自主レーベル設立から1年 空きっ腹に酒が考える「音楽を続けること」と「経験値」
自主レーベル設立から1年
空きっ腹に酒が考える「音楽を続けること」と「経験値」
(L→R)
いのまた(Dr)
西田 竜大(Gt)
田中 幸輝(Vo)
シンディ(Ba)
様々なジャンルの音楽を自分たちの表現に昇華し、次々と個性的な楽曲を生み出している大阪出身の4人組、空きっ腹に酒。彼らが2018年1月に自主レーベル「酔犬レーベル」の設立を発表してから約1年というタイミングで、会場限定シングル『泥.ep』のリリースと全国ツアーの開催が決定した。前作『酔.ep』は2017年の作品『粋る』のアップデート版として作られたものだったが、今作は衝動的ゆえエッジも効いた作品となった。ここに至るまでにいったいバンドにはどんなヒストリーが潜んでいるのだろうか。自主レーベルのこと、シングルのこと、ツアーのことを訊いたロングインタヴュー。音楽の話をしていると、いつの間にか話は生きる意味についてへと派生していった。このテキストからこのバンドの哲学を感じてほしい。
取材・文 沖 さやこ
撮影 溝口 裕也(website)
◆空きっ腹に酒(すきっぱらにさけ)
大阪発のロック・バンド。田中幸輝(Vo)と西田竜大(Gt)を中心に結成し、2008年8月にいのまた(Dr)が加わって本格的に活動開始。自主制作音源や自主企画イヴェントを精力的に展開し、2011年にはFUJI ROCK FESTIVALの「ROOKIE A GO GO」にも出演。ファンクやヒップホップなど多彩な音楽を消化したサウンドで注目を浴びる。2015年6月にシンディ(Ba)が加入して現編成に。2012年の『僕の血』から2017年4月に6thアルバム『粋る』までアルバムを6枚を発表。2018年1月に自主レーベル「酔犬レーベル」を設立。3月には会場限定シングル『酔.ep』をリリースし全国ツアーを行う。2019年1月に会場限定シングル第2弾『泥.ep』をリリース&全国ツアーを開催予定。
(official:website/Twitter/Instagram/Facebook)
◆自主レーベルを運営しているというよりは、「空きっ腹に酒を世に出す面倒を見れてるな」という感覚
――まず、自主レーベルを立ち上げた理由から教えていただけますか。
田中 幸輝(Vo) ほんま単純な理由なんですけど。音楽をやるうえで、自分たちで考えて自分たちの足で動いてみたかった、というのがいちばん大きいです。
シンディ(Ba) 「4人で長く音楽を続けたい」という気持ちがあったんです。自分たちで動かしていきたいという気持ちだけで動いたところはありますね。というのも、2016年、移動中に交通事故に遭ってしまって。
田中 あの事故が大きかった気もするなあ。いまやから言えるけどシンディはほんまに死にかけたから。あの事故以来この4人でバンドをやっていることも濃く感じるようにもなったし、1ステージ1ステージにエネルギーが湧いてくるというか、ちょっと普通じゃない感覚になっちゃって。音楽を続けることって人生やんなあ……といろんなことを考え直すタイミングになったんですよね。
シンディ 僕が入院している時に3人で「これからどうしようか?」と話したみたいで、退院したあとにそういう話をされて。そこからちょっとずつ、じょじょに話し合いを重ねていって、自主でやっていくモードになっていった感じですね。踏ん切りがついたのは10周年という節目も大きかったです。
西田 竜大(Gt) でも最初は不安でした。「ほんまにできんのか?」って。
田中 音楽以外なんもできんアホやからな!(笑) 事故もそうやし、10周年もそうやし……それ以外にもほんまいろんなことが重なったんですよね。吉も凶も全部詰まってた。
西田 それでみんなでいろいろ話していくうちに「自主でがんばってみるか」と。1年やってみて、自主レーベル立ち上げて良かったなと思ってます。
シンディ 車の運転とか、SNSとか、取り置きメールの管理とかをメンバーで分担して――ほかのバンドもやっていることではあるんですけど、自分たちがその立場にならないとわからなかったことがいっぱいあるなあと実感してます。こけては走って、こけては走っての繰り返しです。
田中 やっぱり事務所にいた頃と明らかに違うのは、数字が顕著に見えることですね。チケットが1枚売れるたびに「ありがたいな!」という感覚が大きくなりました。
シンディ お客さんとの精神的な距離も縮まりました。「自分たちがこうやったらお客さんこう感じるんやな」というものが見えてきて、自分たちで自分たちをプロデュースする感覚が前よりもある。だから自分たちのやりたいことをやれるんです。
――「自分たちのやりたいこと」というと?
シンディ 物販ひとつでもそうで。自分たちのいいと思うグッズをお客さんに提示して、それが全然売れへんかったり、めちゃくちゃ売れたりすることで、「お客さんはこういう感じが“いい”と思うんや」とか「自分たちのやりたいことのこういうところがいいと思ってもらえんねや」とか、そういうことを思うんです。
田中 いまはデザイナーさんにお願いしながら自分たちで細かいことを選ぶことも増えて、グッズの色ひとつ決めるのもみんなで話し合ってるんです。だから選ぶ時もちょっと緊張するっすね。でも事故で感じた気持ちや自主レーベルでの活動が曲作りに反映されたとかはないんですけど(笑)。でも、全部バンドの道筋を決める出来事ではあった。
西田 うん。俺らは「レーベルを抜けて別の音楽をしたかった」とかそういうわけちゃうかったし。
田中 「空きっ腹に酒をどう動かしていくか」という考え方が軸になっているので、自主レーベルを運営しているというよりは、「空きっ腹に酒を世に出す面倒を見れてるな」という感覚なんです。よりバンドらしくなったんじゃないかなと思います。
西田 バンド活動に覚える感覚が前とは全然違うんですよ。いまは自分たちのやっていることや責任が自分たちにダイレクトに返ってくるから、前よりも「こうしたいからこうしてる」という自分たちの意識が明確になっている気もしていて。やっていること一つひとつに全部意味を感じられていると思います。
――「音楽だけに集中したい」と思うアーティストも多いですが、空きっ腹に酒は違う?
田中 いや、ほんまはそういうタイプなんですよ。全員音楽以外なんもできんアホやし。でも物販の色決めも、取り置きメールのチェックも全部、音楽をするためにやっていることやから、「やりたくないことをやっている」という意識すらない。音楽やるために音楽以外のことをやってる、ってだけですね。
――なるほど。腑に落ちました。
田中 もちろんわからないこともあるし、活動しにくくなった部分もあるけど、それも含めて4人の実力やし。ライヴができればライヴをするまでの悩みも全部解消されるし、音源が出たらうれしい。「空きっ腹に酒がいまどんな感じなのか?」というのを実感したかったから、自主レーベルを立ち上げて良かったことばっかりかな。ライヴも格段に良くなった。
シンディ うん。それを強く実感してます。お客さんからの声も関係者からの声からも、自分たちに直で届く。まだまだこれからのバンドではあるけれど、「これだけ好きでいてくれる人がいるんだ」と感じられるのがパワーにもなっているんです。
田中 昔からずっとお世話になってた人たちがいまもずっと横におってくれてるし。ほんまにいろんな人との信頼関係があってバンド活動が成り立ってると思います。
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