ガストバーナーが『Good Luck』で見せた立体的な音像 変わり続けるバンドの揺るぎないポリシーを探る
◆今じゃない、後でやろう、明日にしよう、今日は天気が悪いからやめておこう――それがすごくもったいないなと思った
――たしかにガストバーナーの音楽は、今の時代のメインストリームではないとは思います。でも主流ではないものも主流ではないというだけで、必要としている人はたくさんいるんですよね。
はるきち 「Rock is Dead」のMVを公開した時に「ロックを聴いてくれ!」とツイートしたんですけど、いつもよりも反響があったんです。全然知らない人からも「久しぶりにこんなコテコテのロック聴いたわ」と好意的な反応をもらうことが多くて、こういう曲を求めてる人っていっぱいいるんだなと思いましたね。
テレビつけてもラジオつけてもオシャンなEDMやシティポップばっかだし、流行りのボーカルはヘロヘロ声だし生温い恋愛の歌詞をMVに出しとけばバズるしTikTokで何百万再生、何十万フォロワーとか全部マジでしょーもない!
ロックを聴いてくれ!
ガストバーナー / Rock is Deadhttps://t.co/6FsqSisAa5 pic.twitter.com/XYuhfZ3wUS
— デストロイはるきち (@MISOKKASU7) April 17, 2022
加納 でもガストバーナーはいろんなアプローチを入れてサウンドの幅を広げているんですよね。それは音楽が好きだからだと思うんです。いろんな角度から音楽を作っていけるほうが楽しいし、面白い。だから『Good Luck』でも「星の海と月の舟」や「DANCE」みたいな曲が作れたんだと思うんです。
はるきち 「DANCE」は実は最初MV曲になる予定だったんですよ。でも結果的にMVにしなくて良かったかな。「アルバムの中にあるいい曲」というポジションがちょうどいい。
――「DANCE」はキャッチーでありながら、とてもエモーショナルだと思います。『三次元からの離脱』(2011年)にみそっかすを知った人間からすると、はるきちさんがこんな歌詞を書くようになったんだなあという感慨深さもありました。
はるきち あははは、たしかに。「DANCE」の歌詞も最近思ったことを好きなように書きました。「あれやりたいね、これやりたいね」と話したり考えたりはするけれど、何かしら理由をつけて行動に移さないことって、人間よくあると思うんですよ。今じゃない、後でやろう、明日にしよう、今日は天気が悪いからやめておこう――それがすごくもったいないなと思ったんです。僕も尻込みをすることはあるし、そのたびにもったいないなあと思う。だから「今やりたいと思うことは今やりたいね」という歌詞を書きました。
ガストバーナー「DANCE」
加納 「DANCE」のサウンドは、一緒にスタジオで詰めている時にはるきちさんが歌っている歌詞を聴いて「こういうことを歌っているならこういう音を追加しようかな、こういうギターを弾こうかな」と考えていったんです。歌詞から音のイメージを膨らませていったんですよね。
はるきち へええ、そうだったんだ。うれしいな。
加納 ポップなんだけどポップじゃないサウンド、キャッチーに聴こえるんだけどオルタナの要素を残したものにしたかったんです。ダンスビート感があるけど、無機質で単調なものにはしたくなかった。ガストバーナーらしさが残ったうえで、聴きやすい曲ができたと思っていますね。うまいことバランスが取れました。
――みそっかす解散後に「新しいバンドで新しい曲を作っていくことにちょっと自信がなかった」というはるきちさんが導かれるようにガストバーナーを始めて、そこで充実を感じているという背景も知っていると、なおさら沁みる曲です。
はるきち たしかに。おまけに2020年3月、あの時期のコロナ禍にバンドを組むって、ちょっと頭おかしいですもんね(笑)。ライブもできないし、バンド全体がどうなるのか路頭に迷っている状況だったし。でもガストバーナーはその時その時にできる範囲のことで音楽を続けてきて、制限があるとはいえライブもできるようになって、こうやって2ndアルバムを出すこともできて……本当に良かったなと思うんです。バンドマンや音楽好きの人からかっこいいと言ってもらえることも増えて、少しずつ広まっていることも実感しているし。動いたもん勝ちだなと思っていますね。
ガストバーナー『Happy』(2020)
――それも4人それぞれに、これまでのキャリアがあったからできたことでしょうし。
はるきち コロナ禍でもうろたえなくて済んだのはノウハウがあったからですね。「ライブができない、スタジオに入れないなら、どんなやり方で音楽ができるかな?」と考えられた。だからデータのやり取りで音を詰めてみたし、やれることを一生懸命やれたから結成から半年で1stアルバムを出せたし。そう考えると「DANCE」は「ガストバーナーを結成して良かった」というメンタルともつながっているかもしれないですね。
――「ポップな歌と破滅的な演奏」という軸は一貫しているのに、『Happy』よりもやれることが格段に増えているから『Good Luck』では変化が顕著に見えるというのも、とても健全だと思います。
はるきち ほんといろんな新しいことをやりましたね。僕は今回のレコーディングで、めちゃくちゃ落ち込みました(苦笑)。ギターも歌も難しくてめちゃくちゃ時間食っちゃって、反省って感じです。「DANCE」の歌入れはりっちゃんにつきっきりでリズムの指導をしてもらいました。
加納 いやあ、ガストバーナーの曲難しいですよ。なんでこんなに難しいんだろう?ってよく思います(笑)。ものすごく破滅的なのに細かいんですよ(笑)。
――ははは。10年以上バンドをやっていて、今も成長し続けてるって最高ですね。
2人 うん。本当にそうですね。
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10年選手バンドマンが集ったガストバーナー。結成3年目のバンドとして、どのようなスタンスを取っていこうとしているのだろうか。