ガストバーナーが『Good Luck』で見せた立体的な音像 変わり続けるバンドの揺るぎないポリシーを探る
◆「Rock is Dead」も「マッドシュリンプス」も、数年間ためこんでいた思いを歌詞に全部詰め込んだ
――今作も土台のデモはすべてマイケルさん作なのでしょうか?
はるきち 「Give me Money」のデモだけは、マイケルではなく僕なんですよ。それをメンバー4人で完成形にしました。みんなでああでもないこうでもない、もっと破滅的にしたい、こんなんじゃ物足りない……と言い合いながら。でもこの曲はお蔵入りになる寸前で(笑)。
――記事にはしませんでしたが、前回のインタビューで「お金の曲がお蔵入りになるか否か」という話をなさっていましたよね。あの時はまだタイトルがなくて。
はるきち アレンジもすごくいいし、みんなはすごく気に入ってくれたんだけど、僕はなんか納得いかなくて。その原因がメロディなのか歌詞なのか、判断しかねていたんですよね。それでメロディを変えてみたんです。そしたらもっとしっくりこなくて。あらためて元のデモを聴いてみたら、なかなかいいメロディだったんですよ。じゃあ歌詞が悪いんだと気付いて、全然違う歌詞を書いたら意外と良かったんです。
ガストバーナー / Give me Money (GAS and BURNER / Give me Money) 【Official Music Video】
――それが完成形の歌詞ということですね。
はるきち そうです。この曲を作っている時にはアルバムを出すことが決まっていて、あらためて額面を見て「CD作るのめっちゃお金掛かるな! お金が欲しいな」と思ったのがきっかけで作ったんですけど、お金をテーマにした歌詞を書くのは難しかったです(笑)。大層なメッセージを込めても仕方がないし2番は1番の繰り返しにしたら、結果的に「衝動だけでいきたい!」みたいな曲になりました。歌詞で曲の印象がこんなに変わるんだなーという気付きにもなりましたね。自分はあんまり歌詞に重きを置いていないタイプだと思っていたんですけど。
――はるきちさんの歌詞は昔から、言葉のこだわりを持っている人の書く歌詞だと思いますよ。それこそ「Rock is Dead」を聴いていたら、なんとなくみそっかすの「マッドシュリンプス」(2014年リリースのMA『統一された混沌』収録)を思い出したんですよね。通ずるものがある気がして。
はるきち 昔は自分に自信がなかったから、僕の考えていることを歌詞にしたって誰も共感しないだろうと思っていたんです。だから第三者目線やフィクションの歌詞を書いていたんですけど、「マッドシュリンプス」は数年間ためこんでいた思いを全部1曲に詰め込んだんですよね。「Rock is Dead」も同じような感覚で書いた歌詞です。僕は思いをためこみすぎるとああなるんですね(笑)。
――「マッドシュリンプス」は「“僕らの音”が本当にあるのか?」と迷っているけれど、「Rock is Dead」ははるきちさんが今“僕らの音”の実感を持てているから生まれたんだろうなと。
はるきち たしかに。「マッドシュリンプス」は苦悩が前に出ていますよね。みそっかすの頃はずっと「これでいいのかなあ。これでいいはずだよな」と迷いながら曲を作っていたし、迷いながら歌ってた気がします。でも今は音楽に対する迷いはないですね。「Rock is Dead」の歌詞について「こういうことを書きたいんだけどどう思う?」とメンバーに訊いたら、みんな支持してくれました。
ガストバーナー / Rock is Dead (GAS and BURNER / Rock is Dead) 【Official Music Video】
――だからこそご自分の思っていることを、歌詞にしたためられるようになってきているのではないでしょうか?
はるきち 実は自分のことを書くようになったきっかけは父なんですよ。父は教師をしながら趣味で詩人としても活動していた人で。
――へええ。はるきちさんの文才はお父様譲りなんですね。
はるきち みそっかすの頃に富山のライブ(※2019年8月、富山SoulPowerでの弾き語りライブ)のついでに実家へ帰った時、父親から「はるきももう割と年だし、そろそろ自分のことを歌ってもいいんじゃない?」と言われたんです。なんだかそれが腑に落ちて、「次にアルバムを作る時にはパーソナルな部分を出してみようかな」と思ったんですよね。だからガストバーナーではそういうものを書くようになりました。父からは「お前の詞はまだ未熟だ」と言われましたけど(笑)、加納くんがよく歌詞を褒めてくれるんですよね。
加納 僕は自分で歌詞を書きたいとは思わないけど、本を読むのが好きなんです。はるきちさんは言葉の使い方が綺麗だし、自分がプリプロにこだわっているぶん、音と言葉が同じくらいの精度でリンクしてくるとうれしいんですよね。はるきちさんの歌詞に音が引っ張られることもあります。
――「悪夢」ははるきちさんの人間性がよく出ていますし、「星の海と月の舟」もはるきちさんのロマンチシズムが抽出された楽曲で。どちらもガストバーナーのあらたな側面になったと思います。「星の海と月の舟」のレゲエテイストのギターは、みそっかす時代によく使われていた手法ですよね。
はるきち 「悪夢」と「星の海と月の舟」は僕がメロディを書いていて。The ClashとかSublimeに憧れているのもあって、バラードっぽい曲になると裏打ちしたくなっちゃうんです。「星の海と月の舟」はみそっかすでも何度かライブでやったことがあるんですけど、ガストバーナーでやってみると全然違う雰囲気になるなあって。
加納 「星の海と月の舟」は僕がみそっかすのサポートギターをやっていた時に演奏していた曲でもあるので、それを越えなきゃいけないなという意識もあって。だからすごく大変だったし、それをかたちにできたことがうれしかった。新しいガストバーナーのカラーが作れましたね。
ガストバーナー「星の海と月の舟」
――みそっかすのドラマー・ジャンボリー加藤さんのツイートを見ていても、「星の海と月の舟」をみそっかす時代にやっていた曲とは別物に捉えてそう。
はるきち たしかに(笑)。「星の海と月の舟」はガストバーナーで自分の理想のアレンジに持って行けました。……でもガストバーナーは、ほんと商業音楽と対極にいますよね(笑)。
加納 ガストバーナーはこれしかできないですよ。4人とも人としての礼儀とか基本的なことはちゃんとしてるけど、作品に口を出されたら、みんな言うこと聞かないと思うし(笑)。
はるきち フロントマンが4人いるようなバンドだもんね(笑)。
加納 古いかもしれないけど、『Good Luck』はCDで音楽を聴いた時に感じたあの感覚が得られる、曲順にこだわったものにしたくて。たぶんストリーミング時代において、1曲目には「ディストピア」みたいな先行シングルを置くほうが手法として正しいと思うんです。実際はるきちさんとはやおくんは、「ディストピア」を1曲目にしたほうがいいんじゃない? と言ってくれたんですけど、僕のわがままを聞いてもらってインストを置いたんですよね。ガストバーナーは売れることを目的にやっているバンドではないし、アルバムとしての作品性を大事にしたかったんです。
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アルバムを聴いた人だけが知っている名曲枠にあたる「DANCE」を深掘り。ガストバーナーの目指す音楽像を探る