16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第7回~暗かったり明るかったり

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第7回 暗かったり明るかったり

 

[1] 通り過ぎる暮らし

大阪から名古屋へ向かう近鉄電車に揺られていると、様々な人が乗り降りします。僕はスタジオ練習に向かう為に乗っていますが、皆、どこに向かうんですかねぇ。田んぼや団地や工場地帯、一つ一つすごいスピードで横切っていきますが、全てに誰かの人生が詰まっていると考えると、頭がクラクラしちゃいますね。

それはそうと本コラム『音に呼ばれる人々』、第二期に突入しました。ありがとうございます。継続の声をかけていただき二つ返事で「やります!」と言ったのですが、ひとえに皆様のおかげです。後から波のように感謝の気持ちが押し寄せています。

音楽活動をしていると、電車のように凄いスピードで誰かの人生とすれ違い続ける日々ですが、そんな誰かの人生に文章でも関わることができたら面白いなぁと思っています。

あ、僕ですか? 失礼しました。僕は「16ビートはやお」という変な名前で活動するドラマーです。アザラシが好きです。それ以上のことは知らなくても良いですが、何だか少し変な人が文章を書いているんだなと感じてくれればそれで大丈夫です。

 

[2]バンドはコスパが悪い

「バンド」という集まりこそ『音に呼ばれる人々』かもしれません。僕は大阪在住ながら、名古屋を拠点とするバンドでドラムを叩いています。そのバンドをガストバーナーと言います。

L→R:辻斬りっちゃん 加納靖識 デストロイはるきち 16ビートはやお

L→R:辻斬りっちゃん 加納靖識 デストロイはるきち 16ビートはやお

ライブだとこんな感じ PHOTO BY イノコシゼンタ

ライブだとこんな感じ
(PHOTO BY イノコシゼンタ)

音を合わせる為だけに、片道3時間半電車に揺られて何度も何度も大阪から名古屋へ。コスパは悪いけれど浪漫溢れる毎日を送っています。そもそもなぜ、いい大人が集まって曲を作って、人前で演奏して、全国各地へ赴くのか。それには「お金になるから」「承認欲求が満たされるから」「モテたいから」など有象無象の下心や欲求があると思いますが、ガストバーナーの場合は「楽しいから」の一点にのみフォーカスして活動しています。ある意味、青春の部活動がまだ続いている状態です。

今回はそんなガストバーナーのメンバー達を紹介します。どんな人が「音に集まっているのか」見てみましょう。

 

[3]亡霊に取り憑かれた蛙

ガストバーナーの首謀者である彼は、デストロイはるきち(ex.みそっかす)という名前で、ステージのセンターでギターボーカルを務めています。世の中のあらゆる事に影響を受けやすく、そして社会に振り回されやすく、底なし沼の底を叩くような瞬間を幾つも経験しています。

どういう状況?(PHOTO BY 大川茉莉)

どういう状況?
(PHOTO BY 大川茉莉)

はるきちさんは「恐ろしくピュア」です。文字通り恐ろしい、恐怖を覚えるほどのピュアです。ある日突然、体に良いか悪いか分からないけど宇宙に良い高い水とか大量に買ってしまいそうなほどピュアです。

そして、僕が今まで出会った人の中で断トツで生きるのが下手です。生きるのが下手というより、正直すぎるのです。正直すぎるというか、逆に社会がずる賢いというか。はるきちさんが生きれば生きるほど、社会の狡猾さが浮き彫りになります。彼は「正直者が馬鹿を見る」を真正面から体現しているような気がします。

だからはるきちさんがどんなにヘマをしても、人の話を聞かず寝ていても、社会に洗脳されても、なんだか見捨てられないのです。そこが最大の魅力なんだと思います。彼がどんなに滅茶苦茶で「あ〜もう!!」と思う瞬間があっても、その時々の生き方に嘘がないのです。

僕ははるきちさんと出会ってから「上手く生きようとすること」を辞めました。自分に必ずしも正直ではない、見え透いた戦略めいた生き方をしていた過去を数年かけて精算し、今正直に生きることができているのは、はるきちさんのおかげです。はるきちさんはのたうち回って生きていただけかもしれませんが、そんな影響を僕に与えてくれています。

 

[4]山、川、森、猫

はるきちさんが集めたガストバーナーのメンバー、はるきちさん以外の二人はメンバーとして出会うまで知らない人でした。

ギターの加納さんは、他のメンバーの狂ったステージネームに引っ張られず「加納靖識」と本名で活動しています。その時点で分かりますが、加納さんは何にも振り回されない「自然の人」です。山、川、森、加納です。

猫の毛を取る加納さん

猫の毛を取る加納さん

加納さんは振り回されません。はるきちさんがどれだけ社会に打ちのめされていても、少し離れたところでヘラヘラ笑っています。談笑中や移動中に気がついたらふっと消えて、遠くでタバコを吹かしています。「車とってくるからちょっと待っててね〜」と言って消えたら予想よりも長い時間帰ってきません(メンバーは「加納タイム」と呼んでいる)。酔っ払うと見境なく口が悪くなったり、突然消えたりします。

けれど、バンドに対する情熱は人一倍です。動かざること山の如し、動く時は雪崩の如しです。兎にも角にも泰然とした人なのです。

時間軸やスケールが、みみっちい僕とは正反対にあって、会うたびにその人生観に驚かされます。承認欲求のその外にある、己との闘い。そんなことばかりに興奮している加納さんを、微笑ましく眺めています。時に振り回されなさすぎて「もうちょっと周りのことを考えてくださいよ!!!」というと、「本当ごめん!!! 本当ごめんね!!!」と沢山謝ってくれたりします。いつもくどくどと小言をすみません。

