チーナ椎名杏子が秦 千香子と語る、妊娠期がもたらす音楽活動への意識の変化と気付き
◆お腹の子は勝手にお腹のなかで生活をしている。「ああ、この子はわたしとはまったく違う。別人なんだな」とわかった
――妊娠が楽曲制作や歌ううえで影響していると感じる部分は、たとえばどんなところでしょう?
椎名 妊娠がわかった時期、チーナは音源制作の真っ最中で。自分の話のつもりで書いていた曲に「生まれる」という歌詞があったんです。妊娠がわかったとき、その歌が自分だけの話ではなくなったというか。歌詞も「自分」ではなく、もっと客観的になったかもしれない。お腹のなかに自分以外の人間がいるから、他者の存在をリアルに感じられるようになったところがあると思います。
秦 自分の身体に自分以外の人間が同居してることなんて、なかなかないことだよね。妊娠中って主語がダブることがない? わたしも妊娠中に、自分のことを話しているうちに、お腹のなかの子の話にいつの間にかなっていることがあって。自分とお腹の子の、主語がふたつ重なっている部分を歌うような感覚もあったりして。お腹の子は自分以外の人間なんだけど半分自分のような――。産んだ後は意志を持ってしゃべりだしたりするから別の人間なんだなと思うようになるから、いまはすごく特別な時期だと思う。
椎名 妊娠した頃に個人的に引っ越しや体調の件でいろんなことがあって、チーナのこともあったりで、パニックになりそうな時期があって……ちょうどその時期にお腹の子どもが動き出したんです。それまで「お腹の子どもに影響があるから、なるべくストレスはないようにしないと。とにかくお母さんは落ち着いていないと、穏やかな気持ちでいないと。そうでないと子どもがかわいそう」と思っていたんです。でもお腹の子はわたしの意思とまったく関係なく動くし、すごく楽しそうなんですよ。
椎名 もちろん母親の精神状態はお腹の子に影響するかもしれないけれど、お腹の子は勝手にお腹のなかで生活をしているんです。「ああ、この子はわたしとはまったく違う。別人なんだな」とわかって。だから「この子のために穏やかな気持ちでいないといけない」と思うほうが大変だな、子どもには勝手にお腹のなかで楽しく泳いでくれればいいなと思ったんです。
――妊娠中にかかわらず、「ストレスをためないためにも穏やかな気持ちでいないといけない」や「受験のためになにもかも我慢しなきゃ」と制限することがストレスになることも、無きにしも非ずですものね。
秦 ストレスなく穏やかに過ごさなきゃ……ってよく言うけど、やることが多すぎて妊娠中に穏やかに過ごせる時間あんまりないと思う(笑)。
椎名 そうそう! 最初は「穏やかに過ごさなきゃ」と思って2月16日のワンマンもほかのメンバーに任せて……と思ってたけど、せっかくの大切なワンマンだから自分も意見を言いたいし、「これやってない、あれもできてない」という判断もするし。結局ほぼ同じことをしているというか……それが自分にとって普通のことだから。穏やかに過ごせないことを気に病んでいる妊婦さんもいると思うけど、そんなに「穏やか」にこだわりすぎないほうがいい気がする。
秦 そうだね。あまりにも苦しいことはするべきではないけれど、その人その人の普通の生活が送れるなら、それがいちばんいいんじゃないか、という気がしていて。なにもせずに過ごすことで病んだら元も子もないから。わたしたちにとってはその普通のことが音楽や歌だった。椎名ちゃんもチーナのことをやれなかったら、精神衛生上よくないもんね? 音楽や歌と距離を置くのではなく、いい距離を見つけてやっていくのがわたしにとっては良かった。
椎名 穏やかに編み物をしてるより、チーナのことをやっているほうが、わたしには良かったですね(笑)。妊娠中に決まっていたライヴはすべてのイヴェントの人に「いまこういう状況で、どうなるかわからない」と伝えていて。だから迷惑を掛けたところはあるし、気を使わせてしまったな……と思っていて。そのおかげもあって、全部キャンセルせずに終わらせられました。
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