空きっ腹に酒ゆきてるの「酒でも飲まなきゃやってられん」第10回～だからわたしは

Posted by 田中幸輝 | On 15 7月,2019 | In Column

空きっ腹に酒ゆきてるの「酒でも飲まなきゃやってられん」
第10回　だからわたしは

見事禁酒に失敗！

というのもたった一度、酒をガッと四杯ほど飲んでしまい、そこから再び禁酒は始まったのですが、そのたった一度の重圧が物凄く、お前は禁酒も出来ない腑抜け野郎だと周りから白い目で見られているような気がしてノイローゼになり夜しか眠れないどころかたまに昼も寝ています。
昼間寝たのに、夜また眠たくなるのはありゃ一体どういうことなんでしょう。
気が抜けていることが原因なのでしょうか。

とかなんとか冗談ばかり言っていますが、実はここでひとつハッキリしたことがあります。
その見事禁酒に失敗した日、私は
「いやま、一杯だけね！　一杯だけ！」
と言いつつ四杯も飲んでいるのです。
しかし他の日は一滴も飲んでいない。
ということは私が延々と推し続けている「悪魔の一杯目理論」（一杯目を我慢するより二杯目からを我慢する方が難しい）は正しかったと言えるのです。
なるほど。
つまり私は何も間違っておらず、それどころか人間の真理に誰よりも近づいた男と言えるのであって、ほれ見たことかと世間に向かって大見得を切ってガニ股で公道を闊歩しつつ堂々と寿司屋に入って「エンガワ！」と叫んでも何らおかしなことではないと言えるでしょう。
何見てやがんだこの白目野郎。

やや、しかし約一カ月半ぶりのハイボールが不味いわけもなく。
今まで飲んだ酒の何倍も美味しかったです。
「てめぇ、俺の奢った酒は不味かったんか！」
と凄んでくる先輩がいるかもしれませんが、そこは先輩も一度毎日飲んでいるお酒を一ヶ月半やめてみてくださいと言いたい。
あのさ…全然味ちゃうやろ！　びびるわ！
あ、ついつい東大阪の連中と話すような感覚で話してしまいました。すみません。
全然味が違うんです。
ハイボールの炭酸一粒一粒がウイスキーの香りを内包して、それが口の中でシュワっとはじけて広がり鼻に抜けると同時に喉をツーッと冷たく流れていく、嗚呼、こいつが喉ごしね…という文章にすると非常にまどろっこしく胡散臭い雰囲気になりますが、本当にそんな感覚がいつもの何倍も味わえて気付けば四杯飲んでいました。
でも四杯で大満足でした。
ほんのり酔って楽しい打ち上げを
「いや、ほんと、また今度！　いやいや、ほんと、素晴らしい日でしたな！　いや、ほんとに、ほんと」とか言いつつスルッと抜け出しいつも逃していた終電にちゃんと乗り、コンビニで翌朝食べるパンを購入してから真っ直ぐ帰宅しました。
で、私は思ったのです。

いつもは四杯どころか十杯二十杯と際限無く飲み明かして終電を逃しそのまま二軒目の焼き鳥屋、三軒目のバー、四軒目に至っては始発も逃して24時間営業居酒屋に転がり込むなんてのがお決まりコースでしたが、そんなことをしている内に我々はお酒の美味しさみたいなものに対して感覚が鈍くなっていたのではないかと。
飲むと酔う。酔うと飲む。という負のスパイラル（言ってみたかっただけ）から抜け出せなくなり、酒を味わう余裕を脳に与えなかった…脳すまん。
てなわけで私はあれほど酒好きを豪語しておきながら、味わう、嗜むということを今やっと知りました。
酒を飲むとはこのことか、と。

一杯目を我慢するほうがよっぽど簡単なのは確かにそうで、それはそれで理論として推していきたいのですが、果たしてそんなことで酒に勝ったつもりでいていいのでしょうか？　いや、そもそも酒に勝つ必要なんてあるのでしょうか？
私は酒を飲んだからおかしくなったのではなく、酒の量を間違えたからおかしくなったのであります。
断つということは確かに根本的解決に繋がりますが、カッコいい大人っていうのはきっと
「やや、もう四杯も飲んでしまったか。では今日はこの辺で。大将、おあいそ。あ、ここは僕が。」
なんて言って店を出たらサラッと別れて電車に乗り、近所のスーパーで翌朝のパンを買ったら真っ直ぐ家に帰るもんなんじゃないのかと、そう思うようになったんです僕。僕って。私って。

例えば煩悩を滅却する為に精進料理を食べて修行に励むのはわかるんですが、それこそ肉やニンニクを毎日食っても煩悩を抑え込める方が人間として何枚も上手なんじゃないのかということが言いたいのです。
酒も同じく、飲まずに素面なんてのは当たり前の話。
そんなことは誰でも出来るの。飲んだ上でちゃんとしなさいよバカってやさしいささやき声で美人に言われたい。バカってカタカナで言われたい。

はい、というわけで酒をやめずして、酒をやめることが出来ればそれってかっこよくない？
ということが僕の新たなテーマです。

酒を飲むということが一体どういうことなのか。
今日はそのことについて一度街に繰り出し気の合う友人たちと飲みながらじっくり考えたいと思います。
四十杯ほど。めっちゃたのしき。しきしき。しろめ。

◆空きっ腹に酒ゆきてるの「酒でも飲まなきゃやってられん」一覧

◆Release Information