小林祐介に訊く、 THE NOVEMBERS結成10周年のターニングポイント

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できるだけ素直で正直な状態で人と触れ合ったとしても
堂々としていられるような自分でありたい

――『Elegance』は小林さんの歌声もとても心地よくて。乱暴に言えば、以前はガチガチに格好をつけている印象があったんですけど、今回は歌声がイメージに向かって構築されているというよりは……またこの言葉を使ってしまいますが、“自然”と湧き上がるような声の出し方という印象があって

昔はどちらかというと、必死だったんですよね(笑)。歌が得意なわけでもなかったから一生懸命歌っていて、そのときの精一杯がそれで、それが正解だと思ってやっていただけで。いまはきっと、いい音で録れたこととか、昌巳さんと関わってもらえたことで変わったんじゃないかと思いますね。自分が歌っていて気持ちいいポイントって、あると思うんです。そういうものを身につけたいな……と思い始めたのかもしれないですね。

――最近の小林さんのプレイやステージでの立ち姿にも、歌声と似た印象を感じます。さきほど小林さんは「格好をつけることは大事」とおっしゃっていたし、確かにそうだとも思うんですけど……動きのしなやかさに「格好をつける」という「演出」を一切感じなかったんですよね。そのときそのときに感じる気持ちに、頭や身体が素直になっていっているのかなと。

あ、でもそうですよ。素直になっていってるとは思います。正直だし、素直に振る舞って正直な態度を出しても、自分が美しいと思えるような人間になればいいじゃないですか。取り繕ったり、嘘を言わないと人と接することができないとか、ステージに立つことができないとか――まあ、それで出来上がったものが美しければ、いちリスナーとしては何の問題もないんですけど、少なくとも自分は、できるだけ素直で正直な状態で人と触れ合ったり観てもらったとしても堂々としていられるような自分でありたいし、そういうものを作れたら素敵だなという気持ちがあるんです。それがうまくいかないときの苛立ちやフラストレーションですら、美しく表現できるのが音楽だったりするじゃないですか。いつまで経っても完璧にはならないと思うんですけど、その都度抱えてしまうネガティヴなものも美しく――そういう感情を持ったことには理由があるんだ、と思える作品や態度を世の中に出していけたらと思います。

――その気持ちは昔からあるものですか?

んー……もっと良くなっていきたいとか、みんな思うじゃないですか。それを考えてもうまい言葉が見つからなくて……というのを、少し脱したのがいま、というか。どうやったって他人のことは理解できないけれど、理解できないとわかったうえで他人とどう接したいんだろう、というのを考え始めたというか。昔はそんなことを考える余裕もなかったし、何かのせいにすることで精一杯だったんですよね、きっと。子供だったんで。

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小林 祐介(撮影:佐内正史)

――そういう考え方もすべて「何も考えていないことが、いちばん音楽を美しく表現できる状況になれたらいい」ということにつながっていきますね。

……そうですね。昌巳さんとか、もう完璧なんですよ。佇まいから発言から、何から何まで紳士的で気品があって、ユーモアがあって。昌巳さんを見ていると、背筋が伸びてばかりです。まだまだ自分はこんなことが足りなくて、こんなことも知らないんだ。そう感じると将来やるべきことを考えるようになるんですよね、明日起きたらこれにチャレンジしよう、これを勉強しようとか……明日やるべきことがあるということが、すごくエネルギーになるんですよね。「何かが足りない」それだけだと人は打ちひしがれちゃうんだけど「いまこれだけのものを持っているじゃない」と昌巳さんが気付かせてくれたので、いまの自分たちはこんなところが素敵だとか、こんな綺麗なものを持っているんだけどどうかな、と言える。それに、明日以降へのわくわくが手のなかに残っている感覚があるというか。バンドとしてもいち人間としても、ひとつのターニングポイントになったとすごく感じています。

――人間性にも影響があるというのは、表現者としてとても大きいことだと思います。

やっぱりCharaさんもベンジーさんもyukihiroさんもDieさんも、人間性と音楽がイコールなんですよね。誤魔化しようがないくらい(笑)。素晴らしいと思います。

――ところで、今回のジャケットは人肌の温度まであたためると絵が浮かび上がる仕様らしいですね。歌詞も「君」と「僕」という近くて狭くて愛おしくて奇跡みたいな空間が描かれていると思ったので、音と言葉から、人の体温で暖まったふかふかのベッドのようだなとも思って。だからこの仕様はぴったりだなと思いました。

「作品のテーマ」や「音楽がCDという物として残る理由」をデザインがより深めてくれると思うんです。いろんなアイデアをチーム全体で出すんですよね。そのときにふと僕が「光の角度で変わる絵とか、温度とかで変わるものあったよね? そんなことができたらいいな」と言ったんです。そしたらこのチームは、すぐ調べるんですよ。「温度によって色が変わるインクがあるらしいぞ」「それってジャケットで実現できるのかな?」「誰かやったことがあるのかな?」「どんなデザインがいいかな?」……と些細なことをきっかけに、チームのみんなが「良くしていく」という意志のもと転がしてくれるんです。それで行き着いたんですけど、本当にいろんなトラブルもあって……(笑)。

――いままでやる人がいないものを作るのは、道を切り開く作業と同じですから、大変ですよね。

やるからには、自分たちで意味と価値を見出せるものを残せたらいいなと思ってやりました。『Fourth Wall』のジャケットも、いまのマネージャーがアイデアを出してくれて(※紙ジャケットが鏡仕様になっている)、「なにそれかっこいい!」って(笑)。ものを残す度に、作る側も見る側も楽しめたらいいですよね。

>>「反動に対する正直さ」は持っていたい

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