ONE TONGUE AWARDS 2017
ONE TONGUE AWARDS 2017
沖 丈介が選ぶベスト・フィメール・アーティスト(国外)
=Ariana Grande, Taylor Swift, Kesha
2017年の音楽業界は、苦境から立ちあがり再スタートをきる女性アーティストが目立つ年でした。
デビュー当時からプロデューサーとして関わっていたDr.Lukeからの精神的、肉体的な虐待を訴え、契約解除の裁判を起こすも棄却されてしまい、しばし音楽活動から離れていたKe$haがKeshaと名前を改め、自分を傷つけ苦しめた相手への決別と赦しについてをエモーショナルに歌い上げた【Praying】で約4年振りにカムバック。「あなたは私を地獄に突き落とした。けど私も自分を守るために戦わなきゃいけなかった。それを教えてくれた」「時々、あなたのことを祈っているの。あなたに導きの光が差し込みますように。あなたが赦されることを祈っていますようにって」「人生はうまくいかない時もあるわよね。神様でしか与えられない赦しも、この世にはあるから」と、憎しみではなく赦しを綴り、過去の苦しみから未来への羽ばたく彼女の歌声は、傷ついた人々を希望へ導く、虹の橋をかけてくれるのです。
Kesha – Praying (Official Video)
Keshaは来年1月28日に行われるグラミーではベスト・ポップ・ソロ・パフォーマンスとベスト・ポップ・ボーカル・アルバムにノミネートされております。
Keshaとほぼ同時期に新曲【Look At What You Made Me Do】を発表したTaylor Swift。もとよりアルバム『1989』のツアー以降は3年ほど休暇をとる、とアナウンスしていましたが、その間にツアーダンサーを横取りした!してない!というキャットファイトが続いていたKaty Perryとの関係の悪化に加え、過去に音楽祭典の受賞スピーチの際に、登壇していたTaylorちゃんに詰め寄り、マイクを奪ったKanye Westが「なんでBeyonceじゃなくてお前が賞を獲るんだよ」と捲し立てたことによる2人の確執、からの和解がすんだと思いきや、Kanyeが「あのビッチなTaylorを有名にしたのはこの俺」と【Famous】で歌い、さらにMVでは彼女にそっくりの裸の蝋人形をベットに寝かせるという演出でTaylorちゃんは大激怒するも、Kanyeの妻のKim Kardashianが「あなた、事前に聞かされてたでしょ。電話の会話もあるんだから!(この際にKimは”I have a receipt”とツイートしています。領収書=証拠という意味で使われ、話題に)」と動画でのその一部始終を公開されたり、元彼のCavine Harrisとの楽曲に関するいざこざもあったり等、印象の良くない大型ニュースが続き、それまでのクリーンなTaylorちゃんの評判が曇っていきました。
アメリカのフットボール大会の前夜祭に出てから公の場に顔を出さなくなった彼女ですが、SNSの投稿を全部削除、その後ヘビの動画を何本か投稿すると、「蛇のように這い、泥水を啜ってでも最後に貴様にこの毒牙を食らわせてやろう」と言わんばかりのゴリゴリの恨み節ソング【Look At What You Made Me Do】を公開。MVでは”Taylorの評判、ここに眠る”と書かれた墓からゾンビの姿で這い上がり、表に出てくるという演出で世間の度肝を抜きました。ちなみに蛇の動画は、Kim kardashianに「蛇みたいにねちっこくて嫌な女」と罵られたところからきているようです。
Taylor Swift – Look What You Made Me Do
同曲で「あなたの何もかもが嫌い。よくも私を悪者に仕立ててくれたね」「皆はこの世に溢れるゴシップに夢中だけど、私は因果応報のことで頭が一般。私もその報いを受けたんでしょうね。だから、次は貴方の番よ」「よくも私にこんなことさせてくれたわよね。私はもう誰も信じない。皆、私のことを信じてくれないもの。私があなたの悪夢になってやる」と、人に転ばされたら、自分を転ばせた人の足を掴んで離さないところのあるTaylorちゃんのリベンジマインドを爆発させ、同曲はYoutubeで公開されると一週間もたたずに1億回再生を突破し、新記録を樹立。Keshaの【Praying】とは違った意味で、傷付けられ、唇を噛んで悔しさに打ち震える人の心を奮い立たせ、勇気を与えてくれました。
その後はTaylorちゃんのファン同士が繋がれるSNSを立ち上げ、『Reputation』ツアーも開始。「昔のTaylorは死にました」と告げる、新たなTaylorちゃんの一挙一動から、来年も目が離せません。
【Dangerous Woman】【Into You】【Side To Side ft.Nicki Minaj】など、リカットシングルが全てヒットを記録したAriana Grandeの最新アルバム『Dangerous Woman』。そのツアーでのマンチェスター公演中、自爆テロが発生。観客を中心に22名の死者を出す痛ましい事件が起こりました。
事件を受け精神的に不安定になっていたArianaちゃんですが、マンチェスターで「One Love Manchester」と題した慈善公演を開催し、Coldplay、元OasisのLiam Gallagher、Little MixといったUKを代表するアーティストから、Katy Perry、Miley Cyrus、Pharrell Willrams、Black Eyed Peas、Justin Bieber等のUS勢も加勢。それぞれがポジティブなヒット曲を歌う中で、Arianaちゃんは親交の深いMiley Cyrusと、彼女の慈善活動団体「Happy Hippie Foundertion」の広報活動の一環として行われたライブセッションでも歌ったCrowded Houseの【Don’t Dream It’s Over】や、Black Eyed Peasと共に同グループの大ヒット曲【Where Is The Love】を歌い、公演の最後では、歌唱中に爆発が起こった【One Last Time】を観客とアーティスト達が見守る中、涙を堪え、震える声で歌い上げました。ショッキングな出来事が起こった時の歌を歌うのは、当時を思い出して怖くて悲しくもなるところもあったと思いますが、再び舞台の上に立ち、歌いきった彼女の勇気に、胸打たれました。
Ariana Grande – One Last Time (One Love Manchester)
同公演では、テロの犠牲者追悼の集会で人々が口ずさんだ、マンチェスター出身のバンドOasisの【Don’t Look Back In Angel】をColdplayのChris Martinが弾き語りでカバーしましたが、会場の人々も歌い始め、大合唱に。それだけ多くの人々が知っている曲があるというのも凄いですが、歌で人々の心が1つになる光景は、言いようのない美しさがありますね。
人は生きていると、時に苦境に陥る時があります。彼女たちにも三者三様の苦境と立ちあがり方がありましたが、一貫しているのは「このままじゃ終われない」という強い意志だと僕は感じました。そしてその意志は、同じように苦しみ、悲しみ、怒り、傷つき、涙し、それでも明日を生きることを願う強く儚い人々の心に勇気と慰めを与えるのだと思います。2018年は、2017年に立ち上がった彼女たちと、彼女たちの姿に勇気づけられた人々にとっても良い年になりますように!(沖 丈介)
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