小林祐介に訊く、 THE NOVEMBERS結成10周年のターニングポイント

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何も考えていないことが、
いちばん音楽を美しく表現できる状況になれたらいい

――今年に入ってTHE NOVEMBERSはメンバー個々の活動も盛んですよね。小林さんはソロプロジェクトの「Pale im Pelz」を行い、CHARAやL’Arc~en~Cielのyukihiroさんのソロプロジェクトacid android、DIR EN GREYのDieさんのソロプロジェクトDECAYSにサポートで参加し、浅井健一さんとBACK DROP BOMBの有松益男さんとROMEO’s bloodというバンドを組むなど、小林さんがリスペクトする方々との共演ばかりです。土屋さんとは浅井さんのご紹介で接点ができたとのことですが、浅井さんとはどういうご縁でお知り合いに?

romeos_blood

ROMEO’s blood(右が小林祐介)

これも……縁という言葉そのものというか。僕のいないところで、僕のことを良く言ってくれる人と出会えたということに尽きると思います。ベンジーさんと出会えたのも、「若いギターを探している」と言った(浅井の)事務所のかたに、ギターマガジンの編集長が「小林くんがいいんじゃない?」と言ってくれたからなんです。もちろん編集長さんは僕がベンジーさんにものすごい影響を受けて、憧れてバンドをやってきていることを知っているので、それを踏まえたうえで紹介してくれて。でも「友達がファンだから会わせてやろう」という発想ではなく、僕自身のいいなと思うところを伝えてくれたと思うんです。ベンジーさんとはそれがきっかけですね。Charaとの縁も、Dieさんとの縁も人がつないでくれたものなんです。

――憧れの人と一緒に音楽活動をする、というのはどういう感覚ですか?

ものすごく不思議な感覚ですね(笑)。ただ、音を出してしまえばいちプレイヤー同士なので、そういった音楽においての「なんて素晴らしい歌をうたうんだ」「なんてかっこいいギターなんだ」という感覚ですけど、ステージを降りたり演奏していない場所では、いまだに緊張することもあります。……言葉にできないですね。これだけ憧れの人と共演ができるのは、僕にとってはご褒美みたいなものなんです。これを目的にやってきたわけではないし、営業をして取ってきた仕事でもないから(笑)。本当に感謝しかないです。

――THE NOVEMBERSの活動が認められているということだと思います。THE NOVEMBERSの対バンにしても、これまで小林さんやメンバーさんがリスペクトしてきたアーティストばかりですし、それは素直にリスペクトを公言してきたことも影響しているかもしれませんね。

どういうものをリスペクトしているか、素敵だと思っているかは、ちゃんと伝えるようにしようと思っていて。それは例えば(ART-SCHOOLの木下)理樹さんがブログや日々の発言で「~が好きだ」「~に影響を受けた」と言葉にしていく――そういう態度を残してくれたからですね。僕はそこからStingやR.E.M.やXTCに辿り着くことができたので、自分が言葉を残すことで、それを受け取った人にとって何かいい方向に転ぶといいなという気持ちがあるんです。そのひとつが、こんなに素敵な景色があるよ、こんなに美味しいものがあるよ、というすごくシンプルなものだと思うんですよね。僕が僕以外の存在を世の中に伝えようとしている――(様々な憧れのアーティストとの共演の機会を得ているのは)THE NOVEMBERSがそれと同じことを他者にしてもらってるんだと思うんです。だからすごくうれしいなあって。巡ってくるのかもしれないですね、もしかしたら。

――川谷絵音さんがゲスの極み乙女。のワンマンの開演前と終演後にTHE NOVEMBERSのアルバムを流していたことがあって。小林さんが木下さんから受け継いだ姿勢は、またその下の世代に受け継がれていると思います。

ああ……だとしたら、とてもうれしいですね。

――わたしは『Elegance』という作品に、バンドが音楽に対して肩肘を張っていない印象やナチュラルさを感じました。ずっとTHE NOVEMBERSはサウンドも歌詞もヴィジュアルもしっかり固めて、自分たちの世界を構築していく印象があったので、そういう自然体とは無縁の存在だと思っていたんですけど、それはTHE NOVEMBERS以外の活動の影響なのではないかと推測しておりまして。外の活動で、THE NOVEMBERSを客観視できるようになったりは?

『Elegance』(2015)

勿論あります。THE NOVEMBERS以外でバンドをやると、自分たちのかっこいい部分とか、綺麗だなと思う部分とかがわかるじゃないですか。「こんなところを伸ばしたいな」とか、外で見つけたTHE NOVEMBERSにないものを取り入れてみたらどうかな……と思ったり。それは意識的にも無意識的にもあると思います。僕らは音楽という空気の振動を、わざわざレコーディングして、わざわざ物としても残していくわけじゃないですか。もっと突き詰めたいんですよね……例えば、何も考えずに音を鳴らしている状態が、いちばん美しく音楽が鳴っている瞬間になるくらいの音楽家、プレイヤーになれたら素晴らしいな、というのを考えながらやっていますね。まだまだ遠いんですけど。

――それは、究極ですね。

勿論。今回のレコーディングは、無欲で録れたテイクに、何にも勝る説得力があることに気付くことが多かったんですよね。何の気なしにサウンドチェックがてらプレイしたことが、すごく……その音楽に合っていたということもそうだし、自分たちが音楽を鳴らしている関係性が綺麗だなと思って。どうしてもプレイヤーだから、ものを残すときに気合いも肩の力も入るし、「もっと良く出来る」「もっとこういうミスを少なくできる」という欲も出てくるんですけど。

――無欲のなかで生まれた音。わたしが『Elegance』を自然体と感じたのは、そういうことが影響しているのかもしれません。

……僕はあまり「自然体」という言葉を使わないので、どういうことなのかちょっとうまくわからないんです。もし沖さん(※筆者)がそう感じたのであれば、いま話した無欲の話が近いのかもしれない。でも……自分たちが「ステージ上でこの服を着ていこう」「こうしたら美しいと思う」と考えることが自然体と真逆なのかと言われると、僕はどちらかというと、「取る態度」の問題かと思っているんです。僕、「格好をつける」ことって、すごく大事なことだと思うんですよ。

――はい。

家でパジャマでいるときが自然体なのか? と言われると、それはよくわからない。その場その場で、意識的でも無意識的でも人は変わるじゃないですか。どんなふうに変わっても美しい、というのが、自然体というものを尊ぶ唯一の条件じゃないかなと思うんです。都合のいいところだけ自然体で美しいのは、不自然なんですよね。きっと。僕らは美しいなと思う態度は大事にしてはいますけど……まだ、もっともっと、という感じではありますね(笑)。

>>できるだけ素直で正直な状態で人と触れ合ったとしても
堂々としていられるような自分でありたい

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