長距離移動するフリーランスライターの光陰(4)

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長距離移動するフリーランスライターの光陰
(4)Made in Me.というバンド

 

今月全国デビューを果たした5人組ゼノミクスチャーバンド・Made in Me.(以下MiM.)のワンマンを観に行った。渋谷WWWソールドアウト。この快挙は彼らの自主時代の活動の濃度がもたらした結果と言っていい。

最新作『Re:Habilis』の楽曲はもちろん、結成から現在までの6年半を総括するようなセットリスト。4年前の夏、わたしが初めて町田Nutty’sでMiM.を観たときからある初期の楽曲も多数演奏された。

ゆかりさんがドラムスからシンセボーカルにパートチェンジして程ない時に観たライヴではどこかまだ覚束なかった「巡愛」も、この日のクライマックスのひとつとなる名バラードと化し、彼女のボーカリストとしての進化をあらためて噛みしめる。アンコールのラストに披露されたバンドの始まりの楽曲「赤白煙突」では、彦さんの「Made in Me.を組んで良かった」という自然体の歓喜の叫び、唯一の初期メンバーであるU sucg:):さんの涙を目の当たりにし、自然と涙が零れてきた。

彦さんが自身のお母様の話をしたあと、照れ笑いをしながら「武道館くらいになったら(母親をライブに)誘えるかなあ」と話したシーンも、この日の象徴的な一幕だったように思う。彼は「この人は音楽やクリエイティブなこと以外何ができるんだろうか」とこちらが勝手に心配になるような異端児であり純度の高い音楽家だ。一般的な売れる/売れないという価値観で音楽をやるような人ではない。

そんな彼から「武道館」という言葉が出てきたのは、よくある文脈からではないことは容易に想像できた。自主企画サーキットフェス「Re:Habilis FESTIVAL」の大トリの下北沢Shangri-Laや、今回の渋谷WWWという、これまでに立ったことがないキャパシティのステージに自分たちの力で辿り着き、そこで満員の観客を目の前にしたことは、彼にこれまでにない感動を与えたのではないかと推測する。そんな場所に、自分の大事な人を連れて行きたいと思うのはとても自然なことだ。

過去も現在も未来も同時進行で見えるライブだった。事務所/レーベルの所属が、彼らに“根銀(ごんぎん)”な追い風を吹かせるであろう。


「東京回廊」/ Made in Me.【Music Video】

ここからは少し個人的な話に入る。今日この日に、無名中堅ライターの身の上話コラムで、どうしても書き残したいことだ。

MiM.との出会いはわたしのメンタリティにおいて、かなり大きなターニングポイントになっている。

遡ること7年前。2014年11月29日、このワンタンマガジンを設立した。まだ若くてライターとしてのキャリアも浅かった当時のわたしは、引っ込み思案のex.対人恐怖症でありながらも「書ける場所がなかなか増えないから、発信できる場所を自分で作るしかない」という崖っぷちから運営に踏み切った。いいサイトにするために、アーティストに貢献できるように、様々な人にこのサイトの存在を知ってもらうために、熱意だけでがむしゃらに奮闘した。

そのなかで、若輩者の熱意で動いてくれる心の優しい人は少数派であることと、自分自身の社会的無力さを痛烈に突き付けられた。そして、記事の掲載を実現させるために猪突猛進すぎたことを反省した。人にも自分にも辟易して完全に心が折れてしまい、インタビューのオファーをすることに恐怖を抱くようになった。2017年の頭のことだ。

プライベートでもトラブルが相次ぎ、なかなか更新する余力が生まれないまま半年が過ぎた。MiM.の音楽に出会ったのはその頃だった。2017年7月、SPARTA LOCALS復活ライブのレポートを書くためにMVをYouTubeで再生していた時、自動再生でたまたま流れてきた1本のMVと音楽に、瞬時に引き込まれた。それが彼らの「19hours.」という曲だった。

