16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第2回~このビートは呪い

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第2回 このビートは呪い

 

[1]そんなわけない

「16ビートはやおって名前、自分で付けたんですか?」
そんなわけない。僕は16ビートはやおとして生きていかなければならない「呪い」をかけられてしまったのである。名付けられて半年くらいは拒んでいたけれど、「ビートは体を表す」のか、ビートが鋭利になっていくにつれて、すっかり体に名前が馴染んでしまった。

「元祖16ビートはやお」「8ビートおそお」「東の16ビートはやお」「ビートでかお」、派生のビートはやおも沢山名乗り出てきて、ビート戦国時代を招いてしまったけれど、おかげで人見知りな僕はライブハウスに親近感を抱くことができ、不思議な磁力に取り憑かれて今もビートを辞められずにいる。

今回はそんな呪いをかけた張本人に思いを馳せてみよう。

 

[2]ナニワの向井秀徳

「なぜ、そこまでして 腹を切らなきゃいけんのか、なんで、そこまでして、自分のプライドを見せ、つけなきゃいけんのか―」

向井秀徳氏(NUMBER GIRL)のMCを完コピしてライブで披露し、ライブハウスに空調音だけが響く時間を作ったRickettsia(リケッチア)というバンドのギターボーカル藤井さんと僕は付き合いが深い。

あ、すみません。今はナードマグネットのギター・藤井亮輔さんと言ったほうが伝わるだろうか。ともかく僕は、藤井さんのあまりのシュールさに、空調音が響く中で虜になってしまった。ちなみにRickettsiaはECCENTRIC INKEN BEATという曲が好き。曲名が最高。

しばらくして藤井さんはナードマグネットに加入していた。ライブハウスの前で「こんな好きなバンドに入れて楽しいよ〜」と言いながらスーパードライを飲み干す姿が印象的だった。

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ナードマグネット presents ULTRASOULMATE 2019にてパワーポップコーン屋を手伝う面々
(左:16ビートはやお 中央:藤井さん 右:コムさん)

 

[3]ステージを降りるとそこは16ビートでした

僕の本名は残念ながら「16ビート」ではない。ちなみに「はやお」でもない。僕は「16ビートはやお」という呪いをかけられたのだ。

2013年、当時僕がドラムを叩いていたEmu sickSというバンドでの初企画、ナードマグネットに出演してもらった。イベント前に繰り広げられたSNS上のやり取りをフリにして、藤井さんはEmuのライブ中に「16ビートはやおー!!!」と野次を入れまくっていた。周りは初めて聞く「16ビートはやお…?」という耳馴染みのない言葉にざわつき、ステージを降りると僕は「16ビートはやお」になっていた。

この日から呪いは始まった。日に日にライブハウスで16ビートはやおとして認知されていく。知り合いのライブを見に行き「16ビートはやおでチケット取り置きされてますか?」と尋ねると「じゅ、じゅうろくびいとはやお…? お、お名前取り置きされてないですね…。本名は、な、なんでしょう…?」と受付の方に半笑いで聞かれる業を背負うことになった。半笑いの度に、藤井さんをほんの少し恨んだ。

 

[4]強力な呪い

悲しみは続く。16ビートはやお宛で実家に荷物が届くと、事情を知らない母親は「あんた外で一体何やってんの?!」と戸惑いをみせた。勝手に名字も名前も変えてしまった親不孝な息子をお許しください。

しかし「16ビートはやお」というインパクトのどぎつい名前のおかげで、ライブハウスでのアイデンティティを手に入れ始めた。「今日も速いんでしょ?」「やっぱり速かった!!」「帰るのも速い!!」「今日16日だよ!!」勝手にみんな、僕で遊んでくれるようになった。このコラムも「16」日更新だ(自分から言い出したわけじゃない)。ライブハウスでの居心地は最初から悪いものではなかったけれど、少しずつ更に良くなっていった。

藤井さんは「はやおの自己プロデュース力がすごいだけだよ〜」なんて言っていたけど、名前ひとつでここまで人生が変わる魔法を与えてくれた藤井さんのほうがすごい。向井秀徳氏と同じくらいすごい。

 

[5]結局ライブハウスに戻ってくる

そんな藤井さんと、ライブハウスを飛び出して映画を見に行ったことがある。感動的な最終場面、スクリーンいっぱい映し出される未来から来たネコ型ロボットのまん丸頭の青い光に反射して、藤井さんの流す一筋の綺麗な涙が横目に見えた。なんだか僕は、藤井さんのあまりのピュアさにどこか可笑しさを感じてしまい、その後映画に集中できなかった。

ただ、いくらライブハウスを飛び出しても、僕たちは結局ライブハウスに帰ってくる。「かっこいい音楽」が僕たちの関係を続かせてくれるが、逆にライブハウスから離れたとき、音楽がかっこよくなくなったとき、僕たちの関係も希薄になっていくのだろう。

藤井さんがかけた湯婆婆みたいな名前の「呪い」は、いつの間にかライブハウスが楽しくなるステキな「魔法」に変わってしまっていた。僕にとって藤井さんは、ひみつ道具を与えてくれたネコ型ロボットのようでもあり、向井秀徳氏のようでもあり、僕よりもダントツで酷い芯を食った面白悪口を最もシュールな角度から放り投げる人である。

そんな人が、あなたの近くにも居ればいいですね。変な名前つけられるかもしれないけど、良い人生が待っているかもしれませんね。

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真顔で楽しむ二人

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

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