とがる「誘波」
とがる – 誘波 Izanami (Music Video)
ワンタンマガジンのTwitterアカウントを開いたとき、タイムラインのいちばん上に表示されていたリツイートに目が留まりました。それが1stアルバム『生きていたら逢いましょう』の告知ツイートでした。そのツイートに、この「誘波」MVの動画の切り抜きが掲載されていました。
緑と青と黒が混じり合った仄暗い色味の映像を観て、なんとなく音楽性が想像できたので動画を再生してみると、まさしくでした。仕事が落ち着いたらアルバムを聴いてみようとリマインドの意味でふぁぼっておきました。それからしばらくしてSpotifyでアルバムを聴いてみると「わーこれはめっちゃいいぞ!」とテンション上がりまして。プライベートでヘビロテしています。
情報が少ないのでバンドアカウントのTwitterを全部遡ったら、もともとは4人組バンドで、ほどなくしてメンバー3人が脱退。それからサポートメンバーを入れて音楽活動をしているようです。ソロプロジェクトというよりは「正式メンバーがひとり在籍しているバンド」として捉えるのが正しいのではないか、という結論にわたくし個人は至っております。
サウンド感はグランジやハードコア、シューゲイザー、エモといったジャンルに分類できるのですが、その強い音像のなかでど真ん中に構えているのが歌心のある強いメロディと、内省的であり筆圧の高い歌詞、感傷的かつ激情的なボーカルなんですよね。ある種フォーク的な側面やポップス的な側面を持ち合わせつつ、それがバンドという概念と等しい熱量で爆発――誤解を恐れずに言えば心中しているような気魄や刹那性があるんです。ニュータイプのミクスチャーと解釈してもいいし、思想や出自が根底にあるぶん「正式メンバーがひとり在籍しているバンド」を体現した音楽と言ってもいいのではないでしょうか。もしかしたらそれがご本人のおっしゃっている「モダン・グランジ」なのかしら、と思ったり。
話を「誘波」のMVに戻しましょう。シンボルとなっているのは「海」と「花を持った青年」です。「海」はこの世の生命の誕生と密接な関係があり、「花」はお祝い事に用いられることも多い反面枯れゆく存在であったり、死人に捧げたりと「死」と密接な関係にあるものだとも思います。そこにバンドの演奏シーンが重なるので、映像トータルで「生きること」を痛烈に表現している印象を受けました。
音や映像には苦しみや傷、反発心、憂いなどが表現されているんだけど、壊れやすいからこその優しさも存在している。なんだかそれは、感情がこらえきれなくなったときに目から零れてくる、涙のあのあたたかくも冷たくもない温度にも似た心地よさです。彼の感情というよりは、彼が身を置いた人生のうちの一瞬の空間、つまり空気や景色、湧き上がった感情を一気吸い込むような感覚がある。それも彼がじっくり自分の心と向き合っているからこそ実現できるのかもしれないな、と思ったりなどしております。
『生きていたら逢いましょう』というアルバムタイトルも、「生きて会いましょう」じゃないところに寂寥感がもたらす優しさがあって。諦めているようで諦めていない、希望に向かって走っているわけではないけれど、希望を捨ててはいない。緊迫感があるのに、どこか俯瞰的な浮遊感もある。そんな温度感に居心地の良さを感じるのでした。
というわけで今後も注目のバンドです。年内のうちにライヴも観たい。(沖 さやこ)
◆Recently Release
とがる『生きていたら逢いましょう』
2021.06.04 on sale
ungulates
¥ 1,500(tax in)
[Track List]
1. 散瞳不良
2. 心が失くなった
3. 誘波
4. 霞の向こう
5. 刻む秒
6. むやみに痛い
7. 情緒の海
8. もうどこにもいない
Buy [DIGITAL] : Bandcamp
Buy [TAPE] : The Domestic / HOLIDAY! RECORDS / FANCLUB / stiffslack etc
Streaming : https://linkco.re/bby253p5
◆Spotify
Artist Page|とがる
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