16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第3回~野原ひろしの生活は要らない

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第3回 野原ひろしの生活は要らない

 

[1]信号は守る必要がない

みなさん信号は守っていますか? 福岡からライブしにやって来た大好きな友達のバンド、about a ROOMがアンコールで「京都GROWLY店長の安齋さんが一番好きな曲を歌って帰ります!」と言って『神様のデバン』という曲を歌い始めた。

この曲に「どこに進んでも赤信号」という歌詞があるが、良い表情でライブを見守る安齋さんは残念ながら信号を守ったことがない。いや、語弊がある。信号を守る必要がないのだ。僕は、安齋さんとは京都GROWLYの店長としてではなく、CUSTOM NOISEというバンドのベーシストとして出会った。その頃に「ベースが上手すぎて、国は安齋さんの通る全ての信号を青にしている」という逸話を耳にしていたのだ。

今回はそんな大先輩安齋さんのお話。僕は安齋さんと出会っていなければ、とっくに音楽から離れた生活をしているに違いない。大学卒業と共に、青春の1ページにライブハウスの日々を折り込み、今頃野原ひろしみたいな世帯を持ち、背伸びして最寄り駅から徒歩10分の一軒家を立てていたかもしれない。いや、無理か。

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16ビートはやお(左)と安齋さん(右)近景。
(京都GROWLYでの1枚。後ろに写るのは0.03代目極薄亭ゴム太郎師匠という、
この世で最も物騒な名前を持つ良きドラマーです。)

 

[2]枯山水フィーバー

2010年1月29日、僕の運命は変わってしまった。僕は講義終わり、大阪府立大学から最寄りのライブハウス「三国ヶ丘FUZZ」へ向かった。当時組んでいたEmu sickSは結成1年と少し、吹けば飛ぶような志の弱い学生バンドだった。ブッカーの倉坂さん(The denkibran / 現・南堀江knaveブッカー)はそんな僕らを見るに見かねてか、「CUSTOM NOISEという本当にかっこいいバンドが来るから」と、気合いを入れて誘ってくれた日だった。

さっき聞いた大学の講義が全て飛ぶような衝撃だった。CUSTOM NOISEのライブが余りに凄すぎた。脊髄を抜かれたように、ぐでんぐでんに体を揺らす友人を見て、僕はジャイアンにボコボコにされたのび太のような気持ちになった。

悲しみに暮れ、打ち上げでなるべく見つからないよう背中を丸くして烏龍茶を啜っていると、「1曲目でやってた曲、かっこよかったよ。」という声が聞こえた。安齋さんだった。


枯山水フィーバー&Raysteper’s show / CUSTOM NOISE LIVE at namba Rockets
(中央真ん中でベースを弾くCUSTOM NOISE安齋さん)
 

[3]僕は京都を信用しない

「かっこよかったよ」この一言。この一言が、僕の人生を大きく狂わせた。かっこいい人に褒められるということを、脳が忘れられない喜びとしてインプットしてしまったのだ。

その後「自分はかっこいいのかもしれない」という大いなる勘違いか、はたまた偉大な希望を何年も信じることになり、大学を卒業した後もずるずるとバンドを続けて今に至る。しばらくして安齋さんは京都GROWLYに勤め店長となり、ライブハウスを守る人となった。干支が1周した今もなお、僕との関係は続いている。

しかし干支1周分、僕はこの言葉の真偽を掴めずにいた。というのも、安齋さんは「京都バンド流皮肉」を「かっこよかったよ」の言葉に込めたのかもしれなかったのだ。「ゆっくりしていってくださいね」と言われながらお茶を出されたら、暗に「帰れ」を意味する京都。隣人の「おたくの娘さん、ピアノがじょうずですなぁ」という言葉は「ピアノが下手で聞くに堪えないし、うるさいから弾くな」を意味する京都なのである。「1曲目でやってた曲、かっこよかったよ」は「かろうじて聴けるのは1曲目くらいの酷さですなぁ」の意味だったかもしれないのである。僕はそっと安齋さんの言葉を胸にしまった。

 

[4]革命をよろしく

しかし最近、ZOOZのライブ終わりに安齋さんが言っていた。「尖ってた昔よりかは丸くなったけど、俺は今でもかっこいいと思うバンドにしか声かけへんで、ハハハ!!」。

干支1周越しに、初めて声をかけてもらった2010年の三国ヶ丘FUZZでの安齋さんの言葉が、ある程度のお世辞を含んでいたにせよ、嘘ではなかったんだなと確信した。あの時の言葉は、大いなる勘違いではなく、やはり偉大なる希望だった。

ここに、封筒がある。先日、京都GROWLYでガストバーナーのレコ発を行った際に、慣れた手つきで安齋さんが精算の時に渡してくれたものだ。封筒の表にはこう書かれていた。

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まだ、僕は音楽辞めれないなぁ。もう、野原ひろしのような生活は僕には要らない。とりあえず干支をもう1周分くらいは、「自分はかっこいいかも知れない」という偉大なる希望を信じて音楽をすることになってしまう僕であった。

 

(先日京都GROWLYで行われたガストバーナーGoodLuckツアーでの1枚。僕は変なシャツを着ていますが、良い写真です。)

(先日京都GROWLYで行われたガストバーナーGoodLuckツアーでの1枚。
僕は変なシャツを着ていますが、良い写真です。)

 

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

ZOOZ
7/3(日)京都GROWLY
7/8(金)扇町para-dice
8/28(日)下北沢LIVE HAUS

ガストバーナー
6/18(土)寺田町Fireloop〈GoodLuckツアー 大阪編〉
6/19(日)新栄CLUB ROCK’N’ROLL〈GoodLuckツアー 名古屋編〉
6/26(日)ネコフェス2022
7/16(土)池袋Adm〈GoodLuckツアー 東京編〉
7/17(日)稲毛K’s Dream〈GoodLuckツアー 千葉編〉
7/23(土)池下CLUB UPSET〈GoodLuckツアー ファイナル〉

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