僕と反対ではありませんが、似通っているけれどパラレルな価値観で生きている加納さんがメンバーにいることで、ガストバーナーのバランスが取れている気がしています。毎回自然と触れ合うような驚きを、加納さんから貰っています。

 

[4]過去を振り返らぬ酒

ベースの辻斬りっちゃんは破壊仲間です。お互い出会うまでの人生に苦難が色々あったのでしょう、繊細が故に、その反動で楽しい破壊願望を持っています。「バーンとやってやれー!」「ここは思いっきり壊してやりましょうー!!」みたいな感じです。そんな破壊願望を持つリズム隊なものだから、はるきちさんや加納さんは大変だろうなと思います。直す気がないのがタチが悪いですが。

破壊願望のあるリズム隊

破壊願望のあるリズム隊

他にも「あ、この人仲良くなれそう」「あ、苦手かも」という感受の仕方が割と似通ったリズム隊でもありますが、大きな違いもあります。りっちゃんは過去に固執しません。かっこいい。

りっちゃんは「今」が人生で一番最高であるために、過去に執拗にこだわったり、後悔するような選択を取らないよう、大胆に人生を過ごしています。見ていると爽快だし、逆に崖から転げ落ちるような瞬間もあるけれど、そうやって人生を楽しい方、楽しい方へリスクを顧みずどんどん身を投げ打っていく姿が、僕から見るととても羨ましかったり、とてもそんなことできないと感嘆したりします。

一方僕は、かつて歴史学を専攻していたことからも分かるように「過去から何を学ぶか」を大事にしています。今を全力で過ごしてどんどん過去にしていかないと、未来の自分が魅力的にならないと思っています。逆に過去を見るが故に慎重になって人生の石橋を叩く瞬間も実は割と多かったりします。

しかしながら過去にこだわらないりっちゃんも、過去をじっくりみる僕も、入り口は違いますがどちらも「今を最高に生きたい」という出口は同じです。そんな二人がリズム隊というのは、とても面白いんじゃないかなと思います。あとりっちゃんは凄く鋭角なボケを入れてくる一方、遥かにロマンチストで乙女なのでバンドも引力のようにロマンある方向に引っ張られています。

 

[5]綺麗事ではない

ガストバーナーのメンバーはそれぞれどこか欠けている。欠けているからこそ、互いで互いを埋め合わせる為に「音」に呼ばれて出会ってしまった。四人集まって音を出し、またお客さんと出会う。「ライブハウス」を交差点にして、これからまた色んな人と出会っていく。

「音に呼ばれる人々」は必ずしも合う人ばかりではありません。合う人、合わない人、人間ですから必ずあります。最近の悩みは「音に呼ばれる人々」は必ずしも一枚岩ではないということ。

世の中は全員悪い人でもなければ、全員善い人でもありません。幼稚園の頃「みんな仲良く」と先生に教えてもらったけれど、大人になれば「みんな必ずしも仲良くできない」ということに気づきます。

去年「音に呼ばれる人々」を書き続けて、少し危機感を抱いたのは、自分の好きなものばかり並べて、ただの綺麗事で終わってしまうということでした。好きなぬいぐるみばかり並べた部屋のような、そんな気持ちがどこかにありました。ライブハウスは綺麗事ばかりではない。

ガストバーナーのように歪な集まりのピースが上手くハマれば良いですが、そうでない場合、「音に呼ばれた人々」はどうなってしまうのだろうか。そんな暗部もひっくるめて、ライブハウスであり、「音に呼ばれる人々」なはずです。見たくないものに蓋をせずしっかりと向き合うことで、このコラムも立体的に描くことができたらいいなと思います。おお、第二期っぽい。ではまた次回。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

◆Live Information

ガストバーナー
○2023/7/8(土)金沢vanvanV4
w/MARSBERG SUBWAY SYSTEM/HERE/アンジーモーテル
○2023/7/8(日)新潟CLUB RIVERST
w/MARSBERG SUBWAY SYSTEM/HERE/終活クラブ

-3rd mini album『MAGIC』Release Tour 2023-
○2023/7/15(土) @名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL
w/アルカラ
○2023/8/19(土) @千葉・稲毛 K’s Dream
w/Giallo/the twenties/Large House Satisfaction
○2023/8/26(土) @京都・二条GROWLY
w/終活クラブ/ヤジマX (feat.ガストバーナー)/歴史は踊る
○2023/8/27(日) @富山 SOUL POWER
w/終活クラブ/ヤジマX (feat.ガストバーナー)/セックスマシーン!!
○2023/9/9 (土) @大阪・扇町 PARA-DICE ※SOLDOUT
○2023/9/23(土) @名古屋・栄 CIRCUS
w/QOOPIE/HERE (+1Band)
○2023/9/24(日) @兵庫・神戸 太陽と虎
w/YOWLL/Thursday video night club(+1Band)
○2023/10/14(土) @茨城・水戸 CLUB SONIC
w/鴉/folca(+1Band)
○2023/10/15(日) @東京・池袋 Adm
w/鴉(+1Band)
○2023/10/20(金) @名古屋・池下 CLUB UPSET
w/???(ツーマン)

ZOOZ
○2023/6/23(金)木屋町DEWEY
w/In The Valley Below(USA)/Yasu Cub/Sombra/SiMA
○2023/6/24(土)神戸KINGS X
w/171/a.m.小怪団地/水平線/The Slumbers
○2023/7/14(金)京都nano
w/Kissed by an animal(USA)/A Very Special Episode(USA)/BEETHOVEN FRIEZE/
N-16/サスライナンバープレート
○2023/7/22(土)塚本エレバティ
w/ユウレカ/YUNOWA/kumagusu/YOLZ IN THE SKY
SHOP:SABOTEN MUSIC FOOD:喫茶室ラハト

 

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