概要欄を見ると、活動拠点は横浜町田。さらにYouTubeにアップされていた「ゴールデンバット」「赤白煙突」「怪獣」を聴いて衝動的にメールを送り、その月に開催された主催ライブに足を運んだ。そのあたりは2017年9月にアップしたインタビュー記事「地方でも東京でもない“横浜町田”で生まれる若者のリアルなクリエイティヴィティ――3ピースバンドMade in Me.が持つローカルのプライド」で詳しく書き記している。

彼らの音楽や活動との出会いで、今までぼんやりとしていた自分自身のスタンスが明確になった。自分は次に売れっ子になるアーティスト探しよりも、売れっ子の取材をして自分の名を挙げることよりも、志高く純粋かつクリエイティブに音楽活動をしている若者~同世代の作品や生き様を、自分なりの視点で論じたい。それに注力することで、この世に無数にある隔たりに、小さくとも新しい風穴を開けられたら本望だと気付いたのだ。


Made in Me. – 19hours (Music Video)

2017年9月に前述のメールインタビュー、12月にSMDR座談会、2018年3月に対面インタビューを行った。あちらはリリースペースが速いバンド、こちらは更新が遅いwebマガジンゆえ、毎回インタビューすることは難しく一度お断りをしたが、そのあとも音源が出るたびにSpotifyでチェックをし、節目節目でライブに足を運んだ。

ライブ終わりなどにU sucg:):さんと「そろそろインタビューしたいですよね」と話しつつも、MiM.はパートチェンジが起きたり、メンバーが増えたり、ギタリストがドラム叩いてた時期があったり(笑)、アパレルブランドSANAGARAやほかのアーティスト活動が始まるなど、日に日に状況が変わっていくため「ここ!」というタイミングを見定めることが難しかった。2021年頭の3ヶ月連続リリースタイミングでインタビュー取材ができればとスタッフさんと打ち合わせまでしたものの、スケジュールが合わず頓挫。コドモメンタルINC.所属の報が飛び込んだのはそれから半年後くらいだった。

Made in Me.『Re:Habilis』(2021)

Made in Me.『Re:Habilis』(2021)

本当は今回の初全国リリースのタイミングで、ワンタンマガジンからインタビューをオファーしようかと悩んだ。だが「わかりやすい節目でインタビューするのはちょっとベタすぎない? 商業メディアでの露出があるだろうし、ワンタンマガジンが出る幕ではないだろう」と謎の尖りメンタルが発動(まあシンプルにオファーをひよっただけかもしれないけど)。いちリスナーとしてリリースを楽しみに待つことにした。

そして10月。今までご縁のない、専門学生時代によく読んでいた音楽媒体の編集者さんからメールが届いた。MiM.のインタビュー依頼だった。メンバーさんがわたしを指名してくださったとのことだ。ワンタンマガジンの出る幕ではなかったが、ライターとしてのわたしはインタビューをさせてもらえる星回りだったのかもしれない。

OTOTOYさんでさせてもらったMiM.のインタビューは、4年半近く彼らを近すぎず遠すぎない距離で見てきたことを総動員した内容になった。ワンタンマガジンでの3回目のインタビューで登場した「べくってる」というワードがここでも出てくるのは、過去をサンプリングするみたいでなかなか粋だ。メンバーが5人になって、ゆかりさんがボーカルになって初めてインタビューできたこともうれしい。新しいステージに上がったばかりの彼らは戸惑いと喜びのなかで高揚している様子で、それは白鳥が湖から新しい空へと飛び立つ瞬間のように眩しかった。

今後もワンタンマガジンでは、自分の商業メディアで培った経験でもって、高い志を持って音楽を発信している若者のステップアップの場に、強い意志を持って音楽活動をしている自分の同世代の方々と切磋琢磨できる場にしていきたい。そんなことを思う、開設7周年記念日である。

 

◆「長距離移動するフリーランスライターの光陰」記事一覧

 

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