就職できなかったフリーランスライターの日常(21)
就職できなかったフリーランスライターの日常(21)
東日本大震災が駆け出しライターに与えた影響・後編
2011年3月11日に起きた東日本大震災。帰宅難民となったその日は下北沢の友人宅に泊まり、翌3月12日の正午過ぎに当時の居住地だった静岡県は伊豆高原にある我が家に着。そのままぐったり寝込んでしまった。
20代半ばのライター1年目。ギャラも安く、仕事も多くなかったため、ペンション業を営んでいる実家の手伝いをしながら伊東駅構内改札外の喫茶店でアルバイトをし、引き続きライターさんのアシスタント業も行っていた。地震の直接的な被害は一切なかったが、二次災害に巻き込まれ続けた数ヶ月であった。
電力供給が不安定で、伊東~熱海間を運行する伊東線がまったく動かなくなった。駅構内にあるバイト先は利用者が激減するだけでなく、いつ行われるかわからない計画停電で営業時間も定まらない。従業員のシフトは大幅にカットされ、TVをつければ凄惨な映像の数々と、日に日に上がっていく死者数、行方不明者数が目に入る。美しく咲き誇る桜、清い鶯の鳴き声、色めく春と裏腹に、じわじわと心が疲弊していった。
そんななか東日本大震災の4日後、富士山麓で震度6強の地震が起きた。わたしの住んでいた伊東市は震度2~3のものだったが、やはり世間にとって地震の恐怖がタイムリーだったことに加え、「伊豆」「海」「静岡」というワードがどうしても津波や大地震のイメージを彷彿させてしまうためか、実家のペンションの予約がすべて一気にキャンセルになった。天災が原因ゆえにキャンセル料も取れず、だからといってペンションの食料品や水道光熱費、税金やローンなどの支払いは待ってもらえない。借金をするしか切り抜ける方法がなかった。
商品棚が空っぽになったスーパーやドラッグストア。まともに稼働しないバイト先と実家のペンション。地震の情報と映像が流れ続けるTV。自粛ムードと計画停電から中止が相次ぐライブ。どうなるかわからない原子力発電所。最も厳しい状況なのは東北の方々なのにもかかわらず自分が二次災害でいっぱいいっぱいになってしまっていることや無力であることも惨めだったし、二次災害を「大変だ」「つらい」と言うことができないムードもとにかくただただつらかった。
そんな自分の心を支えたのは「お笑い」だった。当時は自分にラーメンズブームが再燃していて、観ていなかった公演やノーチェックだった小林賢太郎プロデュース公演DVDをTSUTAYAで借り漁った。電気が止められた暗い部屋のなか、安くて小さいDVDプレイヤーでラーメンズを観ている時だけ、心の底から笑うことができた。
月1本程度だったインタビューも0本になり、主な業務であったライブレポートは中止が相次ぎ、都内に出掛けることも減った。3月14日から4月4日に延期になったライブに足を運んだが、自粛ムードの最中だった(いま考えると開催できたことが奇跡的でもある)ため照明は最小限。どこか参加者全員が罪悪感を抱えている空気感もとてもやるせなかった。だが、久し振りのライブという空間が、とても尊く感じられるのは確かだった。少しずつ元の生活に戻れたのは、夏ごろだった。
衣食住は生命を維持するのに必要最低限のものであり、娯楽は人間的な生活の営みや豊かさを追求するうえで欠かせないものだ。最近の新型コロナウイルスにまつわるいろいろは、時期も重なってどうしても東日本大震災の時期のことが頭に過るが、状況はまったくもって異なる。いろんなものが壊れてしまって、ここからどう立て直すかを世の中が必死に考えていたのが東日本大震災。今回の新型コロナウイルスに関しては、どんな事態が巻き起こるかわからないから、とにかくその脅威を膨らませないようにするためにどうするべきかを考える必要がある。
とは言うものの、つらさを抱えていたり、危機的状況に陥っている人が多数存在することは間違いない。感染者という最大の被害者はもちろん、卒業式を迎えられなかった若者も、突然の休校に悩む子育て世帯も、政府からの自粛要請で仕事がキャンセルになってしまったアーティストや会社員やフリーランスも、きっとみんなそれぞれストレスを抱えているはずだ。
そんな時に、「自分はこんな状況です」と伝えることを良しとする世の中であってほしい。SOSを出した人に対して「もっとつらい人がいるんだから」という言葉で抑え込まない世の中であってほしい。
たしかにみんな自分のことで大変かもしれない。暗い話題は出来る限り聞きたくないかもしれない。だが自分の状況を発信することで、「少しでも力になれたら」と思う人が現れたなら、それは素晴らしいことだと思う。自分の状況を知ってもらえるだけで、だいぶ心もラクになる。
慌ただしく不安定な世の中だからこそ、発信することにも受け取ることにも心遣いができる人間でいたい。1日でも早く平穏な日が訪れて、笑い合える日を心から待ちわびている。
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