Age Factory 『LOVE』

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ALBUM(CD)
Age Factory
『LOVE』
2016/10/05 release
SPACE SHOWER MUSIC

外界へと向けられた無防備なほどに純粋な十篇の愛

 

本題に入る前に、ひとつ小話をする。4年くらい前に、わたしの友人がこんなことを言っていた。「いまの20代前半の子たちはギラギラしていないが、自分の魅せ方がうまい子が多い」と。確かに一理あると思った。彼らは世代的にも10代から「空気を読む」という言葉が過剰に蔓延していて、ロックシーンにおいても自分自身の感情を吐き出す表現というよりは、「踊れる」がキーワードになっていたりと、相手をもてなすようなものも多かったと思う。

だがそれから4年経ち、世代が変わり、二十歳前後の若者の音楽がまた変わってきている気がする。「音楽が本人たちの感情そのまま」のバンドがとても多いのだ。彼らは意識的に個性的であろうと虚勢を張ることもなければ、無理くり踊らせるサウンドを作ることもない。サウンドはシンプルだが、すべての曲に単なる「よくある感じ」で終わらせない気魄や鋭さが宿っている。そして何より、本人たちがその音楽に、強い誇りを持っているのだ。それは私が10代の頃に胸を焦がしていた音楽の空気感とよく似ている。でも似ているのは空気感だけ。現在を生きる若者の強い意志が貫かれている彼らの音楽は、前時代性を感じさせない。自分たちは自分たちの音楽をやるだけで、自分たちは自分たちの音楽しかできない――世間に媚びない、クールな情熱がそうさせるのだろうか。Age Factoryというバンドは、その代表格であると思う。

Age Factoryの音楽には匂いがする。味もする。夏の夕焼けの匂いも、大切なひとの匂いも、大切なひととの口づけの味も、頬を伝った涙の味も――匂いや味だけではない。鼻をくすぐる風の感触も、掴みたかったのに掴めなかったその手を求めるときの手の震えも、音のすべてから彼らの感覚が染み渡る。そして自分の記憶なのか、はたまた彼らの記憶なのか、それすらも曖昧になっていく。その一刹那に見える光が、非常に切なく繊細で美しい。想いが重なるよりも、同化よりももっと濃密な、溶け合うという感覚に支配されてばかりだった。


Age Factory「LOVE」アルバムダイジェスト

デビューミニアルバム『手を振る』では日常にある出会いと別れを10代の目線で表現し、2ndミニアルバム『NOHARA』では二十歳の凶器と憂いをかき鳴らした、Age Factoryの1stフルアルバム『LOVE』。このアルバムは彼らの原動力の根源にもなる「愛」を丁寧に音楽へと落とし込んだ――というよりは、彼らの抱えている愛そのものである。これまでセルフプロデュースで制作をしてきた彼らは、今回地元奈良の大先輩であるLOSTAGEの五味岳久をサウンドプロデューサーとして迎えた。これだけ素直で、彼らの心のうちの奥の奥までも汲みだした音像になったのは、五味の手助けも大きいだろう。これまでで最もAge Factoryの深層に近い、無防備な作品と言ってもいい。

その精神性が最も明確なのがM6【Puke】。歌詞なんてそのままだし、3人の演奏もいつも以上に吐き出すようにひりひりしてるのに、トリッキーさに可愛げさえ感じてしまう。『LOVE』のAge Factoryと、これまでのAge Factoryの決定的な違いは、彼らの根底にある「愛」を混じり気なく自分たちの世界の外へと放出していることだ。これまで彼らは自分たちのつくる「海」に潜るような音楽を作ってきたが、今回それが歌詞に出てくる曲もひとつしかない。『NOHARA』以降から早い段階でライヴでも新曲として披露していたM2【疾走】は、サウンドの勢いにも表れているように、その海から外へと飛び出したことの象徴ではないだろうか。

歳を重ねれば重ねるほど世界が広がるのは当たり前のことで、別に彼らは海を捨てたわけではないし、これからもいままでどおりそのときそのときの心情を素直に音楽にしていくだろう。美しいギターのアルペジオとコーラスが印象的なM5【Night Bloomer】、清水エイオスケによる弾き語りのM8【Veranda】、やわらかく憂いのあるM9【Mother】、心の深い部分を丁寧に紡ぐM10【My end】など、ソリッドなものだけでなく繊細なミディアムナンバーも存在するのも、様々な感情が生まれるからであって、彼らにとっては呼吸のように自然で、必要なことなのだ。〈溜め込んでそうさ押し込めて/弾丸のように放つだけ(【Puke】より)〉――愛が作ったこの10個の弾丸は、こちらの心目がけて真っ直ぐ、とんでもない熱を帯びて飛んでくる。この弾が胸に刺さったとき、あなたは何を想い、感じるだろうか。彼らはあなたに向かって音を、想いを、愛を送っている。(沖 さやこ)


Age Factory “Yellow” (Official Music Video)

 

◆Disc Information

Amazon:Age Factory/LOVE

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Disc Review : Age Factory 『NOHARA』(2015.9.24 up)

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