!と思ったんです。自分が知ってる同世代のベーシストで断トツにうまい。それに加えて本人作の曲もたくさん聴いていたので、自分の音楽を持っている人だということもわかってるし、良い要素をいっぱいくれそうだと思った。だからお願いできたらいいなー……と思ってて、恐る恐るオファーを出したら「やろう!」と言ってくれて。

――囁一さんは音楽において「俺の考えていることを具現化してくれ」というよりは、メンバーそれぞれの要素を吸収したいタイプ?

そうですね、作曲はその場限りでならなんでもできちゃうけど、演奏では自分の限界を感じるんです。生で弾くからこその何か、というのは絶対にうまいプレイヤーにしか出せない。10月にリリースする『青春の始末』でもみんないろいろアイディアを出してくれたからデモ音源とまったく変わりました。真志朗くんの自宅スタジオで録音したので、エンジニアもプロデューサーもやってくれて、「ここ音ぶつかってない?」とか俺のミスとかにも気付いてくれて。そういうことに関してはがんがんサポートメンバーを頼っていきたいなと思っています。

――その作り方は完全にバンドでしょう。なんだかバンドを目指していたときよりバンドらしいような(笑)。

そうですね(笑)。みんな本気でやってくれて。ありがたい。バンドらしくなってます。……いやあ、真志朗くん本当にベクトルバンドで大活躍なんです。

>> 出会いが俺を変えてくれた

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