漫画家であり音楽家、感傷ベクトル・田口囁一が向き合う“ひとりだからできること”
◆出会いが俺を変えてくれた
――真志朗さんはかなりバンドとしての感傷ベクトルにとって起爆剤になったでしょうね。
バンドの中身の構造が変わりました。いままで実は……俺がめちゃくちゃ人見知りなのもあって、バンドメンバーともうまく話せなくて(笑)。
――ええっ!? そうなんですか!?(笑)
そうなんです……。だから春川がいたときは、春川を介してなんとなく俺も一緒に話ができてるっぽい感じだったんですよね。それがなくなって自分でバンドを動かしていかなければならなくなって、メンバーに改めていまの状況を説明して――「こういう状況なんですけど、それでもみなさんと一緒にやりたいので、力を貸してくれる方はぜひついてきてくれるとうれしいです」というメールをしました。そしたらみんな「これからも続けるし、いろいろ相談してくれたら力になる」という返信をくれて。だからメンバーとちゃんと話ができるようになったのは、春川が活動を休止してからかもしれない……(笑)。
――7月2日の新体制初ワンマンライヴを観て「バンド感が出てきたな」と思ったのは、単純に仲良くなったことも理由のひとつだったのかも(笑)。
そういうところもあるかもしれないです(笑)。ベクトルバンドはみんなどちらかと言うと人見知りで、それゆえに思うことがあってもスッと出せない瞬間が、多分みんなあった。それが崩れてきたのが最近。俺から発信しないと伝わらないし、言うことは言わないといけないし。それに加えて、真志朗くんがまったく真逆の性質なんですよ。メンバー間で「これは聞いちゃいけないんじゃないかな……」と思うこととか、各メンバーの素性とか家族構成とか、全然知らなかったメンバーのことを真志朗くんがどんどんどんどん暴いてくれて(笑)、そこで明らかになる新事実がたくさんあって。おまけに真志朗くんはすごくいいやつで、最初のうちは「何か裏があるんじゃないか?」と思ってたんですけど、会話をすればするほど「いいやつ」であることを再確認する。化けの皮がはがれなかった。
――化けの皮じゃなかった。とても熱い人ですよね。
真志朗くんは「自分が関わるからには絶対にいいものにする」という意志を強く持っているので、ベクトルバンドの練習のやり方から変わりました。リハでちょっとでもおかしなところがあったら「テンポを落としてクリックに合わせてやりましょう」と提案してくれて。それで感傷ベクトルはクリック練習を初めてやりました(笑)。そういう練習方法を知らなかったし、知っている人もその提案をする勇気がなかったのかも……。
――(笑)。新体制初ワンマンでも【エンリルと13月の少年】の間奏のツインピアノのような、複雑なフレーズもちゃんと音が揃っていたので気持ちよかったです。
ちゃんと練習しないと真志朗くんに怒られちゃうから(笑)、ちゃんと家でもクリック練をやって。楽器の練習が捗ってます。意思疎通も含めてそういうところがしっかりしてきたなーといううれしさがありますね。
感傷ベクトル / エンリルと13月の少年 (Music video)
――憶えてらっしゃるかわからないけれど、わたしが囁一さんと初めてお会いした3年前の夏、囁一さんは「ギターが重くてつらい」とおっしゃっていたんですよ。
わー、俺、そんなこと言ってたんだなあ(笑)。
――ははは。人は変わるものですね。
……人は人によって変わりますね。出会いが俺を変えてくれたんだと思います。勇気をひとつ出せばなんとかなる、ということですね。
>> できることはやるべきだと思ったし、ラクをしちゃいけないなと思った