Brian the Sun 【春風】

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Brian the Sun 『春風』

読者さんやアーティストさんからおすすめしていただいたMVを毎日紹介する「紹介されたMV紹介チャレンジ」DAY 16は、にゃもさんからのおすすめのMV……というよりは「このプロジェクトにまつわるあなたの考えを言語化してほしい」というリクエストって感じかな? Brian the Sunの先月公開された新曲です。

制作のやり取りはメンバー/スタッフのテレワークで行われており、青空をバックにそよぐ淡い色合いの桜の映像が最初に流れたあとは、それぞれの自宅で演奏するメンバー4人の姿がテレワークの画面を模した4分割ノーカットのまま淡々と流れていきます。

たぶんこの映像、もっと工夫しようと思えばできたと思うんです。極端なことを言えば、曲中で楽器を置くシーンを作って4分割の画面のなかで全然違うことをしてもいいし、ひとりずつ演奏シーンをフィーチャーしてもいい。でもこの映像は敢えてノーカット4分割のみにしてるんじゃないかな。同じ音楽を鳴らしているといっても、この映像は「それぞれの場所のそれぞれの時間軸」を克明にしている。大げさに言えば、「4人の場所と時間が交わっていない」。

それっていまのわたしたちの状況とまったく同じだし、音楽の面白いところでもあると思うんですよね。たとえば前者の面を語るならば、それぞれが違う観点と違う想いのもとウイルスという存在を捉えていて、わたしみたいにずっと家で過ごしている人もいれば、医療従事者の方々やスーパーの店員さんなどのように、職場でウイルスと直面している人もいるなど、多岐にわたる。後者の面を語るとすると、それぞれ異なる状況であるわたしたちに対して、音楽/音源という存在はいつもフラットなんですよね。再生すればすぐ、時間なんて概念も社会的地位も何もかもを超えて、今の自分の前に現れてくれる。それはとてもポジティヴなことです。

Brian the Sunは「Sun」という言葉をバンド名に冠していますが、光だけでなく、その光によって生まれた影や、光が孕んだ陰も持ち合わせていると思います。抽象的な言い方をするならば、影の存在を誤魔化さず、影で隠れたところにも大事なものが存在することを示唆している。優しくてやわらかいミディアムテンポの【春風】は、それこそ包容力もあるし、森 良太さんの公式コメントにもあるような「日々を乗り越えるコンパスがわり」としてのエスコート感もあるんだけど、どことなく陰もある。この現状を無理に明るく塗り替えることをしないフラットなサウンド感が、なによりの希望として響いてきました。

わたしは不安も怒りも悲しみも、人間にとって大事な成分だと思っています。ただあいつら――感情全般に言えることではあるけれけど――大きくなりすぎるとまじで厄介なくらい暴れ出すんですよね。《不安や怒りや悲しみの思う通りにはさせない》という歌詞もあるんだけど、不安や怒りや悲しみに対して知性で真摯に向き合っているからこそ出てくる、感情的な言葉であり音楽なのかなあ、なんて思ったりもしました。

桜の季節も終わり、5月。さきほど買い出しのために原付に乗ろうとしたら、目には鮮やかな緑が飛び込み、マスク越しにも夏の匂いがふっと香りました。季節は進んでいる。わたしたちも前に進んでいるはずです。良太さんも前進してレベルアップ、30歳のバースデーおめでとうございます。にゃもさん、リクエストありがとうございました!(沖 さやこ)

 

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Artist Page – Brian the Sun

◆Artist Information
https://www.brianthesun.com/
https://twitter.com/Brian_the_Sun

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