ONE TONGUE AWARDS 2017
ONE TONGUE AWARDS 2017
沖 さやこが選ぶ年間ベスト・アーティスト(国内)
=WOMCADOLE
今年のベストアーティスト。世間的に言えば、ぶっちぎり米津玄師さんだと思います。でもここは敢えて世間ではなく、わたしが今年最も「そうそう、こういう存在をずっと待ってた!」と思ったアーティストを選出いたします。それは滋賀出身のスーパーロックバンド、WOMCADOLE。スーパーロックバンドってなんやねんとお思いの方もいらっしゃるでしょう。それがいいんです。自分たちのことを「スーパーロックバンド」と言っちゃう威勢の良さ、なんだか少年漫画の主人公みたいじゃないですか?
WOMCADOLEの覚醒を感じたのは2016年秋。ベーシストの黒野滉大さんが加入し活動を再開させてからでした。会場限定盤『ワンダー/オモチャの兵隊』や2017年1月にリリースされたミニアルバム『15cmの行方』には、それまでの彼らにはなかった鋭い気魄が隅々にまで通っていました。喜怒哀楽すべてがない交ぜになった歌詞と音像が作る青さはとても鮮烈で、圧倒的でした。
わたしが音楽を評価する基準として「海外の要素を日本的(もしくは個人の表現)に昇華するセンスを持っていること」と、これはとても感覚的なのですが「感傷的で泣ける(=感情の昂りが封じ込められている)こと」と「下品でないこと」が3本柱になっていて、ここに「どこかいびつであること」や「闇のなかでないと見えない微かな光を表現していること」が加わったものは最強だなと思っています。WOMCADOLEはまさにそれで、日本のギターロック的要素だけでなく、ギターやドラムには海外のオルタナ/ラウドロックのテイストを感じるし、リードギターの細やかさはポストロックの影響もありそう。流れが美しいドラマチックなベースラインはL’Arc~en~CielやUVERworldのようにJ-POPとロックをつないできたバンドたちのバトンを受け継いでいるものでしょう。そして彼らの音楽の軸になっているのは、樋口侑希という人間の”心の叫び”です。彼のメロディも歌詞も歌も、全部心から直接飛び出してきたような、なんなら心そのものなんじゃないかと思うほど純粋で繊細。荒々しさを持ちながらも、彼の作るメロディも言葉も、胸を刺す悲しみや切なさや苦しみが宿っていると同時に、それらをすべて吹っ飛ばすくらいのパワーを内包しています。【アルク】のメロディはそれが顕著です。この曲に限らず、彼のメロディはオリジナリティのかたまりすぎる。その4人が互いに触発されることで、WOMCADOLEの感情の火花はどんどん威力を増していきます。
彼らが2010年代後期のギターロック界で一線を画している所以は、感情に正直なところだと思います。人から良く見られたいとか、ロックスターになりたいとか、自分たちの理想のロックバンドになろうとするとか、そういう考えよりも何よりも、彼らは音源でもライヴでも、その瞬間瞬間に湧き上がる自分たちの気持ちをとにかく必死に、命懸けで届けようとしています。いつだかのライヴで、樋口さんは「俺らはトップスピードであなたの元にやってきた、このあとはあなた次第です」という旨のMCをしていました。彼らは聴き手に音楽の共有を強要しません。だからこそ思いっきり聴き手の心臓目がけて走り出せるし、それを受け取った聴き手はその気持ちを彼らに投げ返そうとする。その不器用なくらいに真摯で硬派な姿勢が、男女問わず若者の心を掴んでいるのではないでしょうか。
2017年のWOMCADOLEは毎日のようにライヴをしていて、どんどんタフになっています。9月にリリースしたシングル『アオキハルヘ』の全国ツアー「俺達のアオキハルヘツアー」の渋谷TSUTAYA O-WEST公演は、その音の鋭さや気魄にぞくぞくしたし、わくわくして食い入るようにステージを観て、気付けば口角は自然と上がっていました。2017年に観たライヴのなかで特に感動した演奏3本の指に入り、WOMCADOLEは滋賀のスーパーロックバンドではなく日本のスーパーロックバンドだと痛感した日でもあります。メンバーの年齢的にも少年から青年になっていく時期なので、観るたびにライヴが変わっていくし、今後彼らがどうなっていくかはわからないし、いまでもこれだけ心を震わせるライヴをするのにまだまだ伸びしろを感じさせるところも含めて今年のベストアーティストです。2018年は間違いなくさらに飛躍するでしょう。(沖 さやこ)
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