16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」第10回~仕事と音楽と青春と

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16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」
第10回 仕事と音楽と青春と

 

[1]仕事と音楽

おかしくないですか? 世の中で付き合ってはいけない職業の「3B」は「バーテンダー」「美容師」「バンドマン」が挙げられますよね。金銭的な余裕のなさだったり、昼夜逆転だったり、私生活の不安要素だったり、あらゆる要素で付き合ってはいけないとされています。

でも、やっぱりおかしいですよね、あ、違います、バンドマンは実は誠実ですとかいうつもりはありません、色々ありますからね、はい。そう、そもそもバンドマンって職業なんですかね? 職業は「生計維持のために日常従事する仕事」と定義されているみたいで、この定義からすると「職業としてのバンドマン」はほんの一握りの人が対象になっていて、多くの人は職業と言うには少し距離がありすぎるような気がします。

確かに僕自身も「音楽を仕事にする」のではなく、「楽しく音楽するために、仕事と音楽を切り分ける」という人生を気がついたら歩んでいます。必ずしも切り分ける必要はないのですが、僕の場合は仕事と音楽を切り分けることで健全に音楽ができている現状が存在します。ある種、人生全て賭する覚悟を持って音楽をしていないとも言えるのですが、その中途半端さがもたらす幸福について、少し触れてみたいと思います。

 

[2]25歳までに売れないと

僕がオリジナルバンドを始めたのは2008年、まだ10代で大学生の頃でした。その頃は「バンドは25歳までに売れないといけない」という言葉がありました。25歳までに一定の成果を出さなければ、バンドなんて辞めて真っ当に働いた方が良い。25歳を過ぎてだらだらバンドマンを続けていると普通の人生へやり直しがきかなくなるぞ、という含みを持たせた言葉でした。

当時の僕は何となく「自分の腕だけで生きていく」という自信だけがあり、音楽に限らず何かで成功して悠々自適に暮らすだろうと思って何も飛び抜けた努力をしないまま大学生活を送っていたので、この「25歳までに売れないといけない」という言葉にピンときていませんでした。

けれど周りの多くのバンドマンはこの25歳というタイムリミットを強く意識して燃え尽きるように活動し、報われなければ潔く辞めることが多くありました。それが当たり前という空気でしたし、25歳ではなく、大学卒業を契機に解散するバンドも今より数多くいる印象で、ライブハウスの新陳代謝は激しいものでした。

 

[3]ナードマグネット

当時僕が大学で組んでいたEmu sickSというバンドは、大学卒業きっかけでの解散を「メンバー全員が解散について触れないようにする」というぬるっとした回避方法で乗り切っていました。更に僕は大学院へ進学し、学生時代のモラトリアムをしっかり延長していたのでした。

しかしながらメンバーの半数は社会人になり、25歳が近づくにつれて「なんのためにバンドをしているんだろう」「社会人しながらバンドをするのは難しい」という現実を誤魔化し誤魔化し音楽活動をするようになりました。

当時は「平日ブッキングに出られないバンドマンなんて」「リハなしで出るなんて良くない」という空気がありました。土日中心で、平日はリハなしで活動すること、そんな我儘振りかざしてバンドができる今の方が相当特殊な時代だと思います。ライブハウスの皆様の優しさに甘えているのです。

ともかくそんな当時の社会人疎外感の強い空気の中で出会ったのが、僕たちよりも数歳年上で、社会人しながらバンド活動をするナードマグネットでした。土日中心ではありますが泥のように地方でもライブをし、日曜深夜のライブ終わり、日付が変わってから地方を出発、朝方大阪に帰りそのまま会社へ向かうエクストリーム出社を繰り返し、微塵も手を抜かない社会人バンドのパイオニアが身近にいたのでした。

Emu sickSも彼らの姿に感化され、「ナードマグネットがいるから頑張れる」と合言葉のように繰り返し、後に続くように音楽をするようになりました。メンバーの中で「まあ社会人になっても限界までやってみよう」という意識が生まれていました。

ナードマグネットの草分け的な活動のお陰で少しずつ「社会人バンドマン」という言葉自体が市民権を持つようになり、その活動の仕方が2010年代中盤から徐々に許容され始めました。社会人であろうと、なんであろうと、良い音楽と良いライブができていれば何歳だってライブができる、音楽活動ができる、そんな土壌が醸成されていったのでした。

 

[4]青春はいくつになっても

そんなこんなで30歳をとっくに過ぎてもう中盤に差し掛かるというのに、僕はまだバンドマンです。売れるとかどうとか度外視にして、自分の中で最高に楽しくて、突き詰めて音楽をしています。社会人の傍らまだまだ青春をしています。真っ只中です。会社にはバンドマンであることを黙ったままですが。

「バンドは25歳までに売れないといけない」という言葉は、「職業としてのバンドマン」を目指すには必要なんだと思います。しかしその言葉に惑わされすぎると、25歳以降の楽しい青春までをも断ち切ってしまうことにもなりかねません。青春に年齢なんて関係ありません。

しかし、社会人しながらのバンドマンでもお金はかかるので金銭的に余裕がなかったり、エクストリーム出社で生活リズムがぐちゃぐちゃだったり、スタジオ練習も沢山入るし、ライブハウスに頻繁に遊びに行くし、しょっちゅう飲みに行くし、会社でも頑張っちゃうので私生活も不安定です。社会不適合なのに平日は社会に適合しちゃうので、もうメンタルもジェットコースターそのものです。

やっぱり職業であろうがなんであろうが、バンドマンは付き合ってはいけないのかもしれませんね。不安定なバンドマンを平日に規則正しく縛り付けておく会社という存在は、もしかしたらもしかすると、すごく重要なのかもしれません。いや、いや、仕事、辞めたい気持ちに変わりはないのですが。複雑な気持ちを抱えたまま、明日も出社します。

 

16ビートはやおの「音に呼ばれる人々」一覧

 

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〈ZOOZ〉
○2024/1/28(日)・京都某所
○2024/2/4(日)・京都Live House nano
○2024/2/24(土)・京都Studio Antonio
○2024/4/7(日)・大阪某所

〈ガストバーナー〉
『MAGIC』東名阪ワンマンツアー
○2024/1/20(土) @大阪・南堀江knave
○2024/2/10(土) @名古屋・新栄CLUB ROCK’N’ROLL

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