尾崎リノ【夜中のライブハウスに】
読者さんやアーティストさんからおすすめしていただいたMVを毎日紹介する「紹介されたMV紹介チャレンジ」3日目は、た!か!は!し!さんとようこさんからおすすめしていただいたシンガーソングライター・尾崎リノさんの2019年8月公開のMVです。監督はnaomi miuraさん。
尾崎さんは下北沢DaisyBar / Laguna設立のレーベル「atori records」第1弾アーティストとして2018年10月にミニアルバム『NITE』で全国デビューをし、2020年1月からはCody・Lee(李)のVo/Ag正式メンバーとしての活動も並行。昨年はライヴ会場でCD+短編集『文学のすゝめ』をリリースするなど、多才なアーティストです。
アルペジオのリフレインやスラム奏法を取り入れた弾き語りスタイルが多く、奥行きと透明感のあるアコギの音が、主人公の心情を生々しく繊細に綴った歌詞に余韻をもたらします。どこか満たされていなくて、欠けているその心が、淡々と切々と綴られているがゆえに、リアリティがあるのに映画のなかの非現実的世界のようにも感じられる。彼女の感性というフィルターを通すと現実はこんなにも悲しくてあたたかく見えているのかな、なんて思いました。メロディとスポークンワードのバランスも良いです。
【夜中のライブハウスに】のMVは2019年8月2日25:00に行われた配信ライブ「夜中のライブハウス企画」より生まれたもの。わたしはこの配信を観ていないので詳細はわからないんだけど、調べたところによるとオープニング映像と尾崎さんのライブ映像はその配信ライブのもののようです。音源もライブの時のもの、なのかな?
夏のある日、下北沢で男の子が女の子の手を取って、集まりから走って抜け出すところからMVは始まります。くお~こんなことされる青春送ってみたかった~~なんてこじらせ爆発させていると、その男女は夜中の下北沢DaisyBarへと忍び込みます。こっそり中を覗き込むふたりがめっちゃかわいい。
でもきっと《夜中のライブハウスに忍び込む》って、空想や夢の世界なんですよね。この曲の主人公の女の子は、国語の授業で意味を習ってから、想いを寄せる「君」に月が綺麗だとは教えられなくなってしまった。でも恋をすることも、ライブハウスで音楽を全身で感じることも、別世界に飛んでいってしまうような体験。いつものように各駅停車で君の街まで行ったとしても、帰り道はそれこそMVで描かれているような、道端でメイドさんがケーキを配ったり、着ぐるみのうさぎやパジャマを着た女の子たちと戯れる、ささやかできらきらしたファンタジックなものに感じられたりもする。
ひとりぼっちの夜に巡らせる想像は、自分の夢が全部叶う世界だけど、それが現実ではない切なさや悲しさもあって。でももしかしたら現実になってくれるんじゃないか、なんて淡い期待もあって。そんな心のくすぐったさが心地よくもある作品でした。好きな人と一緒に夜中のライブハウスに忍び込んだら、わたしだったらなにしようかなあ。(沖 さやこ)
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Spotify – 尾崎リノ
◆Artist Information
http://ozakirino.net/