求めてもらえるから生きていける――FLiP活動休止から5年半、より自由に躍動するSACHIKOの音楽欲
◆音楽がなくても生きていけたけど、音楽があると自分らしくいられる
――PABLOさんと共作の、SACHIKO名義でリリースした「little star」も、別名義の歌手活動のように歌への思いから生まれたものだったのでしょうか?
SACHIKO 「ソロとしてやっていこう!」と意気込んで作ったのではなく、もっと自然な流れかな。PABLOさんとは一緒に輝夜月ちゃんの楽曲提供をしたり、POLPOのゲストコーラスに参加させてもらったりもしていたので、前々から何気ない会話のなかで「一緒に曲作りたいね」と話していたんです。PABLOさんもコロナ禍前に比べると制作に取れる時間が増えたから、「ちょっと一緒に作ってみない?」と声を掛けてもらって共作をしたのが「little star」ですね。ああいうアンビエントな曲を歌えたのは、そういうメンタルだったからかなとも思います。
Sachiko「little star」(2021)
SACHIKO PABLOさんが作ったオケと大枠のメロディに、わたしが2Aのメロディと歌詞を書いて作った曲で。PABLOさんのデモのたたき台の歌詞に《僕ら流星群》というワードがあったんです。オケを作っている人から出てくるワードがいちばん楽曲にフィットすると思ったから、そこを起点に歌詞を書き始めました。歌詞にはその時の心境がダイレクトに出ちゃうので、落ちている真っ只中だと救いを求める歌詞ばかり書いてしまうんですけど、この曲はPABLOさんの世界に寄せたところも大きいですね。
――なるほど。わたしは、PABLOさんがSACHIKOさんをイメージしてオケを作ってらっしゃるんじゃないかなとも思って。穏やかでピュアだけど仄暗さと苦しさもある曲なので、聴いて真っ先に思ったことは「SACHIKOさんはこんな感覚を抱えながら生きているのかもしれないな」だったんです。
SACHIKO ああ、それはあるかも(笑)。お互い寄せ合った結果が「little star」なのかな。PABLOさんから「どんな曲にしたい?」と訊かれて、「聴いた人がちょっとでも救われるような曲を作りたい」「死にたいが生きたいに変わったらいいな」と答えたんです。PABLOさんの自宅スタジオでレコーディングをしたんですけど、PABLOさんめちゃくちゃ褒めてくれるんですよね(笑)。だからすごく楽しく気持ちよく歌えたんです。
――ボーカリストとしての凄みを感じる、胸に迫る歌声が印象に残りました。
SACHIKO 消えそうなイメージだけど、絶望的な印象を持たせたくはなくて。あどけなくて息苦しさもあるけれど、手を差し伸べたら掴んでくれる人がいることが伝わる歌を歌いたかったんです。「きらきら星」のコーラスを入れるのはわたしが提案したんですけど、それがハマったときはふたり揃ってものすごく興奮して。やっぱり音楽を作ること、歌うこと、心の奥から出てきたものに触れた瞬間って、めっちゃ気持ちいいし尊い! PABLOさんもわたしも心の底から音楽が好きなんだなー……と痛感するレコーディングでしたね。
――今年発表された楽曲たちは、FLiPの頃からあるSACHIKOさんカラーのメロディと、提供曲だからできる新しいアプローチが共存している楽曲が多いと感じました。現在はだいぶ自由な楽曲制作が実現できているのではないでしょうか?
SACHIKO そうですね。最近は、いま生まれているいろんな音楽を積極的に取り入れるようにしているんです。やっぱり新しいものを追って自分なりに消化していかないと、音楽的感覚は衰えていくと思うんですよね。でも勉強のために音楽を摂取することはわたしの性質上難しくて。別名義の歌手活動を始めたのはそれも理由なんですよね。いろんなジャンルの音楽を歌うことで、自分のなかに新しいメロディやコードの感覚が染みこんでいるんです。
――なるほど。別名義の歌手活動はボーカリストとしての欲求を満たす場所、スキルを磨く場所でもあり、ソングライターとしてのインプットの場でもあるんですね。
SACHIKO LYSMの「ネオンで花束を」はその経験が生きたからこそ作れた曲でもあるんですよね。わたしの作るメロディラインは波みたいなんだけど、VOCALOIDは点が連なるメロディラインが多いから、その要素を自分なりに入れてみたんです。だから今後作っていく曲も、新しい要素を取り入れていきたいんですよね。オリジナル曲を作りたい気持ちはつねにあるので、自分がいまやりたい音楽が定まったら発表していきたいです。
――楽しみにしています。タイミングを逃すと、バンドのために作った曲みたいに歌ってくれなくなっちゃうから(笑)。
SACHIKO そうなんですよねー……すぐ「自分のなかのトレンドじゃない」と思っちゃうんですよね(笑)。そうならないようにちゃんと出せたらいいな。
――FLiPの曲を気まぐれで歌ってくれるのもうれしいけど、いまのSACHIKOさんの作る曲を、いまのSACHIKOさんが歌うのをみんな待っていますから。焦らずに発信してもらえたらいいなって。
SACHIKO ほんと、みんな待っててくれてるんですよね。この5年半、何度も音楽から離れようと思ったし、音楽がなくても生きていけたけど、音楽があると自分らしくいられるなとすごく思うんです。お客さんがひとりでもいたら歌うけど、そこに誰もいないなかで歌うのはつらくて。ここまで続けてこれたのも「辞めないで」や「また聴けるの楽しみにしてるよ」という言葉のおかげだし、幼少期からずっと、聴いてくれる人、求めてくれる人に延命してもらってるんです。
――SACHIKOさんにとって、ご自身の音楽を極めていくことは恩返しなのかもしれないですね。
SACHIKO 何度も言ってしまうけど、本当に求めてくれる人には感謝しかないです。今後やりたい音楽のことを考えていくうちに未来のことを考えるようになって、もう少し生きていたいと思うようになったし、これからも生きていくならこの人生には笑顔の時間や心あたたまる時間を増やしたい。やっぱりわたしの人生には音楽があったほうがいい――この1、2年はそう思いながら過ごしていますね。(了)
◆Recently Release
SACHIKO
Digital Single『little star』
2021.7.7 on sale
[Track List]
01.little star
Streaming : https://linkco.re/nHSmSnd9
◆SACHIKO’s Songwriting -until September 2021
words&music
MindaRyn「kiss my cheek」「Be the one」「Like Flames」
LYSM「ネオンで花束を」
仲村宗悟「水槽の花」
words
輝夜月「Kick Kick Kick xxx」
miscast「Mythology」「ミッドナイト・スルー・ザ・ナイト」「ストレスフリースタイル」
シュレディンガーの犬「アニマニフェスト」
◆More Information
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