空きっ腹に酒ゆきてるの「酒でも飲まなきゃやってられん」第8回～春と飯と酒と犬

Posted by 田中幸輝 | On 15 5月,2019 | In Column

空きっ腹に酒ゆきてるの「酒でも飲まなきゃやってられん」
第8回　春と飯と酒と犬

すっかり春の徐々に夏。とか言ってたら「たりめーよ。五月だバカ。」なんて罵られそうで怖い。はっきりしない季節は、ただでさえ平凡で地味な僕らの生活をより一層なんでもないものにしてしまうのであった。残酷やで。
呑気に花見なんてしていた先月がもう十年も前のように感じます。
月日の流れって時計の上では絶対に一定の筈なのにどないなっとんねん。

えー、前回のコラムで長い長い言い訳をしながらそれでも一応禁酒を宣言しました。
今月の四日から始まっているので、もう既に十日ほど過ぎております。

人生に於いてたったの十日ですが、終わりの見えない禁酒期間に於ける十日とはやけに長く感じます。その間もやはりドブの中で生きるバンドマン共から「ほら、一杯いけよ」なんて無責任な煽りを喰らい、だからやめったって言うてるやんけとボソボソ小声でそれを拒絶しストレスは溜まり私は気が狂って死ぬことがほぼ確定。
まさか気が狂って死ぬとはなぁ。

しかしそんな生活にも楽しみがまったくないわけではなく、意外にも食事をより楽しむようになってきました。
酒を飲む際満腹にならないように極力避けていた白米を、禁酒後しっかり食べるようになったんです。
酒に合うような濃い味のおかずは白米にもよく合うので、これを探すのがひたすら楽しいです。
さらに白米だと酒のように「やりすぎる」なんてこともないので、腹いっぱいになってちゃんといい頃合いで満たされるのですね。
以前はネットなんかで「居酒屋　美味い　安い」というキーワードで探していたのを「ランチ　定食　話題」に切り替えてミーハー心剥き出しでとにかく美味い定食にありつくことを日課にしようとしています。まだ十日ほどですが。
まぁ飯を食うこととは生きることですから。はは、気が狂って死ぬかと思ったけど腹がいっぱいで助かったぜ。
体が重い。喰い過ぎだ。

さてさて、五月。

などと挟んで仕切り直すことでもないのですが、実は五月は我が家で飼っていたワン公の命月なんです。今日はその話を少ししたいと思います。
なんだ急にと思われる方もおられるかも知れませんが、まぁそれはそれは可愛い奴だったんです。コマという名前のジャックラッセルテリアでした。
親バカとよく言われますが、ちょっと僕が姿を隠すと必死に探して、見つけると凄く喜んで顔をベロベロ舐めてくるんです。ベロベロ。ベロベロ。ベロベ…ちょ…舐めすぎや！！！というくらい。
それは人間が言葉で伝えるよりも遥かにあたたかい愛情でした。

享年十一歳。犬にしても短い命だったと思います。
それからスルッと一年が経ちました。早ぇなと飼い主は驚いています。
人はどれほど悲しんでも的確に時間は経過していきますね。
たまに思い返して涙ぐむことはありますが、嗚咽をあげて泣き叫ぶようなこともなくなりました。
あまりにも突然の出来事で受け止める覚悟や準備が出来ていなかったのか、茫然としてしまい葬儀が終わるまでは感情よりも先に工程だけが淡々と進んだように覚えています。
そのあと破裂するように泣いて、泣いて、だんだんと僕は泣かなくなりました。
氷が解けるように静かに日常を取り戻し、夜寝る時、朝起た時コマが側にいないことも当たり前に感じられるようになってしまいました。その事実を寂しく思う瞬間もありますが、それでも平然と季節は変わり、すっかり春の徐々に夏。たりめーよ。五月だバカ。

「今生きているこの瞬間を大切に」みたいなキラキラした台詞は、僕のような泥付きの南瓜には似合わないとはわかっているのですが、この一年でそんなことを強く思うようになりました。
それと同時にいくら今を大切にしても、失って初めて気付くことがあるという事実は避けられないということも理解しました。
悲しみを乗り越えるなんて出来るわけがない。そんなに僕らは強くない。
人間は忘れていく生き物だから、乗り越えるんじゃなくて遠ざかるんです。
同じ道の上で、生きている僕の歩く速度は悲しみよりも少し速い。
でもたまにふとした瞬間にギュッと近くまでやってくる。
やっと見つけたと嬉しそうに笑って顔を舐めてくる。

気付いていたけど、わざと目を逸らしていた。
悲しみはコマ自身だ。

それなら僕にできることはたったひとつしかない。
それはちゃんと悲しむことです。
こんなに近くまで来てくれたのに、遠ざけてしまってごめんよ。
僕の道は一本だからまたどこかできっと会える。
明日の朝凄く遠くに居ても、気長に気長に歩いてきてよ。
君と同じ道の上でよかった。
酒をやめても死なない僕は、白米沢山食べて元気です。
げっぷ。

失って初めて気付いたことがもうひとつ。
それは今側に生きる大切な存在に出来るだけ優しく接してあげようということです。
君がいなくなって、僕は少しだけ素直になれた気がするよ。

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