佐藤静奈、小高芳太朗、聖絵、3人のソングライターが考える言葉と音楽の世界
◆ソングライティングに大きな影響を及ぼすものはいったいなに? 上京組から見た東京はどんな街なのか
――生まれ育った場所、環境がご自身の楽曲に反映されていると思うことはありますか?
小高 【飛行機雲】(※LUNKHEAD『play at the CROSSROAD 2[2000-2001]』、小高芳太朗『それでも』に収録)はメンバーがまだ上京していない時に、新宿駅でひとりで路上ライヴをしていたときに演奏していた曲で。住んでた頃はあんなに「こんなクソな街早く出てやる!」と思っていたし、夢見て上京をしたけれど、人が多すぎて、街がでかすぎて、自分が小さすぎて、ボッコボコにされて……消えたくなっちゃった。だから俺の20代前半の曲は、どうしたらええかわからん、途方に暮れてる感じがすごく出てると思う。でも年齢を重ねて自分の立場も変わってきて、20代後半から30代に入ったあたりから、愛媛が自分にとって帰る場所だなと思うようになった。愛媛で見続けてきた景色も、愛媛から東京に出てきたことも、東京での暮らしも、全部楽曲に反映されてますね。
聖絵 わたしは小高さんのソロアルバム『それでも』の【東京にて】(※LUNKHEAD『影と煙草と僕と青』にも収録)を聴いて、くるりの【東京】(※1stアルバム『さよならストレンジャー』、ベストアルバム『TOWER OF MUSIC LOVER』収録)を思い出したんです。小高さんも【東京】の歌詞みたいなことを思っていたのかな?と。同じことを言っていたとしても、言葉の響きで印象は変わりますよね。
小高 うん、言葉は本当にやばい! 東京は若者言葉を標準語だと思った若者ばっかりで、上京してすぐは「わけわからんこと言ってるわ。絶対心開けんし仲良くなれん」と思ってた。全然友達できんかった(笑)。
佐藤 小高さんのその感覚すごくわかります。標準語はTVの中の人が喋るものだと思ってた。だから東京の人たちはドラマみたいに演技をしているようにも見えて(笑)。
聖絵 外国みたいな感覚なんだね(笑)。わたしは東京に生まれていて上京という経験がないから、上京の歌を聴くと「へえ、そうなんだ」と思うことばかりなんです。上京ソングを書けるのは上京アーティストの特権だと思うし、うらやましいですね。上京に限らず「拠点を変える」という行為が歌を書かせるのかなと思います。そういう意味でも、東京で生まれ育っているわたしからすると【フーカ・リッカ】は静奈さんが青森を離れたからこそ書けた青森の曲なんじゃないかなと思っていて。
小高 そっかあ。俺は、静奈ちゃんは【フーカ・リッカ】でやっと故郷に帰れたんじゃないかな、とも思ったんですよ。
佐藤 おふたりのおっしゃっていること、どちらもすごく感じます。小高さんの言うように青森に帰れたのは、聖絵さんが言うように青森との距離ができたからだと思う。
小高 故郷を客観視できるようになったんだろうね。
――ところで、聖絵さんが故郷の東京の曲を書くことは多いですか?
聖絵 勝手に出てきてますね。アルバム『MUSIC ALLEY』に収録されている【runway】は新宿三丁目を舞台にした曲で、MVも新宿で撮って、歌詞もメロディも新宿のカフェで書きました。
――un-notは7月に新曲をレコーディングなさっていましたよね。そちらはいかがでしょう?
聖絵 『MUSIC ALLEY』のレコーディングから2年経っていて、その間に行った場所、出会った人や作品に影響を受けている気がします。それこそ2年前は静奈さんとちょうど知り合った頃だから、今回のレコーディングには静奈さんの影響も出ていると思います。静奈さんの作る曲には人が出てこないんです。でも静奈さんは誰かのことを想っていて、その人の存在は静奈さんのなかにはいる、という印象があるんですよね。
小高 ああー。たしかに。【こがねいろのせかい】(※『フーカ・リッカ』収録)はまさにそれだね。静奈ちゃんの曲は寂しい。ひとりで誰かを想っている。
聖絵 小高さんの【未来】(※『それでも』収録)という曲も「もういないけれど想っている」という感覚があって。
小高 【未来】に出てくる〈君〉は、つばきの一色徳保(※2017年5月に逝去)くんのことで。
聖絵 曲の終盤に〈僕〉が〈僕ら〉になりますよね。それがすごく胸に響いてきたし、静奈さんの書く歌詞ともつながるなと思いました。わたしもそういう感覚を2年前に静奈さんを通して取り入れたので、新しいアルバムにはそれが少し反映されていますね。この前レコーディングした【タイムライン】という曲はそういうきっかけがなかったら絶対に生まれていないと思います。