時代に埋もれることのない音楽を――Any、自主リリースの挑戦(後編)
時代に埋もれることのない音楽を
――Any、自主リリースの挑戦(後編)
L→R
大森 慎也(Ba)
工藤 成永(Vo/Gt)
高橋 武(Dr)
取材・文:沖 さやこ
撮影:TAKU(Instagram)
撮影協力:東放学園音響専門学校
2015年6月24日に公開したAnyのインタヴュー記事の後編。前編では、メジャー在籍時代から全国リリースとしては約4年振りとなる最新作『視線』に至るまでの活動の経緯を探った。インタビュー後半では、『視線』にスポットを当てて話を訊いた。今回の音源は自主リリースということで、メンバーにとっても初めてのことも多々あったようだ。彼らは今作を「Anyでないとできないというものにようやく辿り着いた」と言う。音楽の話から、自主リリースを行うことで見えること、願いと未来について3人が話してくれた。
・インタヴュー前編
時代に埋もれることのない音楽を――Any、自主リリースの挑戦(前編)
◆木暮さんに「絶対合うと思うんですよ!」と頼んだ
――HICKSVILLEの木暮晋也さんはどのくらいプロデュースに携わっているのでしょう?
大森:7曲ともほとんどライヴでもともと長い間やってた曲で。レコーディングスタジオに入る前からアレンジは結構磨かれてて、そこにプロデュースしてくださった木暮さんのポップセンスが加わって、よりリズムやハーモニーが広がったし、深みが出たなと思うし。だからアレンジは結構洗練されてると思います。
工藤:木暮さんはギターでも参加してくださってて、キーボードにもずっとライヴに参加してくださってるharmonic hammockの清野雄翔さんに参加していただいて、話は早くて。僕らがアレンジしたものに、木暮さんが手を加えてくださったんですけど、僕は木暮さんの提案に対してノーと言いたくなかったんですよね。逆にそれを面白がってみたかったというか……なんで俺、大先輩に対して上から目線なんだろう(笑)。
全員:ははははは!
工藤:木暮さんが持ってきてくださった、そのままをやりたかったんです。それには1個大きい理由があって……片寄さんにプロデュースしていただいたパターンと、レコーディングエンジニアさんやミキシングエンジニアさんと密にやっていくパターンをやってみて感じたことは、僕がひとりで書くと内省的すぎる。曲自体のトーンが全部暗くなっちゃうんですよ。それが自分でもちょっと勿体ないなと思って。せっかく3人でやってるのに、僕だけの印象でバンドの印象が決まるのはつまらないというのと、やっぱりポップスを作りたいということがひとつ明確にあって。でも「僕がポップなものを作るとなると、人間的にちょっと難しいぞ?」と思ったんですよね。僕ひとりでは、まるでポップさがない。
――……うん、そうですね。
全員:(笑)
工藤:ひとりだと「ポップってなんだ!?」と思っちゃって、いろんなことを難しく考えちゃうんですよね。だからそこで誰かひとり立っていただくことで、すごく視野が広がるというか。木暮さんと出会ったのは、僕がいつも弾き語りをやっている下北沢leteの店長さんに「一度木暮さんと一緒にやってみたいんですけど」と相談したら「その機会を作ってみます」と言ってくださって。それで初めてお会いして、「アルバム作りたいんですけど、どうしたらいいんですかね」というちょっとした話から始まって……それで木暮さんに恐れ多くも「ライヴで1回弾いてくれませんか? 絶対合うと思うんですよ!」という話をしたんですけど、それもちょっと上から目線という(笑)。
全員:ははははは!
高橋:木暮さんに「絶対合うと思うんです」って言ったんだ(笑)。すごいね。でもそれ木暮さんに言う?
工藤:(※力を入れて)「絶対合うと思うんです!」って言ったね。「俺の曲、お前のギターに合うぜ?」って言ったわけじゃないよ? 敬意を込めて言ったんだよ。
高橋:それはわかってるけど、文章だけ汲み取るとそういうニュアンス出てるからね(笑)。まあでも、それが逆に良かったのかもしれないね。
工藤:木暮さんはすごくいいかたで。「もしよろしければプロデュースやってくださいませんか?」とお願いしたら割とすぐOKしてくれて、「俺と片寄は昔バンド一緒にやっててさ。今回俺が(プロデュースを)やったら面白いんじゃないかな?」と言ってくれて。それでいまHICKSVILLE(※木暮の現在の所属バンド)のエンジニアをやっている葛西敏彦さんを紹介してくださったんです。それで去年録音をして、それからライヴと並行して全国流通するための準備をしていたんですよね。
――すべてセルフでやるとなると、やりがいもあるぶん大変なことも多いですよね。
工藤:もう大変でしたよ~。いままでは会社がやってくれてたことを、全部自分たちでやらなきゃいけないのはこんなにも大変なのかー……と思い知らされて。でも本当にやってよかったと思います。それはいまも継続中ですけど、あれだけ大変なことを僕らはお金を使ってやっていただいてたんだなと思うと、ちょっと悔しい思いはありますよね。そのときはしょうがなかったなと思うんですけど、いまは「こういうところは僕らがやるので、こっちをお願いできませんか?」と交渉することもできたなと思うし。そういう後悔があるからいま動けてると思うし――いま“後悔”という言葉を使いましたけど、それは全然ネガティヴな意味ではないですね。いいバネになっています。