空きっ腹に酒 – 2019.3.17 at 渋谷 TSUTAYA O-Crest

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空きっ腹に酒
空きっ腹に酒 会場限定シングル「泥.ep」リリースツアー 東京
2019.3.17 sun at 渋谷 TSUTAYA O-Crest

満員のツアーファイナル東京ワンマンで見せた
活動12年目のロックバンドのキャリアと可能性

取材・文:沖 さやこ
撮影:fukumaru

 

空きっ腹に酒は筋の通ったロックバンドだと思う。行動と言葉のズレもないし、それらがしっかりと音楽の裏付けとして存在している。ピンと伸びて張った糸のように凛々しく鋭く潔い。2作目となる会場限定シングル『泥.ep』リリースツアー唯一のワンマンであるファイナル・渋谷O-Crest公演も、頭からラストまで空きっ腹に酒の思考やメンタリティが嘘偽りなく存在していた。

skpprnsk20190317_3 満員も満員のフロア。バンドは1曲目「Have a Nice Day!!」から西田竜大、シンディ、いのまたの楽器隊によるアグレッシヴかつひりついたサウンドスケープで観客の意識をステージに集中させ、その後もフロントマンの田中幸輝が「渋谷には想像力が足りねえな」から【イマ人】、「来たな東京のご乱心ども」から【御乱心】と、ぶっきら棒ながらに巧みな口上で次々と鮮やかに曲をつないでいく。やはりマイク1本を武器にしてきたラップも歌うピンヴォーカルは、言葉の使い方がスマートで立ち姿も絵になるなあと痛感。それはスマートかつ熱のあるプレイで魅せる楽器隊がいるからこそ成し得る芸当でもある。

【音楽と才能】の曲中で田中の発した「俺はお前らと踊りに来たんだよ」という言葉に、観客はさらに熱狂する。ファンはバンドを映す鏡とはよく言ったものだが、やはり長い活動のなかで強い意志を持つだけでなく出来る限り伝えることに努めてきたバンドには、その想いを理解したリスナーがつく率が高い。

skpprnsk20190317_5 去年の12月に田中がインタビューで「ライヴはお客さんが俺らを観に来るだけでなく、俺らがお客さんを観に行っているという意味もある」と話していたが、観客たちもその想いを無意識のうちに感じているのだろう。それぞれが思い思いに自分たちの自意識でもって高揚を身体と声で表現する様子は、バンドの発する想いを全身で受け止めていると同時に非常にナチュラルだ。【夢の裾】や【ブス】などリズムが効いた楽曲では演奏がより鋭さを増していき、それにつれて観客の熱も上昇。【愛されたいピーポー】のアウトロのエモーショナルなギターソロは大輪の花火のような鮮やかさで、フロアも大きな歓声を上げ拍手を送った。

中盤のセクションでは【血が走るのがわかった】や【キョとムー】といったラップと歌メロが同居した洒落た楽曲から、【S・O・S】や【17歳の気怠い1日】といったミクスチャー的なユーモラスな楽曲へ。空きっ腹に酒はどの楽曲も歌メロがそこはかとなくロマンチックで、それを熱すぎず冷めすぎず甘すぎないヴォーカルが辿るからこそ、よりリアルに響く。ミドルナンバーの【宇宙で独り】と【映画】はその冴えたるもの。ディープでセンチメンタル、不穏でいて甘美な空間は、人間の複雑に入り組んだ感情をクリアに表していて、よりこちらの心のなかにも深く染み渡ってきた。

skpprnsk20190317_6「ワンマンはきびしいわ。(観客が)空きっ腹に酒を知ってるやつばっかりやから“コノヤロー”と思いつつも、それを超えるのも俺らじゃなきゃできないと思っておりますが、それを超えるのもお前らじゃなきゃできないんじゃないでしょうか」と呼びかけたあと「こういう煽りするの嫌いやねん」と続ける田中。その言葉すべてが本心だっただろう。自分に渦巻くすべての感情を誤魔化さない姿勢こそ、ロックバンドの美しさだ。

フロアはさらにステージ前まで押し寄せ狂騒を露にしていく。最新作収録の【MOST】は12年のキャリアあってこその経験値と、各メンバーのキャラクターが炸裂。泥のように密度と粘度の高いヘヴィなサウンドスケープの迫力が痛快すぎて思わず笑ってしまった。【ナンセンスディスカッション】ではゲストヴォーカルとして参加したニガミ17才の岩下優介と平沢あくびがステージに登場。悪ガキたちによる悪だくみの悪ふざけ感ならではのグルーヴが生まれていた。

skpprnsk20190317_4【夜のベイビー】の前奏に乗せて、ツアーに参加してくれた対バンに愛と感謝を伝えた田中は「ツアーファイナル、お前らとやりあえて良かったです。好きだぜ! 嘘やけどな(笑)」と観客にも彼なりの方法で愛と感謝を伝えた。あたたかい気持ちが通った3人の演奏、観客のシンガロング、田中がフリースタイルで捧げるメンバーやバンド、観客への想い、すべてが感動的に響く。これまでの活動が集約されるような感慨深さがあった。

アンコールでは田中のドラム&メンバーの演奏に乗せたいのまたによる物販紹介フリースタイルという茶番(?)ののち、作品が5月3日からダウンロードできることを報告する。「音楽は簡単に聴けるようになったけど、ライヴは簡単にダウンロードできないですからね。ライヴハウスに来た君たちが、僕は正解やと思うことにする。実際に目で見たことだけ信じようと思う。ダウンロードできるようになっても俺らのかっこよさは変わらんわ」と言い、シンガロングにヒューマンビートボックスを重ねたり、コール&レスポンスなどを盛り込んだ【正常な脳】など2曲を届けた。

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それでも鳴り止まないアンコールに、田中がひとりでフロアへ登場。マイクを通さずフリースタイルで心情を伝え、この日を締めくくった。彼が言っていた「バンドとしては今最高だぜ」「12年間やってきてやっとワンマンソールドアウト東京」という状況は、自分たちのポリシーを持って、様々な人々と直に向き合って自分たちの音楽を発信していくという決意が導いた結果だと思う。この日充分気持ちがいい空間を過ごせたというのに、空きっ腹に酒が面白くなるのはもしかしたらこれからなのかもしれない、なんて対極的なことを考えてしまった。それくらいこのバンドは可能性に満ちているのだ。

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◆Series column
空きっ腹に酒ゆきてるの「酒でも飲まなきゃやってられん」

◆Related article -otmg
Interview:自主レーベル設立から1年 空きっ腹に酒が考える「音楽を続けること」と「経験値」(2019.1.13 up)
Disc Review:空きっ腹に酒『酔.ep』(2018.5.15 up)

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