長距離移動するフリーランスライターの光陰 (8)

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長距離移動するフリーランスライターの光陰
(8)キャラと弱点

 

2ヶ月くらい前に観た深夜バラエティ番組『ゴッドタン』で、アンガールズの田中さんが「キャラがない」と悩む若手芸人にこう話していた。

「キャラは自分で見つけるものじゃない。人からよく言われること、それがすなわちキャラ」

それを受けておぎやはぎの矢作さんも「俺らも自分でテンション低いって思ってなかった」と続けた。他人から見た自分は、自分ではまったく予想だにしないものであることもしばしばだ。

そんなわたしも、2018年あたりから急激に頻繁に言われるようになったことがある。それが「あなたの文章には熱量が足りない」だ。

kyorifuko8_2正直ピンと来なかった。それまでアーティストからは「沖さんはいつも熱量たっぷりに文章を書いてくれるから」と言われることがほとんどだったからだ。なんなら2年間静岡県から西新宿のはずれにある専門学校まで通ったし、就職できなかったのにもかかわらず血を吐く思い(実際に精神をやられて血を吐いたこともある)をしてこの仕事にしがみついてきた。表情は豊かなほうだし、リアクションだって大きい。そんな自分に、熱量が足りない? こっちの心根量らずと、一体如何云う御了見?? と自然と口から東京事変が零れ落ちてくるほどだった。

過去最高の超難問なぞなぞにぶつかり、答えを聞いてもそれに納得ができず、折り合いをつけられない日々が続いた。この解答に至る過程をひたすら考えていくと、少しずつ少しずつ記憶の奥にある、人から言われたことのある言葉たちが顔を出し始めた。

「お前はやる気がない」
「覇気がない」
「もっと情熱を持て」

中学時代の教師たちから言われていた言葉だ。大人になってからも20年前と同じことを言われるのは、わたしの性根の問題だろう。10代から今までのなかで変わっていない自分の行動思考パターンをさらってみた。

kyorifuko8_3心を開けない人と一緒にいるくらいなら単独行動を選ぶ。お手洗いに行くときに人を誘うのは時間がもったいないからさっさとひとりで行って帰ってくる。人と争うことに興味がなく、ライバルという概念がわからない。ヨイショが苦手で、おべっかが使えない。散々バカにされてきたのもあり、ナルシシズムを持ち合わせていない。目立ちたがり屋ではないため、前に出るのが苦手。「自分は○○さんからこんなふうに褒められた」とアピールするのが恥ずかしい。飲み会は端っこにいるタイプで、座席を移動することはない。専門学校のスポーツ大会は2年連続でさぼって、午前中から24時間居酒屋で飲んでいた。お相手の求めているテキストが率先してクラスを率いるキラキラ青春謳歌タイプだとしたら、窓際黄昏タイプのわたしは熱量が足りないと思われても仕方がない。

おまけに世の中は「推し文化」が台頭している。だがわたしのライターとしてのスタンスは「いろんな世界が知りたいし、そこに直に接したい。それで自分がどう思うのかが知りたいし、自分なりの評論がしたい」。「好きなアーティストに取材がしたい!」「好きなアーティストの原稿が書きたい!」という思いはそれほど強くないため、推し文化との相性も悪い。

さらには内輪的でクローズドな空間が苦手で、ファンの方々しか楽しめない文章にも抵抗がある。だがファンの方々に「ぺらっぺらやな。読んだの時間の無駄やったわ」と思われるものは絶対に書きたくない。だからこそわたしは中立の立場を保つようにしている。ファンの方々と同じくらいしっかりと観て聴いて、それを冷静に文章に落とし込んでいれば、ファンの方々だけでなくファンではない方でもフラットに読み進められるはず。そのアーティストの世界への入り口を作れるのではないか、と思っている。

そのこだわりに加え、10代の頃から実家が接客業を始め、それが自分に染みついてしまっているため、自分よりも読者さんやアーティストを優先させた文章を書いてしまうのも、押しが弱い=熱量が足りないと思われる理由のひとつのようだ。つまり自分をつかさどるキャラや自分のポリシーが、わたしのウィークポイントである。なぞなぞ証明完了∴

kyorifuko8_4この性質を気に入ってくれる人もいれば「イマイチだな」と思う人もいて、この性質のおかげで来る仕事もあれば、この性質のせいで来ない仕事もある。「長所と短所は紙一重」であり、それ以上でもそれ以下でもない。わたしのポリシーや性質は恐らくこの業界では売れにくいし、どんな人からも愛される素質はないと思っている。だがいつも教室の端っこで居心地悪そうに者に構えていた人間の書けるものは、間違いなくある。「派手な言葉で誤魔化していない。表現が凝りすぎていなくて実直」や「強すぎる言葉はないけれど強い思いは感じるから穏やかな気持ちで読み進められる」「いつもクール」「淡々としているけれど純度は高い」というありがたいご感想は、「情熱が足りない」と思う人がいるからこそ言っていただけると思っている。

みんなが大好きなステーキや焼肉、カレー、ハンバーグ、オムライス、牛丼みたいながっつり飯ではなく、お腹にやさしいおうどんやお豆腐料理を提供するライターがいてもいいんじゃない? と思うと同時に、ステーキを振る舞えたらかっこいいんだろうなあ、みんながキラキラの笑顔で喜ぶんだろうなと焦がれたりもする。でもずっとおうどんを作ってきたのだからこの道を極められたらなあ、なんて思う。

じっくり時間を掛けて作っている旨味の生きた薄味の黄金色のおつゆと、コシのある真っ白な太麺には、まあまあ自信もある。芸歴13年目、そろそろあの某有名うどん店のような大きいどんぶりを手に入れてもいいかもしれない。

 

◆「長距離移動するフリーランスライターの光陰」記事一覧

 

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