ロックな老人になるために――祖父母世代のエピソードを楽曲へ昇華する暴走Rの野望

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◆全然違う年代の方々からは、自分が知らないようなことや、自分にはない価値観を教えてもらえる

――「1曲1人生」というバンドのコンセプトも面白いなと思います。なかでも祖父母の代の方々のお話がもとになった楽曲が多い。

Tiny 暴走Rというバンド名ができたときに「おじいさんおばあさん世代の人たちの実話を曲にしたら面白いよね」という意見が出て。というのも、人生のなかにはドラマチックなストーリーがあったりするじゃないですか。暴走Rを結成しようと思い立つ前から、わたしが趣味で高齢の方々からそういうエピソードを聞いてきてたんですよね。曲作りはギターを弾きながら「あ、これYuukiちゃんのおじいちゃんの曲だな」「これはあのとき出会ったあのおじいちゃんの曲だな」みたいにパッとひらめいて、そこから詰めていってます。たとえば【Deep River】は街のなかでたまたま声を掛けたおじいさんのエピソードで。


Voh Soh R “Deep River” / 暴走R「Deep River 」(2nd single)

――Tinyさんのnoteによると、コンビニのイートインで声を掛けたおじいさんとのことで。

Tiny 新宿の近くを歩いていたら、道路の反対側を歩いていたおじいさんが目に入って「この人の話聞きたい!」と思って追いかけて(笑)。そしたらそのおじいさんがコンビニに入ってコーヒー買ってイートインに座ったので、「隣いいですか?」と声をかけて。

Yuuki ナンパだよね(笑)。

Tiny 怪しい人だと思われるかなあという気持ちよりも、お話聞きたい欲が勝っちゃうから(笑)。そんなふうにいろんな人に「お話が聞きたいので、聞かせてくださいませんか?」と単刀直入に切り出して声を掛けてきてるんです。最初は「俺の話? そんな人に話せるような出来事なんもないよ」と言っている人も、年齢や出身地、いま住んでいる地域、昨日の晩ご飯などなど、人によって違う質問をするんですけど、そのうちにどんどん昔のエピソードが溢れ出てくるんですよね。

vsR_202008_3――ああ、お相手も質問に返答していくうちに、熱く語りたくなるような思い出話に行き当たるというか。

Tiny 全然違う年代の方々のお話なので、自分が知らないようなことや、自分にはない価値観を教えてもらえるんです。戦争の経験、若い頃の遊び、過去にしていた仕事、少年時代の話――自分史の中心となる話題は人によって違うんですよね。【Deep River】はそのイートインで話しかけたおじいさんのしてくださった、夏の川で遊んでいたときの他愛のない話なんですけど、泣きそうになるくらい感極まって。暴走Rの曲を作ろうと思ってギターを弾いていたら川を想像させるフレーズが出てきて「これはあのおじいさんの川の歌だ」と思ったんですよね。

Yuuki Tinyさんはデモをスタジオに持ってくるとき、大枠のアレンジだけでなく楽曲のエピソードを教えてくれるので、メンバーもそれぞれイメージを膨らませやすいんです。

vsR_202008_4――歌詞で描かれている物語と音の親和性が高いのも暴走Rの特徴かと思います。【詐欺師】はどこか妖しげで、でもユーモラスで。

Tiny 実際に詐欺師のおじいさんに話を聞きました(笑)。いままでの人生でけっこう詐欺師に遭遇していて……よくごちそうしてくれた人が数千万円の詐欺をして捕まったってこともあって。やっぱり詐欺師だからおしゃべりがものすごく上手で、とにかく話が面白くて。そういう発想から、短くてスルッと終わって、歌詞では言葉遊びをして、面白い感じの曲にしたかったんですよね。妖しさと色気を出したくてベースから始めてみたり。

Yuuki キーボードも妖しいよね(笑)。

Hiro あんまり音数多くないんですけど、妖しさは意識しましたね(笑)。

――【Deep River】はおじいさんのエピソードに、Tinyさんが10代のときに読んで影響を受けた遠藤周作の『深い河』のオマージュを加えている。その1年後にはインドで開催された「ODISHA JAPAN FESTIVAL 2020」でライヴをしているなんて、お導きみたいですね。

Yuuki ほんとそうですね。Tinyさんが前に「“インドは呼ばれた人しか行けない”ってよく言われてるよね」と言っていて。

Tiny うんうん。でも【Deep River】が出来たときにガンジス河のイメージがはっきり湧いてきたので、「これならインドに行ける!」と確信はありましたね。

Tomomi 暴走Rを始める前から海外にバックパッカーとして出掛けるのは大好きだったんですけど、そのときにインドは直感的に「いまひとりで行く場所ではない」と感じて。人生でそういう機会をもらえるならそのタイミングに行けたらいいなと思いながら過ごしていたので、「ODISHA JAPAN FESTIVAL」の存在を知ったときに「これだ!」と(笑)。オーディションにエントリーして、選んでもらえてうれしかったですね。

Yuuki 本当に! インドでは結婚式にお邪魔させてもらったり、ラクダに乗ったり、ガンジス河を訪れたりして、その様子をドキュメンタリー風にして【Deep River】のMVにしています。特別な経験でしたね。

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暴走Rの考える“暴走”の概念、そして“暴走”するために必要なものとは

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